日本の取引所産業の再構築を

日本の取引所産業の再構築を

ジャスダック 社長 筒井 高志 氏



――国際競争力という観点からみると、日本の証券取引所は合併して一つにまとまった方が良いとの意見もある…。

筒井 一つにするという考えのなかにも、いくつかの選択肢があるのではないか。すなわち、本当に一つの取引所で成熟企業から新興企業までを束ねてしまう仕組みもあれば、ホールディングカンパニー制を敷いて、いくつかの子会社の取引所で成熟企業、新興企業、デリバティブといったカテゴリーごとに分けて取引するという案もあるだろう。ただ、成熟企業と新興企業とを同じ取引所で取引することは、良いとは思わない。

――米国でもNY取引所とナスダックに分かれている…。

筒井 私の考えをいえば、今ある取引所はもっと自らの特色を磨いていくべきだ。例えば、当社は新興企業向けという特色を磨く。大証であればデリバティブ、先物中心の特色やアジアに近いメリットを活かす。東証は成熟した企業の取引を安定的に運営していくことに注力していくべきだろう。そして、その特色あるそれぞれの取引所を同じCPシステムで一つにつなげることで、日本全体の取引所構造、日本の証券取引所システムということになる。また、必ずしも一つにつなげるということにならなくても、それぞれの特色を活かしながら競争していくという健全な形になる。

――特色を活かしながら競争すると…。

筒井 今の現実を踏まえると、当社が東証と同じように競争していくことは、意気込みとしては解るが、非現実的だ。このため、一つの取引所に収れんしていくのが良いのか、二大勢力にするのが良いのか、あるいはそれぞれの特色を活かし存続させたうえで、一つにつないでいくという仕組みが良いのか、模索していく必要がある。しかも、今の時代は、当局が絵を描いて命令していく方法が通用しなくなっているため、各取引所ごとにベストを尽くす中で次のステージは何が見えてくるのか、次世代の日本の取引所構造を真剣に考えていくべきだろう。

――そのなかで、ジャスダックの特色はどのように磨いていくのか…。

筒井 それはもちろん、新興企業向けの市場としてどれだけ内容のある取引所にするかということだ。当社がまだ行っていないことは意外に多く、それを色々とすることによって特色が出せると考えている。例えば、上場審査基準や上場廃止基準について当社としてどのような特色を出していくのか、考え方を常に進化していかなければいけない。また、IR支援では、地方の企業や小規模の企業でスタッフがIRに慣れていない企業でも行い易いよう、ウェブの活用をアドバイスする。同時に、新たな時代のIR基準を検討し、この程度のIRをすればきちんとIRを行ったと金融当局が認定できるよう、代表して当局と折衝するといったこともする。そして、それにより証券会社がそうした企業にアナリストを効率的に担当させることができるようにもなる。

――ジャスダックが新興企業市場としての特色を磨くということは、ジャスダックに上場した企業が成熟して今度は東証にくら替えすることも容認すると…。

筒井 くら替えはその企業の判断であり、それを当社が制限したりする性質のものではない。ただ、当社に上場していればこんなに良いことがあるということを積極的にアピールしていく必要はある。例えば、その企業が成長イメージを持ち続けていきたいということであれば、むしろ当社に引き続き上場していた方が良いというようなこともあろう。当社は、その企業での年齢ではなくて、いつまでも青春の気持ちを持ち続けている企業が上場している取引所であるというブランドを大切にしていきたい。

――そういう観点からみても、東証に問題企業を上場させてしまうマザーズがあることが理解できない。西武の問題やカネボウの処理など、今の上場企業の品質を維持すべく行うことはいくらでもある。

筒井 確かに今のマザーズは中途半端だ。新興市場をつくっていこうというのなら、もっと徹底してそれに特化していくべきだろう。「東証一部に指定変更し易いからマザーズへどうぞ」といった程度の誘致の仕方をしているとすれば、あまりにも中途半端であり、そもそも企業に誤解を与える。というのは、ジャスダックであろうと、ヘラクレスであろうとマザーズにせよ、くら替えの際の上場基準は同じだからだ。また一方で東証は、マザーズに東証ブランドをかけて上場を誘致しているかといえば、東証といえば一部と二部のことでマザーズは別の市場だといった扱い方をしている面もある。

――そうした東証に対し、最近は政治家を含め、批判が相次いでいる。

筒井 ある意味で、今の日本の証券取引所が置かれた現状は、東証だけが代表選手であり、何もかも東証に求められ、その東証が行ったことを「右ならえ」ということで、他の取引所も求められるという展開になっている。しかし、先ほど申し上げたように、もっと他の取引所も特色を出して自らの意見をきちんと主張すべきだろう。今までは、当社も含め他の取引所は東証の下位の存在といった位置づけであったが、今後はそうでなくて、自分の考えをきちんと出せるか出せないかということで勝負をしていく必要があろう。また、そうでなければ、今の時代では存在意義が見いだせないし、同時に、他の取引所が競争相手にならないため東証が安心してしまう結果、日本の証券取引所業界が停滞していくといった事態になりかねない。

――特色ということになると、上場審査は各取引所ごとに行った方が良い…。

筒井 その通りだ。確かに利益を上げる経営と、自主規制をきちんと行うことには異なった「ものさし」が必要だが、取引所ビジネスにおいては、自主規制をきちんと行うことは、上場企業の品質保証につながるため、自主規制と経営がまったく分かれて良いということでもないと考えている。この点、今、求められている自主規制は何なのかということを改めて考えてみると、証券会社や投資家の行動を監視すること、上場してきた企業を監視すること、上場審査や上場廃止を判断すること――など同じ自主規制でも種類の異なるものがある。このうち、証券会社や投資家を監視するのはどの取引所でも証取法上の同じ視点で良いと思うが、上場企業を監視することは上場企業ごとに性質が異なることから、取引所ごとに違った基準で良いのではないか。

――確かに成長企業と成熟企業とでは異なった基準が必要だ…。

筒井 例えば、数十人規模の成長企業に、数千人の成熟企業と同様なディスクロージャーを求めてもそれは難しいし、非現実的だ。別のディスクロ基準を定めて、その代わりそのリスクと基準を明確にし、きちんと企業に守らせる。すべて同じディスクロ基準の方が良いという考えは健全ではないし、上場基準に至ってはむしろ取引所ごとに違っていなければ日本の取引所構造を考えるうえでもおかしなことになる。このため、自主規制においても取引所ごとに考えるものと、全取引所に共通したものとをきちんと分けて議論し、再構築することで、日本の証券取引所産業を世界に負けない産業にしていきたいと考えている。