徴税も、新会社法への対応必要

徴税も、新会社法への対応必要

財務総合政策研究所長 森信 茂樹 氏



――新しい会社法で注目される点は…。

森信 私は、アメリカの資本主義をグリーディー資本主義と呼んでいるが、アメリカでは、そのグリーディー(強欲)さを上手く、きれいな形で商法や税法に焼き直している。日本が新しく会社法を導入するにあたっては、その背後にある『グリーディー』という本質を見抜いたうえで導入しないと、結局、創業者利得などを全部アメリカにとられてしまう。

――金融ビッグバンでも同様なことが起こった…。

森信 また、アメリカは、企業会計と税務会計が分離している。それぞれの会計を全く独立してやっているために、企業会計上では、会社経営者はなるべく利益を多く出したいと思う。株価が上がることによって自分たちの報酬も上がるだろうというインセンティブで働くからだ。一方で、税務会計上は、利益を圧縮して税率を低くするといった、違ったインセンティブで働く。これがタックスシェルターを生み出す大きな原因となっている。一方、日本では、今まで商法、企業会計、税法が三位一体という形だったが、だんだんと商法はアメリカ型になり、企業会計は国際会計基準に引きずられる形で、税法は公正な課税と、それぞれの距離が離れつつある。投資家のため、債権者のため、公平な課税のためと、それぞれ相手や目的が違ってきてはいるが、アメリカほどは、まだ離れていない。今、アメリカでは、まさにこの部分がコーポレートガバナンスの観点から問題になってきている。企業会計上では利益が多いが、税務会計上は利益が少ないとなると、どこかおかしいのではないかと、SECとIRS(内国歳入庁)がいろいろと共同して調査、指導している。ブックタックスの差が一定の水準よりも開いているものは、一応、タックスシェルターと見なして登録させ、更にコーポレートガバナンスの観点から、後からフォローできるようにしている。ブックとタックスの差が大きいと、経営者は差額を使っていろんな事が出来る可能性が高いのではないかということも研究されていて、それをきっかけに、会社を見る際にはガバナンスとしてとらえていこうという動きが見られる。

――なるほど。企業会計と税務会計の差が節税行為を生む土壌となっている。

森信 アメリカ企業の法人税の実効税率は、この十年に一〇ポイントほど落ちている。九四年には三二・三%あった実効税率が、〇四年には二二・八%に低下している現状だ。一方、法人税率は三五%と変わっていない。アメリカの企業は、法人税率は一定にもかかわらず、その利益の一部を、税金のかからないような形にいろいろ工夫してやってきたということだ。代表的なものは、先に述べた『タックスシェルター』と呼ばれるものだ。日本では租税回避商品と訳され、伝統的なものは、加速度償却制度と利子控除という二つを組み合わせて損失を多く出すやり方だ。今まではそうして利益を圧縮するということをやってきたが、最近は、もっと先端的な、頭を使った租税回避が起きている。ひとつは、デリバティブ(『プット・コール・パリティ』)を使って株を債券にするというもので、株式とプットコールを組み合わせて、債券とコールオプションにするやり方だ。債券は発行したら投資家に利子を払うが、この利子分は損金として計上される。一方、株式においては、投資家に対して配当金という形で還元するため、利益処分となり、これは税がかかる。デリバティブを使うことで、税の扱い方を容易に節約できる訳だ。こういったものが、アメリカでは金融商品としてたくさん存在し、実際、アメリカの企業が買っている。日本でも会社法が変わることで、資本と利益が融合、相対化し、種類株式が多様化するだろう。優先株や劣後債といった株式と債券の中間のようなものも出来てくる。そういうものが、税制上の取り扱いにおいて大きな違いを生み出していくだろう。また、もう一つ代表的なものには『コーポレート・イン・バージョン』というものがある。これまで企業が課税を回避するために、タックスヘイブンに子会社をつくり、そこに利益を留保するということが行われていたが、最近は親会社をタックスヘイブンに移すという動きが出てきている。まず、タックスヘイブンに会社をつくり、もともと存在していた会社の株式を、タックスヘイブンに新たにつくった会社と交換するというもの。これまでの本社が吸収合併されるという形で子会社化し、組織再編税制を使って課税が発生しないようにするものだ。今のアメリカの税制では、アメリカ国内で稼いだ所得にしか課税できないため、こういった方法を取る動きがみられる。そんな中で一番大きな問題は、会社の本当の価値である著作権、特許権といったものが国外に出て行ってしまうことだ。例えば、タックスヘイブンであるバミューダに本社を移した米多国籍企業について、その子会社が日本にあったとすると、日本からその多国籍企業に払うロイヤリティは、アメリカの会社には行かずにバミューダに行ってしまう。そうすると、アメリカ当局から課税が離れてしまう。こういったことが積み重なって、アメリカの実効税率が落ちている訳だ。

――それに対するアメリカ当局の動きは…?

森信 現在、アメリカでは、バミューダに本店を移したとしても一〇年間はアメリカの企業とみなすというような対応をしているが、実効税率が落ちていることをみれば、全部にうまく対応できているかどうかは疑問なところだ。だからこそ、日本は、こういった制度を新しい会社法でとりいれるにあたって、事前にきちんと対策しておかなければならない。

――日本の実効税率も、減税の影響により以前と比べてかなり下がっている。このため、政府は再び法人税を上げようとしているが、そうなると、今度は日本企業がタックスヘイブンに会社をどんどんつくるようになるのではないか?

森信 日本の企業風土、レピュテーション(評判)という問題もあり、そういったことが簡単に起きるかどうかは不明なところだが、国際市場で競争している現在において、いずれは、同じようになるのではないだろうか。実効税率をさげるという圧力が相当出てくるだろう。そういった部分において、先に話したタックスシェルター、その他の手法が出てくるかもしれない。

――シェルターの検討は…。

森信 平成一七年度の税制改正で、ある程度対応したが、もっと、根本的な、汎用性のある対応が必要だと思う。

――具体的なアイデアは…。

森信 私が以前から提案していたことは、個人所得税において、資本所得と勤労所得を分けるというものだ。この二元的所得税とは、資本所得の中ではいろいろな損益を通算できるようにしようとするものだが、資本所得と勤労所得の間には壁を造って、そこの相殺は認めないというものだ。今のタックスシェルターは個人ベースで言えば、金融所得の損失と事業所得を相殺する形で利益を圧縮している。だから、その間に線をいれて、きちんと分けなければならない。法人については、PALルール等の整備が必要だ。

――日本もアメリカも、どんどんその方向に進んでいる…。

森信 進まざるを得ないだろう。企業の税というのは一つのコストであり、それを可能な限り削りたいと考えるのは共通のインセンティブだ。重要なことは、競争世界においてはアメリカと制度を同じにしなくてはならず、今、日本でやっとそれが出来るような商法になりつつあるということだ。税当局としては、米国のような事態にならないよう今後も引き続き、しっかり検討していかなければならない。