団塊の世代が中心の健全な市場に

団塊の世代が中心の健全な市場に

松井証券 社長 松井 道夫 氏



――当面の経営課題は…

松井 一つは会社のスリム化だ。例えば、総合証券化というようなことはまったく考えていない。今から総合証券化をしたところで、先行の大手証券には太刀打ちできない。世の中が情報化社会になり、顧客のニーズがめまぐるしく変わっていくことを前提にして証券経営を考えると、やはりフットワークが軽くなければ変化に対応できない。利益を出すことは大事だが、大きくすることで身動きが取れなくなる状況をつくるべきではない。

――総合証券化ではなく、一つに特化していこうと…

松井 特化すべきはブローカーだ。ブローカーに特化すると収益の安定性に欠けるという指摘もあるが、それは違う。証券界の将来を展望するとブローカー業務もなくなる可能性はあるが、そうはいっても今はブローカーが一番収益性が高い。このため、そこに特化して余分なことをしないことが一番利益が出る。しかし、こうした考えは一般的にはあまり理解してもらえない(笑)。このため、それならブローカー業務で思い切り利益を出せばよいだろうというと、利益は関係ないという人もいる(笑)。

――最近の新規上場の例では、利益が出ていなくてもインターネット関連やバイオ関連と言うだけで高い株価がつくというケースが出ているが、市場本来の姿とは言い難い…

松井 バブルの時にほぼ全員が勘違いして、収益性の低いものを高値で買い上げていった失敗を、再び繰り返しているようなところが最近の傾向にもある。あれだけ痛い思いをしたにもかかわらず、まだ懲りていないのかという感じだ。やはり、企業の価値は利益をどれだけ生み出しているかが大事で、収益よりも将来性を重視する考えには組みしがたい。今の新規上場株を巡る騒ぎは、日銀の量的緩和政策による個人を中心とした金余りが起こしているもので、健全な市場とは少しカイ離している。こうした市場を利用して、個人からお金をだまし取ろうという輩も目立ってきている。

――やはり、スリム化して利益を出していくことが大事であると…

松井 オンライン証券は過当競争になってきていると言われているが、われわれはそうした見方はしておらず、二極分化しているとみている。一つは、イー・トレード証券と楽天証券を中心としたデイトレーダーが顧客の証券会社。この経営形態は手数料をいかに安くするかが勝負で、回転売買を行うために顧客は一円でも安いところにシフトする。その回転売買で取り上げられる銘柄は、収益性といった投資判断ではなく、もっぱら話題性や新しさといった判断であるため、知名度が低い企業がほとんどだ。

――なるほど。パチンコをしているのとほぼ同じような感覚でデイトレードしているわけで、投資判断は値が動くか動かないといった単純なものだ…

松井 これに対し、当社で売買されている銘柄は、ソニーや松下電産といった銘柄が多く、きちんとした投資判断の下で行われていると自負している。また、手数料引き下げ競争の結果、当社からイー・トレード証券や楽天証券に顧客が一部シフトしたが、当社の収益は依然としてネット証券の中で一番だ。今年の四〜六月の収益をみて、前年同期比で悪化したから松井は下り坂だという人がいるが、前年同期の収益が急速に伸びた反動が今季に出ているだけで、収益性は相変わらず他のネット証券より高い。

――なるほど。次なる策は…

松井 やはりIPO(新規上場)だ。手数料を極限まで下げてしまったネット証券は、他に収益性の高いところを目指してIPOの業務に進出してきている。しかし、彼らは引受手数料収入が欲しい一方で、引受審査能力が低いため、かなりおかしな銘柄を上場させてしまい問題になっている。残念ながら引受審査においては大手証券にはかなわない。とはいえ、新興市場といわれるジャスダック、マザーズ、ヘラクレスなどの売買シェアはわれわれネット証券が九〇%以上を占めている。これに対し、大手証券によるIPOの引受シェアが九八%であることを勘案すると、やはりこのIPO業務でシェアを伸ばすべきだと考えるのは自然なことだ。

――何か良い手は…

松井 例えば、引受審査や主幹事は大手証券が行って、販売はネット証券が行うといった方法がある。しかし、この販売手数料を全額お返しする方針を打ち出したとたんに、他の販売証券がいやがり、当社を仲間はずれにし始めた。当社の方針は、当社に販売シェアの二〇%を与えてくれれば、その販売手数料は全額、発行体にお返しするというものだ。しかし、そうなると、高コスト体質、あるいは手数料を極限まで下げているネット証券では採算が合わない。

――なかなかうまくいかない…

松井 そこで私は最近の記者会見で、IPOの主幹事を獲得すると宣言した。しかし、当社に突然、審査能力が付いたわけではないので、審査能力のある会社と結んで主幹事を獲得していこうと考えている。そしてその場合、審査主幹事と販売主幹事を分けて、販売主幹事は当社が行う。同時に、販売手数料が大きい一方で審査主幹事はコスト割れのリスクを伴うことから、われわれの販売手数料の一部を審査主幹事に返すことを考えている。

――それならうまくいきそうだ…

松井 当社に主幹事を要請してくる企業は数多くある。これを主幹事証券に紹介し、当社が販売を行い、販売手数料をお返しする。こういう仕組みを説明しているにもかかわらず、ただ闇雲に「松井はけしからん」という証券会社が多い。確かにいたずらに手数料をゼロ円にするということであればダンピングということで問題はあろうが、それなりの理にかなっているはずだ。むしろ、このアイデアに反対している証券会社のほうが旧来の考えにとらわれていると思う。

――どうも松井社長の考え方がきちんと報道されていないきらいがある…

松井 これは常日頃の私の発言にも責任はあろう(笑)しかし、報道する側もやや勉強不足だ(笑)。私は単なるデイトレーダーだけの株式市場ではなく、団塊の世代を中心にした健全な市場に育てたいと考えている。そうでなければ、資本市場は大変おかしな市場になってしまう。今のようなデイトレーダー中心の市場が今後も続くようであれば、これは日本経済にとってもマイナスだ。今の市場が終えんを告げたときに最後に割を食うのは個人投資家だ。そうなると、バブルの二の舞で、また個人投資家の株式投資熱が冷めてしまう。

――今の売買シェアを持って、IPO以外の商品を取り扱う考えは…

松井 当社のプラットフォームを使って商品を紹介することは考えているが、販売するということ、売りつけると言うことは考えていないし、十年前にこれを行うことをやめている。それは戦後六十年間、証券会社が個人に株や投資信託を販売することで、どれだけ個人の信用を失ったかを考えれば明白だ。必ず儲かる商品は世の中にはなくて、あくまで投資家がリスクとリターンを判断し、われわれは商品を紹介する役割に徹することが本来、証券会社のあるべき姿だ。この点、商品を組成する力のある大手証券は新商品をつくっていけば良いし、われわれは紹介するという役割分担をしていけばよいと考えている。