国際化と監査実務の充実を推進

国際化と監査実務の充実を推進

日本公認会計士協会 会長 藤沼 亜起 氏



――会長に就任されて一年間を振り返ってみると…。

藤沼 私が就任して一番のテーマとして掲げたことは、監査実務の充実だ。公認会計士業務はいろいろあるが、やはり会計監査が核となる業務であり、これについては公認会計士の独占業務として、法律にも定められている。逆にいえば、法律に定められている分、監査人としての社会的使命や責任が重いということで、まずこの業務の充実を推進してきた。おかげさまで大手銀行の不良債権問題も峠を越し、日本経済も回復軌道に乗ってやれやれと一息ついたところに今度はカネボウなどの粉飾決算問題が浮上した。

――会計士の監査はどうなっているんだと…。

藤沼 カネボウのケースは長い間、経営陣が粉飾決算を指揮していたと報道されているが、その間、会計士がどのように関与し、あるいは見逃していたのかということについて社会の批判が強いことは十分に承知している。それだけに、われわれはこれにきちんと対応していくべきであろうし、その意味においても監査業務を一層充実させていく必要がある。

――具体的には…。

藤沼 充実させるにはどうしたらいいのかを検討するに当たって、昨年、監査時間について国際比較をしてみたが、日本では監査に費やす時間は海外の半分ないしは三分の一しかないということが判明した。つまりわが国の監査実務において、もっと時間をかけなければ、十分に深度のある監査は出来ないのではないかというところからスタートし、内容別の分析を行った結果、最も時間格差が顕著なのはITコントロールを含む、内部統制の評価にかかわる部分であった。

――金融庁が内部統制の枠組みについて公開草案を発表している…。

藤沼 金融庁の公開草案は、内部統制監査を行う際に非常に役立つものになると歓迎している。経営者による内部統制の評価が妥当なものであったか否かを監査人が検証する内部統制の監査制度を是非とも制度化していただき、監査実務の充実を推進していきたい。

――一方で市場のグローバル化も進んでいる…。

藤沼 グローバル化の進展により、投資家が会計制度の同質化を求めており、これへの対応を会計制度及び監査制度の両面から迫られている。例えば、日本株の海外投資家の持ち株比率は四分の一ぐらいを占めるようになっており、売買高のシェアでは半分くらいにまで上昇している。そうなると、日本の会計や監査基準、あるいはディスクロージャー基準がなるべく海外と同等でないと用が足りなくなってきている。これは、日本の投資家が海外株式に投資する際においても同様だ。

――グローバル化に伴って、会計基準の同等性が求められている…。

藤沼 私自身、以前に国際会計士連盟の会長をやっていたこともあって、海外と日本との同等性をできるだけ早く確保していく必要があると考えている。これは、グローバル化への対応だけではなく、今の日本が置かれている状況、すなわち間接金融から直接金融へのシフトを進めていくためにも必要だ。また、日本市場に透明性があって信頼性が高いと言うことであれば、アジア諸国の企業も積極的に日本に上場してくるであろうし、そうなれば中国との差別化も進む。その意味では大変なことではあるが、会計基準と監査基準の海外との同等性をさらに推進していく必要があると考えている。

――日本の会計基準は、日本の商慣行を反映している分、日本のメンタリティが反映され、合理的でないようなところがある…。

藤沼 色々な見方があるが、日本の会計はやはり税務会計の影響が色濃い部分があるのではないか。税法規定を会計でもそれなりに容認しているため、本来あるべき姿になっていないという部分が目立つ。例えば、かねてから問題視されているリースの会計処理は、欧州証券規制当局委員会(CESR)が今回行った同等性の評価では、財務諸表に記載されていなくとも注記事項に記載されていればそれなりに判断できるということになった。しかし、それは日本の事情を勘案し、CESRが親切心(笑)で言ってくれているのであって、これをこのまま放置していては日本の会計基準が海外と比べ大きく遅れることになる。にもかかわらず、CESRがそれで良いと言っているのならばリース会計を見直す必要はないとの意見が大勢となってしまう困った状況が日本にはある。

――先ほどの内部統制の評価やその監査について、実効性のあるものができるのかという点が気になる…。

藤沼 内部統制が機能しなくなる一番多い例は企業の経営者が内部統制のシステムや組織があるにもかかわらず、これを無視して経営してしまうことだ。つまり、コーポレートガバナンスと内部統制が両方ともにきちんとしていて、経営者が内部統制を尊重するのであれば、これは良い会社ということになる。しかし、米国の例をみると、監査に耐えうるような内部統制制度の詳細についての文書化やシステム構築にお金がかかりすぎるという問題点も指摘されている。とはいえ、内部統制を企業内で再構築する過程で、会社の中をつぶさに観察してみると、各部署ごとにバラバラの内部統制が行われているとか、あるいはこの際にコンピュータ化していこうといった問題意識に到達する。その結果、良い内部統制を構築すると、企業の合理化や効率化に役立つことになる。

――なるほど、コスト倒れにはならないと…。

藤沼 実際、内部統制を再構築した大企業の担当者の話によると、今までバラバラだった内部統制をその会社流に統一することで効率的な子会社への指示が可能になり、その結果、子会社の正確な財務データが親会社に報告されることになったということだ。このため、今はコストがかかることばかりに目がいっているが、全社レベルで業務処理が統一され、効率的になるというメリットがあるということを企業の方々は考えてもらいたいと思う。

――会計士の仕事が増えるだけではないと(笑)。

藤沼 日本人は組織だって何かを行うことは苦手なようで、内部統制の構築にしてもその場限りでバラバラな対応をしてきたような印象を受ける。そうしたところを改めて内部統制を見直すことで、手続きを統一し、合理化すれば良いと思う。

――会計士の品質管理については…。

藤沼 われわれは五年前に日本公認会計士協会の自主ルールとして監査事務所の品質管理レビューということを始め、会員の指導・教育を開始した。そしてその後に公認会計士法が改正され、金融庁に公認会計士・監査審査会が設立されて、協会が行う品質管理レビューをモニタリングするという仕組みが導入された。この結果、今まで会員の指導・教育を主眼として行ってきたこともあって、外部の目から見るとまだいささか甘い点が指摘されたため、レビュー担当者を二倍に増員するなどして品質管理を一層強化するように務めている。また、四大監査法人は規模の大きさもあってそれなりに品質管理を行える体制も整っているが、大部分の監査事務所は中小規模であるため、事務所の中に品質管理のための内部管理体制を完全につくるのは無理がある。このため、中小の事務所が外部に依頼できる委託審査制度を導入したり、IT監査ができるよう人材を紹介するシステムを考えており、そうした中小事務所向けの対応を一括りにした、中小事務所等施策調査会という会計士版の中小企業庁を創設するべく検討を行っている。