今年は踊り場、来年は景気拡大へ

今年は踊り場、来年は景気拡大へ

三井住友アセットマネジメント チーフエコノミスト 宅森 昭吉 氏



――先ずは、今年の景気についての感想を。

宅森 今年は踊り場的な様相だったといえる。先日の日銀短観大企業製造業DIは、確かに三期連続で改善となってはいるが、今回の数字は去年の九・十二月の水準より高いわけではない。いくつかの統計で技術的な要因もあり強い数値が出ていたために、早めに踊り場脱却宣言などが行われたのだろうが、それは少し前倒し的な発言だったように思う。生産統計は七―九月期前期比マイナスと在庫調整局面なのでそんなに強くない状態だった。幸い在庫がそんなに積み上がらず、設備投資やサービス支出がしっかりしていたために踊り場で済んだのだろう。

――GDPは、なぜ三期連続で高くなったのか?

宅森 去年の台風と地震の影響がゲタとなり、統計に反映したのだろう。一―三月、四―六月ともプラスになり、五%台と非常に高い数字になっているが、これは台風などの影響で昨年の十月分が悪すぎたことに起因している。また、個人消費は四―六月で伸びているが、これはGDPの数字に単身世帯を入れていないことが原因だ。需要サイドにおいては単身世帯を入れればプラスマイナスゼロになっていた。たまたま統計に使っているものが良い数字を出していただけだともいえる。結果としてはそれで株価が上がり、その後出てきた悪い数字も一時的な落ち込みとアナウンスされてうまくいったわけだが、実態は、夏場に踊り場を脱却したわけではなく、少なくとも生産面では、ここにきてようやく踊り場脱却ということになるだろう。

――踊り場脱却をようやく確認して、来年の流れは?

宅森 私は、今の景気は若返っていると考えている。中には二〇〇二年一月を谷にすでに長く拡張局面を続けており、戦後最長の五七カ月の拡張期間を考えると、来年の半ばごろには腰折れだと考える人もいるが、それは違うと思う。従来ならば、在庫調整で景気後退局面と認定されてもいい場面にも関わらず、景況感のレベルは高くほとんど落ちていない。つまり、後退をせずに緩やかに調整したことで、景気拡張期間を伸ばすことが出来ると言えるのではないか。来年の十一月で五八カ月に突入するが、恐らく今回の拡張期間は新記録になると見ている。設備投資もしっかりした伸び率であるが、無茶苦茶にやっているわけではなく企業は慎重に動いている。在庫の積み上がりもあまりなかったために軽度の調整で済んだ。若返った景気が緩やかに伸びていくのであれば、よほど海外の外的要因で腰折れすることがない限りこの良い流れは続くだろう。

――定率減税廃止の影響を心配する声もあるが…。

宅森 そんなに大きな影響はないだろう。株を持っている人は、値上がり益や増配で予期せぬお金が入り、消費活動も活発化する。更に、企業収益が良いことからボーナスへの期待も考えられる。

――米国の住宅バブルの崩壊シナリオや中国の動きなど、日本経済をけん引する外需への懸念は?

宅森 米国の住宅バブルについては、早めに緩やかな引き締めを行っており、崩壊という最悪のシナリオにはなりにくい。今度の米十―十二月のGDPは弱い数値が予想されるが、それはハリケーンの影響などが遅れて出てくるためだ。中国においては、農村と都市部の格差是正策の効果が多少のサポートをしていくだろう。中国では農業税を地域ごとに廃止している。一人ひとりではわずかな金額かもしれないが、中国の農民の数は多いため、これが内需に寄与するのではないかと考えている。そういったことを前提に、現在中国政府が打ち出している投資抑制策で投資が抑制され、消費がもう少し伸びてバランスがよくなれば、GDP成長率が九%台とまでいかなくても、八・八%〜八・九%の成長はするのではないか。また、海外の成長率が若干落ち、日本の輸出が少しくらい落ちたとしても、日本の景気においてはあまり心配ないだろう。為替が円安となっている今、輸出がある程度出て、内需で個人投資と設備投資がしっかりし始めれば、日本の成長率は十分確保できるだろう。

――米国では、金利引き締めの影響が来年後半辺りから効いてくるという声もあるが…。

宅森 確かに成長率は少し減速気味になるだろう。しかし、かつての引き締めに比べて高い水準ではない。いきなり五%や六%に上げているわけではなく徐々に動かしており、それもあと一回ぐらいで止まるだろうと私は見ている。次回一月下旬に出てくるGDPの数値があまり高くないとすれば、もう、どんどん金利を上げる必要性もないだろう。

――原油価格については?

宅森 寒波の影響などで一時的に価格が上がるリスクはあるものの、現在の六〇ドル辺りであれば大丈夫だろう。今回の日銀短観では石油業界のDIが改善してきた。前回は原油が急騰したことで低下していたが、今回は高水準ながら安定したところを示している。また、そもそも今足りないのは軽質油で、重質油は余っている。この点、日本は重質油を処理する触媒技術などの能力が一番優れていると言われており、原油が高止まっているほうが日本企業に需要が来るようになる。

――そんな中、日銀ではそろそろ量的緩和解除をしたらどうかという議論もある。

宅森 GDPデフレーターを基準にした見方はなかなか難しい。国内需要デフレーターのマイナスは徐々に小さくなってきているが、GDPデフレーターは原油が急騰しているような場合、マイナス幅が拡大する。GDPデフレーターは輸入が控除項目になっているため、国内に転嫁していない状態で輸入の物価だけが急上昇すると、マイナス幅が拡大するわけだ。これは、デフレというよりむしろ輸入インフレだ。GDPデフレーターの統計だけをもって、デフレの判断に使っていいかということに対しては疑問点もある。先日の日銀短観DIが表していたように、今の設備判断は過不足無しの状態で、かつ、労働の不足幅も徐々に拡大してきている状況だ。これは、デフレ脱却への動きだと言える。

――残るは消費者物価がプラスになって、いよいよ量的金融緩和解除か?

宅森 一―三月期で、ある程度、物価がしっかりして、四―六月期でどうなるのかというのが見えてきてからの量的金融緩和解除でいいのではないだろうか。労働需給に緩和感はなくなりつつあり、サービス価格も上昇し、賃金も上がってくるだろう。サービス価格の値上げは来年四月辺りが多いと見込めることから、それを見極めてからでも遅くはない。四月初め発表の三月調査の日銀短観は、恐らく想定の範囲内ということになり、その後の米国一―三月のGDPの持ち直しや、五月に発表される日本の米国一―三月のGDPなどを確認したうえで判断すれば、どこからも文句は言われないだろう。ただ、量的金融緩和解除といっても恐らくゼロ金利にするということで、マーケットに与える影響というのはほとんどないのではないかと思う。

――ようやく日本の景気も明るくなってきた…。

宅森 社会現象が非常に良い。テレビひとつみても、今年の二十四時間テレビで丸山弁護士のマラソンゴールの瞬間が過去最高の視聴率を記録したり、「電車男」や「野ブタ。をプロデュース」など、頑張っている人を応援するようなドラマが人気となっていた。頑張っている人を素直に応援してあげようという気持ちになっている時というのは先行きが良くなる。また、来春に予定されている「愛と死をみつめて」といった好景気につきものの純愛ドラマも、早くも話題となっている。今年を表す漢字一字が『愛』という明るい字だったりと、雰囲気は随分明るくなってきている。

――まだまだ株も買えそうだ(笑)

宅森 夏場からの株式市場の急上昇は少々出来過ぎなところもあったが、方向的には今後も上を目指して行くのではないか。