日本、米の植民地化の恐れ…

日本、米の植民地化の恐れ…

三國事務所 代表取締役 三國 陽夫 氏



――先月、文芸春秋より「黒字亡国」という本を出版された。(文春新書四八一 二四二ページ建て 七八八円)

三國 日本は明治以来の輸出立国だ。貿易収支を黒字にすることが大事だと、一生懸命輸出に励んできた歴史がある。しかし、この動きはいつの間にか、日本経済の成長の原動力から、成長を妨げる力に変わってきている。黒字が増えた一九八〇年代後半に、日本は世界最大の債権大国となった。にもかかわらず、経済成長率は徐々に落ちてきている。株式や不動産の評価にしても、この一〜二年は良くなってきてはいるが、まだまだ低い。一方の米国では、経常収支の赤字が増えれば増えるほど経済成長率は高まり、それに伴い株価や住宅価格も上がっている。赤字自体が経済成長の原動力となっている訳だ。赤字と黒字が際立って異なる結果に結び付いている。米国は、強いドル政策、赤字拡大が成長の糧だということを公言してはばからない。この現象を理解するには、今までの黒字神話を崩さなければならない。そういった意味で、黒字亡国という本を出版した訳だ。

――赤字国である米国の通貨が高くなり、黒字を重ねている日本の円が安くなるということは、普通に考えればあり得ない…。

三國 日本が米国に輸出して得た黒字分をドルで受け取る。そこでドルを円に交換して国内に持ちかえると円高になる。日本がやってきたことは、円高になると輸出が続かなくなるため、代金を未回収にしてドルをそのまま米国に置いておくことだった。そうすることで、そのままの為替レートを維持できるというわけだ。一方で米国は、輸入をしてドルを払うが、そのドルは日本からの資本輸出で、そのまま米国に戻ってくるという仕組みになっている。日本は一生懸命米国のおさいふを埋めているようなものだ。また、日銀はこれまでいろいろな金融緩和を随分とやってきた。八〇年代のバブルはその金融緩和の副作用だ。特に九五年以降は円安誘導が本格化、同時に日銀の資産も金融緩和のため拡大した。ゼロ金利や量的緩和と、日銀の限界を試すところまできている。

――逆の見方をすると、ドルの経済圏が大きくなり世界経済の拡大に寄与するという側面もある。日本経済もそれでいいだろうという意見もあるが…。

三國 日本以外の国にとっては、その役割を日本が担ってくれるということであれば、それは大賛成だろう。日本は毎年貿易取引で帳簿上は黒字になるが、実質的には黒字を使っていない。黒字を自国通貨に交換せずにドルで持っているという仕組みは、かつての植民地インドと英国の間で行われていた事と同じだ。しかし、今の日本の仕組みは日本が輸出するために自らの意思でやっている事であり、米国としては日本に頼んでやってもらっている訳ではないということだ。

――確かに、米国は為替介入もせず、そうしてくれと頼んでいる訳でもない。

三國 六〇年代、米国の巨大企業が、欧州の企業を買いまくったことがあった。欧州諸国は当時、米国企業の進出を歓迎した。技術力や経営力があり、生産性が高い米国企業の参入により、欧州経済が活性化されたからだ。ところがよく考えてみると、このような進出が続くと一〇〜一五年後、米国の企業が欧州の産業を治めてしまうような流れになってしまい、挙げ句の果てには植民地になってしまうということに気が付いた。それよりも欧州の人が一番驚いたのは、米国企業が欧州企業を買収する際の資金調達法だ。当時、欧州は米国に対して貿易黒字であり、その黒字はユーロドル市場でドル預金にしていた。米国はそのドル預金を使って欧州企業を買っていた。そこで、当時の仏大統領ドゴールは六五年、フランスが所有していたドルを金に切り替えた。この事が、後のニクソン・ショックの遠因となった。そして、欧州はドルを持たず金に換えるなどして、自国に通貨を持ちかえるようにした。黒字になったお金を米国に預けるということは、通貨主権を行使せず、米国の利害で使われてしまうと考えたのだ。

――それでユーロも誕生した…。

三國 その通り。かたや日本の状況は〇三年一月、小泉首相の施政方針演説で対内直接投資の倍増計画を打ち出し、会社法を改正してTOBの時に外国株式を対価として使えるようにした。そして、その法律施行直前に様々な問題が起き、一年延期した。日米の大企業の時価総額比較における大変な格差を目の当たりにしたことで、やっと周りがおかしいということに気づき始めた。日本はそういうこともすべて含めて「黒字亡国」だ。

――では、将来どうすれば良いのか?

三國 まずは、お金を米国に置かずに日本へ持ちかえり、日本で消費や住宅投資に向けることだろう。米国や英国では、住宅にお金を使っている。住宅ローンを増やして消費を増やしたり、あるいは住宅ローンで借りたお金を消費にも回せるようにしている。日本でも消費や住宅投資を本格的に拡大させるような仕組みを作らない限り、黒字は減らないだろう。

――日本人は、お金は持っているのに貧乏だ。

三國 実に日本人はお金を持っている。日本の経常収支は、一九七〇年から取得原価ベースで計算した累積額が二七〇兆円くらいだ。昨年末、それを時価評価したと考えられる対外純資産の額は一九〇兆円で八〇兆円ぐらい目減りしていることになるが、これはドルが下がったからだ。逆に米国の場合、二〇〇兆円負債が減価されている。つまり、黒字は積極的に回収にいかないと、最終的に相殺されてしまうということだ。

――黒字分を回収して、自分たちの生活を豊かにするようなお金の使い方をしなければ、いつまで経っても日本は貧乏国のままだ…。

三國 日本には、自動車産業などに代表される競争力の高い産業があるが、新しい創造的な技術開発は活発だとは言い難い。やはり、経済活動を活発にして消費が拡大されなければ、なかなか新しいモノを育てることは出来ない。また、技術開発をしていくような企業にしても、利益がでなければどうしようもない。まずは消費を拡大することを第一に考え、日本の文化を反映した新しい技術開発、製品開発をしていく。消費が投資に結びつくような時代にしなければならない。

――同時に米国だけではなく、世界中に投資できるような体制を整えることも大切だろう。

三國 その際、国家戦略としては地政学的な配慮をして資産と負債が均衡するような配慮が必要だ。しかし、今はそれが出来ていない。これは日本における最大の経済問題だ。

――量的緩和解除は、過剰流動性の少ない国内ではあまり影響はないが、むしろ世界経済に与える影響のほうが高いのではないか?

三國 現在の日本では、消費市場ですみずみまでお金が回っているようには見られていない。しかし、輸出関連と株式や不動産にはお金が回っている。現時点での問題は、米国の住宅ブームがいずれ終わり、米国がお金を借り増さなくなることだろう。米国という借り手がお金を使わなくなることは、日本からお金を出す必要もなくなり、円高要因となる。そういうことから考えると、今後、日本がドルを支えるのは難しくなるのではないだろうかと私は見ている。

――日本の政治家は、通貨のことが分からない。

三國 日本は各省庁がいわゆる縦割り行政で、国としてまとまって意思決定し、行動する体制になっていない。各省庁と外国との外交交渉のようになっている。これに対し、欧米は通貨の問題を政治家が熟知している。この点、日本の政治家の通貨に対する関心は低く、今後、大いに興味を引くテーマになるのではないかと思っている。