証券市場の役割、益々重要に

証券市場の役割、益々重要に

日本アジア証券 取締役会長 荻野 玲 氏



――日本人のグローバル投資が、特にこの二〜三年、ゼロ金利下で随分と盛り上がってきたような気がする。

荻野 例えば、インドファンドひとつとってみても、野村証券が売り出したところ、余りにも集まりすぎて、途中で募集を打ち切ったというような話もあり、インド投信は爆発的に売れている。私はかつて、日本商工会議所が主催している『日本インド経済委員会』の常設委員会のメンバーだったことがあるが、当時、一五年ほど前、インドが日本の投資に期待して、日本の企業や投資家にインドに投資するように伝えてくれとさんざん言われた。しかし当時はインドより中国に目が向いており、なかなか日本の企業は話を聞いてくれなかった。そのころ、すでにバンガロールがITの街として立ち上がりつつあり、欧米は早くからそこに注目していたのだが、日本は、残念ながらグローバルインベストメントということを広くやっていたわけではなかった。それが、今はインドファンドを売り出せば日本の個人投資家が飛びついてくるような状況だ。もちろん、ファンドの中には色々なタイプがあるが、いかに日本の投資家が変わってきたかがわかるだろう。日本のゼロ金利の影響もあるのだろうが、同時にいろいろな意味で、投資家のグローバル的な視野が広がってきたといえるだろう。

――リサーチ力や運用能力という点において、日本で売っている投信やファンドに不足はないのか?

荻野 残念ながら海外の運用に関しては、いまだに現地のことを良く知らない日本人が運用しているファンドがあるようだ。昔に比べて現地のアドバイザーをつけるケースは多くなってきたが、いまだにサラリーマン的マネジャーが運用している状況はあまり変わっていないとも言える。但し、現地のマーケットを一番知っている人間と組んで実績をあげているファンドも増えてきており、海外投資に関しては自分のところのファンド以外でも、評判のいいファンドがあれば積極的に売ろうという流れもある。

――日本の成長より、BRICsのような国の成長が大きいということか?

荻野 対外投資をする場合それはあるだろう。ただ、日本の投資家の中心が対外投資かといえば、まだそこまではいっていないようだ。

――株式市場も随分と活発になり、証券会社自体も良くなってきているようだ…。

荻野 去年の前半までと比べると様変わりしていると言える。今、日本が置かれた財政状況からみても、個人が自分の責任で、ある程度年金などの準備をしなければならないという意識が強くなってきている。そういうところから考えても、証券業の役割の重要性は非常に高くなってきている。

――国の年金はあまりあてにならず、銀行の預金金利もないようなものだ。そうなると証券市場で利回りのいいものを探す動きが出てくるのは当然の流れだろう…。

荻野 まずは財政再建。それに尽きるのだろうが、少子化を迎え納税者は減っていくというような時代において財政の応援は期待できないとなると、やはり、自分の責任で何とかしなくてはならないという気持ちは当然のことながら芽生えてくるだろう。そこで証券市場が重要となる。それがこれからの時代だ。先日の新聞に、証券会社に長く勤めている人が「勧誘しなくても黙って銀行の口座から証券の口座にお金が流れてくるのは初めての経験だ」といったコメントを出されていたが、まさに、そういったとうとうとした流れが出てくるのではないか。そして、証券市場はそれに応えるところでなければならない。証券市場は日本の大切なインフラだ。特に、日本だけではなくグローバルを対象とした有価証券市場が非常に重要なのではないかと思っている。

――今のインターネット証券絡みの動きをどうみるか?

荻野 対面ではないため時間も気にすることなく、それはそれで利便性はある。しかし、米国の例などをみても、ネット証券だけがどんどん伸びるかというと、そうでもなく、並立していくのだろうと考えている。今はデイトレーダーが脚光を浴びているが、デイトレードをやれる人自体は実際少ないだろう。世代が変わるにつれて、どのように取引スタイルが変化していくかはまだ分からないが、対面取引の良さが、ある程度会話を楽しみ相談しながらやりとりをするというところにもあるのに比べて、ネットで黙々と画面とやりとりするのは虚しいと感じる人もいるはずだ。

――昼間忙しく仕事をしている人間が、夜、眠い目をこすりながらネットで取引をするかと思えば、どうもそれは難しそうだ。このため、お金持ちほど対面取引を好む傾向にあるのではないか?

荻野 欧米などでは、本当にお金を持っている人たちは、プライベートバンキングなどを通して資産全体についてのアドバイスを受けている。日本も少しずつ、そういう風になっていくのではないだろうか。

――ところで、日本アジア証券の沿革は…。

荻野 元大蔵省国際金融局勤務、そして野村証券でアジア七カ国の引受、コーポレートファイナンス業務と華僑系法人とのビジネスを経験した山下哲生(現日本アジア証券取締役相談役)が、日本アジアホールディングズ・リミテッド(日系企業やシンガポール上場会社及び役員、その他が出資)を香港に設立登記した。この一〇〇%子会社である投資会社の日本アジアホールディングズが、九九・九%出資している子会社が日本アジア証券だ。国籍的には日本の会社になる。一九〇三年創業の金万証券を存続会社として買収・統合を重ね拡大していったため、現在一〇三年目という長い歴史を持っている。

――日本アジアホールディングズ・リミテッドはこれまでに丸金証券、金万証券、ユニコム証券、沖縄証券、丸宏大華証券、大宝証券、山源証券の各証券会社を次々と買収しているが、色々な証券会社を買収するメリットはどこにあるのか?

荻野 取締役会長の山下哲生は、日本アジアホールディングズ・リミテッドを投資再生事業会社と位置づけ、証券会社の再生から日本の投資を始めた。買収に当たっては、相手先を無理やり買っていったという訳ではなく、先方としても出来れば売りたいと思っていたところを買っていくという手法だった。彼の意図やグループの方針として、再生事業を超えた再生の努力の結果として、投資先の集合体を統合して日本の地域コミュニティーの問題解決型企業を形成するビジョンを持っており、これまでの連続的買収とその後の統合では、小さくて効率的な、しかも地域に密着した証券会社を構築できた。地域に密着した証券会社をベースに、ライフ・プランニングサービスと、ファイナンシャル・サービスを組み合わせてこのビジョンの第一ステップを踏み出し、そして、さまざまな問題を抱えた地域コミュニティーや住民の方々がそれぞれのノウハウや知識を集積するために、医療・介護や住宅開発の会社に投資し役職員を派遣している。これらの拠点でファイナンシャル・サービスが提供できれば日本アジアホールディングズ・リミテッドのビジョン形成につながっていくことになる。日本アジア証券は、地域コミュニティーの財産形成・運用の賢人、スーパーリージョナルな存在でありたいと考えている。

――そうすると、今の業務の中心は、地域密着型のリテール営業ということか?

荻野 今はファンドを中心に日本の投資家に商品を売っている。そして、いずれはホールセールにおいても、現在、香港に上場している中国企業のIPOを直接日本で上場させたいと思っている。顧客のため、日本経済のためにも、香港にある会社やスタッフを存分に生かし、アジア企業のIPOを手掛けることで、日本とアジアの架け橋になれればと考えている。