意義大きい新会社法の施行

意義大きい新会社法の施行

大和証券グループ本社 取締役副会長 清田 瞭 氏



――来年、新会社法が施行される…。

清田 今まで単独で「会社法」という法律はなく、商法第二編や、商法特例法、有限会社法などのいくつかに分かれていた。これらを一本化して今回の「会社法」という名の新しい法律(以下 新会社法)ができた。明治時代に出来た『番頭』『手代』などの用語を含んだカタカナ書きの商法をグローバル化時代に合わせて言葉や内容を現代化した。時代に合わせて少しずつ変えてきてはいるが、結局、個別に対応してきたために、それらを体系化して整理してはいなかった。結果、直近のように会社をつくるにあたって、持ち株会社制度が認められたり、連結決算時代に入ってくると、現行の法制では対応できない。M&Aや組織再編等、時代の変化に伴い、今、最も求められている法律的な規定が今回大幅に整備された。

――新会社法の最大のメリットは何か。

清田 今回の改正点はいろいろあるが、話題となったものとして、三角合併を可能にする「合併等の対価の柔軟化」がある。この改正により合併される会社の既存の株主に対価として自社株以外のものを与えることが可能になる。企業がグローバルな活動を行っている現在、外国の企業が日本の企業と合併や買収をしようと思っても今は不可能だ。もちろん、国内法に基づき日本国内に一〇〇%子会社を作り、その子会社に日本企業を吸収合併させる方法は考えられるが、この場合、日本企業の株主にその子会社株式を与えることになるので一〇〇%の資本関係を維持できなくなってしまう。今回の新会社法の下では、子会社に親会社である外国企業の株式を持たせておき、合併に際して、当該日本企業の株主にその親会社株式を与えることができるので、一〇〇%の資本関係を維持したままでの買収が可能となる。これに対して、外資系が日本企業をハゲタカのように買収するのではないかという怖さを吹聴する人がいて、来春、施行される新会社法の中でも、この合併等の対価の柔軟化は更にもう一年先延ばしになってしまった。もちろん、一年遅れたとはいえ、これが実現することで、今後、海外企業から見て魅力的な日本企業を取得したいという場合にそれが可能になるということは重要な前進であることは間違いない。

――M&Aがしやすくなることも大きい…。

清田 新会社法では組織再編が非常にやりやすくなる。ただ、それによる敵対的買収等の弊害が増えてしまうのではないかという懸念から、買収に対する防衛策を急きょ導入したいという経営者もでてきた。一方、「フジテレビやニッポン放送が採用した防衛策は過剰防衛、経営者の保身を目的にしたものだ」という指摘があった。買収に対する防衛策には様々な論議があるが、買収する企業にもされる企業にもそれぞれの株主がおり、その双方の株主にとって、その買収がプラスであるかどうかが大変に重要な判断基準である。特に買収される側の企業の株主利益は軽視されがちであるので、その買収が被買収企業の株主価値や株主利益の向上に結びついているのかどうかを適正に判断する極めてわかりやすい法的な土壌を作りましょうという流れが出てきている。東証は市場の管理者の立場から、上場会社に一定のガイドラインに反するような防衛策を自粛するように求めている。法務省や経済産業省では合同で、株主価値・企業価値の向上や株主の意思の反映、本当に必要で相当な防衛策なのかどうか等といった三つの要因をチェックしたうえで防衛策を作るという三原則を掲げている。いざという時に、株主のためにベストな選択を妨げるような防衛策は望ましくないという話だが、いずれであっても敵対的買収が仕掛けられてからバタバタするのではなく、平常時に準備をしておくべきということだ。

――持合いをやめると敵対的買収に晒されることになり、過剰なことをやると保身だと言われる。

清田 株主に経営を任された経営者が企業として持っている資本・技術・人材といった経営資源の活用を怠っていれば、株価は割安になり、割安だから第三者が買いに来る。そうであれば現経営陣に任せるよりも買ってもらったほうが良い。それなのに、変に過剰防衛をやられると株主価値向上のチャンスを逃すことになる。TOBといえば、最近、夢真ホールディングスによる日本技術開発へのTOBが話題になった。このケースでは、TOBアナウンス後のTOBの取り下げやTOB条件の変更の是非が論議となったが、株式分割は、現行のTOBルールの下では、買収者に致命傷を負わせるほどの効力を有しているだけに株主の利益、企業価値の向上に役に立つかどうかという視点を忘れて防衛策として利用すると『劇薬』になってしまう。この点が金融庁にTOBルールの見直しを促した理由だ。基本線としては、ポイズンピル等の導入に際しても、平常時にきちんと決めておきなさいということだ。

――新会社法では、よりポイズンピルが導入しやすくなった…。

清田 新会社法の下では、新株予約権や、種類株式(議決権制限株など)を用いたポイズンピルが導入しやすくなる。取得条項付新株予約権、取得条項付種類株式などの制度を活用できるようになるからだ。さらに複数議決権付株式や拒否権行使可能株式といったいわゆる黄金株(一定の決議事項に拒否権を行使できるなどの特権を有する株式)が発行しやすくなる。イギリスでも、国有企業が民営化されたときに黄金株を残した例もあり、日本でも今後極めて重要な政府関係機関が民営化された時、それが認められるようになるかもしれない。

――今後株式を買おうとする際、今見ているような普通の株式なのか、それとも特殊な性質を持った株式なのか注意する必要がある…。

清田 普通、株というものは、これから上がりそうか下がりそうかだとか、業績が良いか悪いかなどで売ったり買ったりするものだったが、これからはそういった株式の種類のことまできちんと見ておく必要が出てくる。ただ東証は黄金株については極めて否定的だ。新会社法上で使いやすくなったとしても、取引所の上場ルールなどで望ましくないとして制限される場合も考えられる。さらには、裁判所が株主の権利を侵害するといって否認するものも出てくるかもしれない。法的に可能であるというものとそれを現実に市場が許容するかどうかは別物と考えなくてはいけない。

――法改正で自由なことが出来るようになると資本市場への流れがもっと加速する…。

清田 貯蓄から投資、間接金融から直接金融へといった動きが出始めている。ペイオフの影響は、我々の予想以上の動きだ。預貯金から投資信託や国債への投資が増加するなど、資金シフトが目立ってきている。

――今後、小泉政権のもとで構造改革が進めば、小さな政府、官から民へと変化する中において証券界も、さらに活発化するのでは。

清田 郵政公社は十月から一部の郵便局で投資信託の販売を始める。低金利時代が長く続き、投資家はリスクを取り始めてきている。全国にネットワークを有した郵貯のチャネルによって投資家のすそ野が広がることは、証券界にとっても非常に意義がある。また、民営化により、郵貯資金の運用もこれまでの国債や政府保証債一辺倒の運用から融資や社債・株式等へと多様化し、合わせて個人金融資産が官から民へ、そして財政投融資の世界から民間金融・資本市場に流れるようになることは、まさに構造改革であり、効率的な資金の活用は日本経済の発展にもつながっていくであろう。