各国の声反映しIMFを見直し

各国の声反映しIMFを見直し

国際通貨基金 アジア太平洋地域事務所長 有吉 章 氏



――先ず、IMF(国際通貨基金)の東京での活動について…。

有吉 IMFというのは、本部をベースにして、世界一八四カ国各国に出張しながら年一回、各国の経済政策について議論し、それをレポートにまとめたり、国際収支支援のための融資の交渉を行うといった活動を行っている。東京の事務所では、アジア全体をカバーして、地域全体に関わる市場動向の把握や政策的な支援を行っている。当事務所とは別にIMFからお金を借りている国や、中国などいった、お金を借りていなくても重要と思われる国などに、職員を一人〜二人置いてモニターするというようなことも行っている。アジアでは、経済発展と地域統合が進み、個々の国ではなく、地域全体として見なければならなくなってきた。特に、資本市場関係においては、現場にいて投資家や金融機関の感じ方や考え方を直にフォローすることが大切になってきた。そこで九七年に当事務所が設立された。更に、アジア通貨危機以降、アジアとIMFとの関係が難しくなって、IMFとしても、地域全体に対する広報活動や地域に係るいろいろな国を集めてのセミナーなどを行い、関係を改善し、誤解を正していくよう努めている。

――IMFと世界銀行の関係は?

有吉 もともと姉妹機関と言われていて、戦後発足した当時は、IMF、世銀、GATT(現在のWTO)が三本柱になっていた。IMFは通貨、金融の分野を軸にマクロの国際収支の調整や通貨制度などを担当していた。一方、世銀はインフラ整備の部分を担ってスタートした。しかし、日本や欧州といった先進国が世銀を必要としなくなってくるに従って、世銀は途上国の貧困問題の解決に力をいれてきた。もちろん貧困問題の解決の為にはマクロ的な安定が必要という部分もあり、IMFもそういった部分においては一緒になって活動している。

――IMFをマクロを専門とした機関だとすると、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、米州開発銀行等との関係は?

有吉 それらは、地域開発銀行で、むしろ世銀を補完するような機関だ。ただ、当然、我々が担当するマクロ部分と、こういった地域開発銀行が担う開発部分は相互に連携していかなくてはならないため、アジア地域の中ではアジア開銀と相当密接に連絡を取り合いながら活動をしている。

――世界銀行は世銀債を発行しているが、IMFの資金調達は?

有吉 IMFは、信用組合のようなもので、加盟国みんなでお金を出し合い、相互に融通しあっている。それ以上の資金が必要になった場合でも、基本的には各国政府が貸し付ける仕組みになっている。

――その点、出資比率におけるアジアの不満などは?

有吉 確かにアジア通貨危機をきっかけに、IMFの活動に対する、ある種、反発のようなものもあり、当時の関係者がIMFに対してあまり良い思い出をもっていないという事実はあるだろう。その当時の批判ということで言うならば、出資金に見合う、見合わないということではなく、むしろIMFが、一部の先進国や、極端に言えばアメリカ財務省の考え方をそのまま実行しているのではないか、あるいは大銀行だけを助けているのではないか、などといった不満だ。アジア通貨危機というものは、初めてのタイプの巨大な危機であり、対応も非常に難しかった。実際、問題の規模が大きかったことから、各国にとっても、ものすごく大変な時期だった。そういった時に、対処するのに相当の時間がかかり、その間、多大な経済的社会的損失を被らなければならなかったという部分において、IMFは何をしているんだというような不満が募っていた。

――一方、韓国はIMFの指導下で上手く立ち直った代表例だ。

有吉 韓国に限らず、通貨危機に陥ったアジアの国はすべて危機から脱し、しっかりと回復している。結局、その国が立ち直ろうとする際には、どれだけ自身が一生懸命になって取り組むかに尽きる。IMFがどれだけ処方箋を出しても、その改革や政策を理解せず、自ら努力しなければ立ち直ることは不可能だ。そういった意味において、韓国は、自分たちで、その改革なり政策を必要だと感じ、自助努力をしたことが今につながっているのだと思う。

――IMFが欧米中心の組織であるため、AMF(アジア通貨基金)をつくろう動きもあったようだが…。

有吉 アジア通貨危機の直後、一時、日本主導でAMFをつくったらどうかという話は実際あった。それが端緒となって、いわゆるチェンマイ・イニシアティブ(各国相互の外貨融通制度)といわれるものが出てきた。ASEAN+3の協力強化からも見られるように、アジア自体の地域的経済統合が相当進んできたことは事実だ。もちろん、その地域としてやった方がいいこと、やるべき事はどんどんやるべきであり、それは我々IMFもサポートしていく。ただ、当然の事ながらグローバルな観点からアジアを見た場合、アジア全体が困難に陥った時には世界全体で支えなくてはならない。この点、地域の中だけで出来ない部分においては、上手くリスクを分散させなくてはならないだろう。

――IMFが将来、アジア局、米局、欧州局などに分けて、例えば持ち株会社方式のような組織になる可能性は?

有吉 現在のIMFのあり方を考えると、そのような可能性は極めて低いだろう。IMFでは、地域に共通する問題を扱う地域局、また、それを支える財政や金融のエクスパートを機能ごとに集めた機能局に分かれており、それがマトリックスで束ねられている。それを通じて地域の中の共通する問題を共有したり、世界各国の過去の経験を生かした様々な対処法を提供し、世界全体のシステムの安定化を図るのが我々IMFの役割だ。

――通貨危機以降のIMFに対する様々な評価を踏まえたうえで、IMFの今後のあり方とは?

有吉 世界経済が大きく変化し、IMF自身も、やり方や組織を変えていかなければならない時期に来ている。事実、アジア通貨危機を経験したことで、もっと上手くやれたのではないか、危機を未然に防ぐことが出来たのではないかという問題意識から、いろいろなことが行われた。一つには金融システムの問題だ。これまでIMFは金融システムについて十分議論してこなかった。そういったことから、金融セクターの話に力を入れるようになってきている。二つめには、透明性だ。従来であれば、対象となる国と話して、その国だけとやりとりをしていれば良かったのだが、資本市場においてはすべての人が関与しているために、ある国の状況が少しいいと思えば資金が一気に投入され、逆に悪いと思えばあっという間に引いていってしまう。そういった動きから危機になるという事もあるため、IMFの立場としては、もっと広く、正しい現状を世の中に伝えるような活動に力を入れていかなければならないと認識している。同時に、そういう活動を行うことによって、IMF自身の存在価値を、もっと広く世に知らせたいと思っている。もう一つの大きなテーマはIMF自身のガバナンスだ。特にアジアに関しては、これまで大変な勢いで経済が成長してきたが、出資比率の改訂は五年に一度ということもあり、既存の出資比率から増分的にしか変わらず、このため、経済規模や重要性に比較して見れば、アジアの出資比率は相対的に低くなっている。一方でアフリカは、出資比率は低いが、IMFから借りている額は大きい。そういった国々の声が適切に反映されなければ、組織としての正当性が問われてしまう。アジアとしても、自分たちの考えを、世界全体の通貨システムの運営、改善に反映していく場が必要であり、現在、出資比率の見直しなども含めて議論をしているところだ。