組織や事業の硬直化が問題

組織や事業の硬直化が問題

ローンスタージャパン アグイジッションズ 会長 久保田 勇夫 氏



――日本の景気が少し良くなってきているようだ…。

久保田 私は五月ぐらいから、回復してきたという感じを持っていた。これは、不良債権問題が予定より早く片づいてきていることに加えて、これまで下がり続けていた消費者物価に上昇傾向が見え始めたためだ。不良債権は大きな不安定要因であるとともに、消費者物価の下落も目に見えない不安定要因だ。たとえば、物価が下がっていると、売り上げが昨年と同水準であれば売り上げは増加したことになるはずが、一般的には売り上げが伸び悩んでいると受け止め、悲観的なとらえ方をしてしまう。となると、設備投資も行わないというように悪い方向に経済が進んでしまう。

――なるほど、二つの大きな不安定要因が無くなってきたと…。

久保田 それから最近では、路線価も反転してきている。ただ、単に土地が値上がりしたということでは経済にとってあまりプラスではない。大切なのは、個々の土地がその生産性を反映した地価になっているかということだ。ゆえに、不動産の証券化ということが重要で、証券化によりそれがより明確になる。こうした証券化も日本で行われるようになり、バブル崩壊で塩漬けになっていた土地にどうにか経済原則が働くような価格になってきたということが大きなプラス材料だ。

――確かに東京の土地の売買が活発になってきており、いわゆる虫食い土地が有効活用されるようになってきている…。

久保田 私が国土庁の次官だった時に、不動産証券化の報告書をまとめて、その需要と供給を反映した地価になるようにすべきだと主張してきた。そして、合理的な資金が流れ込むような市場造りを提言してきたが、ようやく、上場型不動産投資信託(REIT)なども根付いてきて、合理的な価格を形成するようになってきた。ただ、土地の個々の取引価格がまだ公表されてないのは遅れている点だが、それも近い将来、公表されることが決まっている。やはり、株でも為替取引でもそうだが、およそちゃんとした市場が形成されるためには、価格が明示されるべきであり、そうでないものは市場の健全な発展が期待できない。

――一方、日本を取り巻く国際金融情勢は…。

久保田 昨年、日本生産性本部のEU金融調査団の団長を務め、報告書をまとめ、またこの七月、フランスでの国際金融会議に出席し、併せて要人と会ったが、EUの状況はよほど注意しなければいけない。というのは、彼らは「金融産業の一本化」ということで、団結して必至に金融業の育成に努力している。EUはたくさんの国の集合体であるため、米国のようには一気呵成にはいかないが、分野によっては相当に進んでいる。これに対しわが国では、銀行、証券、保険とそれぞれ業界が分かれていることや、今の財務省や金融庁は昔の大蔵省と違って業界を指導して調査を行うといったこともしないため、そうしたEUの展開を見逃してしまう恐れがある。EUの動きを調査しキャッチアップするのは一つの政策課題であろう。

――中国の人民元の切り上げについては…。

久保田 中国の実力については、多くの人がやや過大評価しているとみている。また、人民元の切り上げについては、通貨バスケットの活用の仕方が不透明であることや、二%の切り上げにとどまっていることなどからして、抜本的な改革とは言い難い。しかし、今の中国にとって二%の切り上げは大変に勇気のいる決断であっただろう。というのは、国内派からの強い反対を押し切って切り上げたわけで、これが短期間に再切り上げといった事態になったとしたら、再び国内派から強い批判を浴びることになる。このため、仮に再切り上げをするにしても一年後ではないか。

――そもそも人民元を切り上げる意味があるのかという意見もある…。

久保田 再切り上げを行わなくても、中国自身は当面は何とかやっていけると思う。というのは、今の中国のことを日本のニクソンショック時に重ね合わせて議論している向きもあるが、当時の日本は今の中国とは異なり相当自由化されていた。今の中国はまだ資本取引が自由化されていないため、中国政府はかなりの部分、海外との資本取引をコントロールできる。このため、二%の切り上げが経常収支の黒字幅からみて不十分という評価はできるが、だからといって何か支障をきたすかというと、外交面以外では問題は起こらないだろう。

――人民元の本当の実力も掴みにくい…。

久保田 おっしゃる通り。本当に自由化したら、人民元が果たして何ドルになるのかということが見通し難い。不良債権はかなり多いし、公的債務の比重は高いし、経済統計にも信頼性が薄い。さらに、計画経済は放棄し、市場経済もまだ未熟という状況では、仮に人民元を変動相場制にしたところで案外、それほど高くはならないかもしれない。

――話は不良債権処理に戻るが、処理する過程で日本にも種々の金融技術が根付いた…。

久保田 不良債権の処理のために、いろいろなことを積極的に行ってきた。たとえば、産業再生機構も、当初はその事業の規模について過大な期待があった。ただ、政府がそうしたものを設立して、不良債権処理はとても重要なものであることを国民に知らしめた意味合いは大きかった。また、日銀による株式の買い入れや、当座預金残高を三十兆円以上に膨らませていることも経済的にどの程度意味があったのかという見方は可能だ。だが色々な政策を総動員し、国民に不良債権処理の重要性を訴えたことが、処理を速める効果を生んだのだと思う。

――M&A、不良債権処理、ハゲタカファンドなどに対する評価が大きく変わってきており、四、五年前までの悪いイメージから、今では効率化のために必要不可欠なものという良いイメージに変わってきている…。

久保田 確かにそうした面はあるだろう。世界的にみればまだまだ遅れてはいるが、業界によってはずいぶんと進んでいるところもある。日本の業界は、自動車業界など大変な競争を勝ち抜き、外資の参入が難しいところと、逆に大変に遅れている業界とに二極化している。遅れているところに進んだ外資が参入すれば、効率化や活性化が進められることになる。

――今後、経済政策として執るべきことは…。

久保田 最大の課題は財政再建だ。しかし、もう一つの大きな問題がある。それは、日本経済、とりわけ大企業が抱える問題だが、組織や事業の硬直化だ。問題に対する対応のスピードが遅いということを、民間で働いている今現在強く感じる。一概には言えないが、組織の緊張感、その内部での仕事のスピードの速さでは霞ヶ関のほうが上ではないのか。もちろんそうでないところもあるが…。

――大企業もお役所も巨大組織ゆえに緊張感がなくなっている…。

久保田 それに加え、セクショナリズムというか、人を評価する時に人物や個々人の能力に依らずして、男女の別やどの系列の人であるかとか、どこの業界や学校の人であるなどで評価する。ひどくなると旧官僚だからだめだという。逆に言えば、そうした非効率的なことで人の配置が決められているとすれば、これをやめれば日本経済は大変に活性化される。そう考えると日本もそう捨てたものではない。終戦直後の食うや食わずの時の必死さを取り戻せとはいわないが、せめてその半分ぐらいのひたむきさがな欲しいし、そうなればますます結構だ