IR、情報収集から情報発信へ

IR、情報収集から情報発信へ

アイ・アールジャパン 社長 鶴野 史朗 氏



――先ずは、IRジャパンの設立について…。

鶴野 一九八四年に設立し、今年で二十一年目に入る。日本の株式市場は当時インサイダー取引が横行し、価格操縦なども頻繁に行われており、証券市場そのものが個人から大分離れたところにあった。持ち合いも沢山あり、このままではいけない、何とかならないかという思いで立ち上げた。当社は、日本で一番最初のアイアール会社であり、このため、最初のころはIRの啓蒙活動から始まった。

――事業内容は?

鶴野 もともとプロクシー(委任状)がらみの仕事をやりたくてこのような会社を作ったのだが、当時は持ち合い会社ばかりで需要がなかった。それが、持ち合いの解消により大きく変わった。当時は情報発信が主だった事業内容が、持ち合い解消により、情報収集へシフトしてきた。昔は発信だけで120人くらいの従業員だったが、持ち合い解消が始まり情報収集側の需要が生まれ、現在は情報収集する側の人間がほとんどだ。これまで銀行が持っていた株を、現在は誰が持っているのか、企業は知る必要がある。それを我々が情報収集して、企業側に伝えている。そして同時に、その企業の株を持った純投資家に対する情報発信も行っている。バブル崩壊後、景気は右肩下がりで、かつ、業界の激烈な競争のもと、一時期、従業員は五〇人までに減ったこともあるが、ライターやエディターを外注にするなどしてなんとか生き残ってきた。今やっていることは、必ずしもIRばかりではない。しかし、IRをやっていないと出来ないことだ。

――普通、IR会社というと、投資家を集めて説明会を行うというイメージがあるが…。

鶴野 その通りだ。このため、このような活動は当社だけだろう。もともと我々はプロクシー業務を目指していたわけで、もちろん説明会の設定も行ってはいるが、そういったことは現在は大体どこでも自分たちで出来るため、むしろ情報の提供に力を入れている。

――今、ようやく持ち合い解消やM&Aという流れとなり、この二〜三年、特に去年辺りから急速にIRの必要性が唱えられるようになった。

鶴野 我々の顧客企業は、これまでもIR活動にずっと熱心で、世界から資金を調達している企業が多い。その一方で、この十数年、ものすごい勢いで上場してきた新興企業もあり、IRのやり方にもいろいろな工夫が必要となってきた。経営に対する反省、そして何より株主のことに目が向く時代になってきている。それに伴って、最近では我々も、株主総会でどうやって議案を通すかといったプロクシーソリシテーション業務にタッチできるようになってきた。プロクシーソリシテーション業務とは、委任状の勧誘、議案に賛成する委任状をいかにうまく集めるかということが重要で、いかに説得するかが仕事になる。どこの機関投資家がどういう傾向を持っているか。そして、ある議案に対して賛成票を入れるのか、反対票を入れるのか。こういったことは、当社のデーターベースで大体事前に予測出来る。

――なるほど。

鶴野 まず、最初のころは、投票率をいかに上げるかが課題だった。外国人株主は、日本の制度では二週間前に招集通知を行うため、時間の関係で期限までに返信出来ない。そのため、なるべく早く先方に情報を知らせ、投票してもらうということから始まった。そういう地べたを這うようなことからやってきた。我々が七〜八年前の持ち合い解消が始まったころからやってきていたことに、国内はもちろん外国人株主の判明調査があり、この積み重ねのもと、委任状勧誘の業務が成り立っている。我々は日本で最初のIR会社で、今年は日本で最初のプロクシーソリシターになった。二十一年目にして、やっとやりたかったことをやれるようになったという状況だ。

――それはかなりのプロフェッショナルだ。

鶴野 宣伝広告といったことも確かにIRの一環ではあるが、我々は知っている人にだけピンポイントで伝えるようなスタイルを保っている。株主名簿に出てこない国内の機関投資家などの事を考え、(守秘義務を踏まえたうえで)どのファンドマネージャーがどれだけ自分のところの株を持っているのかがわかるような、つなぎの役割を果たすことで、お互いがコミニュケーション出来るようになったということは大きな事だろう。

――競合、競争は?

鶴野 IR会社といってもたくさんある。先に述べた、企業と機関投資家の間のつなぎの役割にしても、証券系のIR会社ではそれは難しいし、競合していたとしても、弊社では単品で売れる情報、商品を扱い、顧客の好きなように使ってもらうようなスタイルを確立しているため、そういったところとの直接の競合は意外に少ない。

――御社のような独立系、かつ、それなりのコンプライアンスが守れるところだけしか、そういう仕事は出来ないだろう。

鶴野 やはり、最初に始め、信頼を得て、それを蓄積しきたということに尽きるだろう。プロクシー業務においては、議案に反対する人達に対して、どのような方策をとるのか。一人ひとりの株主をきちんとおさえ、説得していく。表には全く出ない大変地味な仕事だが、日本の資本主義を守るためには大事な仕事だと思っている。

――株式市場も随分と正常化してきたと思えるが、あえて、今後さらに修正をしていった方がいいと思われる点を挙げるとしたら…。

鶴野 これは数年言い続けていることだが、現在デイトレーダーとして戻ってきた個人投資家が、もう少し長い目で、一つの会社を何年も持つような流れになればいいと思う。本当の株式投資の醍醐味はそこだろう。少なくとも、彼らが持っている株の一部が、そういった長期投資へ回り、企業を助けていくという形が望まれる。そして、株式市場も健全になり、現在二割といわれている個人投資家比率がもっと高くなり、きちんと議案に賛成票を入れたりといった市場になって欲しい。これは民主主義の基本だ。資本主義と民主主義は一体であり、個人投資家が安心して株主になれるように、企業も努力する必要がある。本来ならば個人が一番大事にされなくてはいけないはずなのに、バブル崩壊後、あるいはその前から個人投資家はある意味騙され続けてきた。そして、今の日本の証券市場の半分は外国人だ。すなわち、毎日半分を外国人が買ったり売ったりしてくれなければ成り立たない市場だということだ。これはいくら何でも多すぎるだろう。東証は世界で二番目に大きな市場だ。そういうことを考えると、もっと日本の一〇年、二〇年先を考慮した政策をやってもらいたいと願う。今までは政策も税務上も預金に向かうような政策を出していたが、今からはそれではいけない。もっと個人が株式を資産形成に使えるように考えなければならない。この点、証券会社や証券会社協会では、小さいころから株式投資の勉強をさせるような活動を始めており、それはとてもいい傾向だと思っている。