ミドルとリテールに軸足で好循環

ミドルとリテールに軸足で好循環

新光証券 社長 草間 高志 氏



――新光証券の立ち上げからここまでを振り返って見ると。

草間 必死の五年半だった。まず、当初は次の時代における総合証券会社のビジネスモデルがどうなるかはっきりと見えてこなかった。金融・証券の自由化、国際化が進む中で、ネット証券の台頭や、大手証券においてもホールセールス分野とリテール分野を分離する会社が出てくるなど、ビジネスモデルは混とんとしていたと思う。そうした中で、新光証券を立ち上げる際、新光証券というものをどういう形にするか、選択肢はいろいろあった。合併する前の新日本証券と和光証券を単純に合計すると、バブルピーク時の八九年度当時は、社員一万二千人、預り資産二十二兆円、拠点(海外含む)一九〇の会社だった。信用取引の建玉は六千億円。しかし、三四〇〇億円の営業収益のうち、二六〇〇億円が株式委託手数料と信用取引の金利収入だった。その後、毎年ほぼ一〇〇〇億円ずつ営業収益が減り、経費は二〇〇億円ずつしか減らない。言えることは、株式営業だけに頼っているとこうなるんだということだった。今年度上期は営業収益六〇〇億円、経費五〇〇億円(社員数5千人、拠点数九六)。しかしながら株式委託手数料のウエートは四〇%を割っており、小さくなっている。これは、営業の内容が大きく変わってきたという、非常に重要なことだ。一方、株式営業に消極的になってしまった営業マンにどうやって株式営業を復活させるかという課題が出てくる。大型の証券会社だと、株式営業は自分でやるものではないと言う人もいるが、私はそうではないと思う。やはりエクイティを知らなければ証券マンではない。そこは、金利系の銀行員が入って来られないところだ。

――目指すところは…。

草間 結局、新光証券とはどういう証券会社にするかと問われた時に、ホールセール、リテール一貫体制のまま合併させようと決めた。まずしっかりと合併させることが大切だと考えたわけだ。しかし、これだけの規模の合併を完成させることは大変なことだった。それこそ、昔は銀行のために合併してみせればよかった。銀行が資本面などで面倒をみてくれて、本当に銀行におんぶにだっこの時代もあった。しかし、頼れる興銀もみずほフィナンシャルグループ(以下みずほFG)に変わる中で、事業は絶対に成功させなければならない。銀行には迷惑はかけられないし、心配すらかけられない。絶対にみずほFGに心配をかけることなく、強い一枚のカードにする決意だ。この先、このカードが強くなれば、みずほFGとしても使い道はいくらでもある訳で、同時に、わが社の将来に向けての展開も多様になる。

――そんな中、御社はIPOの主幹事業務を中心に、とても良い展開をしてきている。

草間 IPOの分野で高いプレゼンスを獲得している。今上期では一二社の主幹事を務め、社数ベースでは野村証券に次いで二位となっている。しかし、こうした中で、引受手数料をゼロしようという話が一部に出てきていているようだが、この動きに対しては、家電業界などでみられるように、流通革命が進むことで価格破壊が起こり、それによってモノづくりの担い手が極端に減ったというようなことが、証券界においても起こるのではないかと懸念している。つまり、高度成長期に創られた搾取の構造を崩す意味において、ある種、革命的にそういうことが起こるのは大事なことであるが、行き過ぎると、本当に一生懸命にモノをつくって、売る人をなくしてしまうことになる。実際、証券界には株式営業を忌避し、コールセンターなどに株式相談コーナーをつくっているところもある。株は、毎日値動きがありテーマも変わるわけで、だからこそ、毎日同じ顧客と会話ができる。それが本来の証券マンなのだろうが、そういう会話に慣れていないひとが増えている。

――IPOの主幹事では新光証券を大手4社に入れてもいいような実績になっている…。

草間 総合証券同士で合併すると、構造的にはホールセールとリテールとなる。しかし新光証券は顧客ターゲットをミドルとリテールに軸足を置き、超大企業のところは、みずほ証券と共同営業でいこうと考えた。そして、ミドルというところの主な仕事としては、プライマリーにおいてはIPOだ。IPOという業務は、処世っぽく言えば、証券業冥利に尽きる。証券会社の社会的使命感がはっきりと出る部分であるとも言えるだろう。

――大変なプロジェクトだったと言われる新システムについては…。

草間 新日本証券も和光証券もユニシスを使っていて、基本的に合併の際のシステム統合は比較的容易だった。しかし、その時、ユニシスがハードウェアベンダーを止めると宣言したことで、新たな道を探らなければならなくなった。メーンフレームでシステムをつくり直すと八〇〇億円かかるといわれる中、そろそろオープン系でいけるだろうという考えに至った訳だ(新システム「STAGE」の開発コストは二四〇億円)。その後、業容が厳しく大赤字を出しながらも、止めたって意味はないという気持ちで、前に進んできた。これだけの規模の証券会社で、基幹システムを全面オープン系で、しかもJAVA言語でつくりあげるのは日本ではないと言われていた中で、NECさん、日立ソフトウェアエンジニアリングさんと組んでやれたことは、とても恵まれていた。

――今、このような好循環になってくると、今後は合併という言葉も必要なくなるのではないか?

草間 私はいつも、証券業というものを、ある種の社会的使命感を持ってやりなさいと言っている。単純に儲ければいいというものではなく、証券市場を支え、決済インフラを守り、投資家を守るといった証券取引法の上に立つ業種だ。そういうことの上で認められた業種だということを、軽く考えるなと言っている。規模が大きくなると、社会的使命感を相当意識しながらやらないと、やはり会社はおかしくなる。いかに品質を落とさず、社会インフラを支える業種だというプライドを持って携わることが出来るかが重要だ。それがなければ大きい証券会社はもたない。哲学がないと駄目だ。加えて、証券業界は、生き物として、動態的に捉えなければならない。銀行流で押さえ込んでがちがちにしてしまうと、甘えの構造になってしまう。強力な指導力、時間軸の中の伝統、新古のパワーを、どうやって育て、循環させていくか。その考え方がない場合は、外資系の証券会社のように、常にお金で、その時に強い人を集めるようになる。私にとってみればその世界は面白くも何ともない。年俸、力だけのそのやり方が、本当にいいのかと疑問に思う。

――中小企業との付き合いが多い銀行は健全であるように、意外に証券業も同じ事がいえるのかもしれない。

草間 そういうところに、一種の証券マンの生き甲斐などもあるのかもしれない。日本人の場合、お金だけで人は動かない。我々証券マンは、それは厳しい業種だが、やはりそこに熱いもの、強い正義感のようなものがなければならないと思う。ある意味で欲望産業的な要素がある中、顧客が目をぎらぎらさせている時に、一緒になって浮かれていてはいけない。欲望を助長させることなく、自分はどんどんクールダウンして頭を冷やさなくてはならない。しかし、そうはいっても証券マンには血が熱い人間が多い(笑)。