さらに広がる格付機関のニーズ

さらに広がる格付機関のニーズ

格付投資情報センター 社長 原田 靖博 氏



――格付機関のニーズがますます増えてきている…

原田 金融の世界で規制が緩和され技術革新が進展している中で、銀行が不良債権問題を克服し元気を取り戻し、貸出の積み上げに意欲的になっている。そうなると、これまで社債市場で調達していた資金が銀行の貸出で満たされ始め、その分格付けのニーズは減少してしまう。企業自体の信用力の評価というのは格付機関の基本的な仕事であり重要なものであると考えているが、これだけに囚われていると格付機関に対するニーズを見失うことになる。格付機関は銀行が自己資本を有効に使って収益を増やしたい、あるいは借り手が資金の調達手段を多様化したいなどといった現実的なニーズに的確に対応していくことが求められている。

――具体的には?

原田 今後はシンジゲートローンに対する格付けのニーズが高まっていくだろう。シ・ローン市場は急速に拡大しており、大企業のみならず中堅企業の資金調達手段として定着しつつある。現在のシ・ローン市場はプライマリー中心で、セカンダリーはほとんどみられない。このため、シ・ローンに対する格付けは規模的に拡大しているとは言えない。しかし、償還源資確保のためのコミットメントラインを組合わせシ・ローンだけに比べてより高い格付けを得ているケースなど、色々工夫をこらすことによりニーズは高まって来ている。さらに、再生企業が、再生計画を早めに終結させるために再生ファンドに返済する資金を調達することを目的としたシ・ローン、言わゆる出口ローンに対する格付けの需要も出てきている。再生企業は、たとえ再生が完了し信用力が回復したと言っても、当事者以外にはその実態が分り難い傾向がある。また、銀行が独自に信用力評価を行おうとすると膨大な手間とお金がかかる。格付会社が信用リスク評価の専門家として内部情報の開示を受けて信用力を評価し格付けを付することが求められる。信頼できる格付けが示されればそれを基に金利も決まり、必要な資金が調達可能になり、再生プロセスが完了することになる。新規で複雑なローン案件に対して格付け符号を付すというかたちで信用力情報を提供するところに、格付会社の存在意義があると考えている。

――証券化商品への格付けにも活発だ

原田 証券化商品への格付けは、不動産向け融資を担保にした案件(MBS)を中心に着実に増加すると見ている。最近、新たに出現した証券化商品としては、事業収益を担保にするアセット・バックト・ローン(ABL)というものがある。パチンコホールや葬祭場を対象とした商品がよく見られ、不動産の価値と事業収益を返済財源として組み立てられたものだが、事業収益の部分をどのくらい見るかという点に我々の信用リスク評価の専門性が発揮できる。対象となる事業について銀行が必ずしも十分な信用リスク評価を行い得ない場合もあり、そうなると、融資の担保となる資産は不動産、それも更地ベースの価値のみとなってしまう。借入人の立場からすると、調達できる金額は小さくなり、金利も高くなるかもしれない。一方、銀行が少数の一般的でない業種の信用リスクを評価できるスタッフを独自に養成するのは合理的とは言えない。そのリスク評価の仕事を信頼できる先にアウトソーシングすれば、より少ないコストで適正な評価が可能となる。このABLの場合には、融資の担保に事業収益が入っているため、更地のみに比べてより大きな金額の融資が可能となり、さらに証券化という形をとるため、より幅広く資金を集められる。銀行もこのABLを格付体系のなかに整合的に位置づけられることから可否の判断が容易になり、金利も適正なものになる。かつ取引先も拡大する。ABLは格付会社の存在が銀行の融資業務のなかに最も適切に位置付けられる事例だろう。また、新BIS規制では、証券化商品の評価には標準的手法、基礎的内部格付け手法を問わず、格付けが広く使われることになるため、そうした観点からも格付けニーズが高まってくるのではないかと思っている。

――銀行に対する新BIS規制で格付けが使われることになるが、何か変化はあるのか。

原田 そのこと自体は格付けの役割に対する理解が深まった証拠として評価している。しかし、格付けの究極の受益者は市場における投資家であり、新BIS規制はこうした現実を流用しているとの認識を持つべきだ。銀行および銀行監督当局の格付けの利用の仕方如何では格付け市場に大きな歪みが生ずるリスクがあり、それは警戒している。

――金融の証券化とスライドして格付機関の役割も更に増えている。

原田 今後は、中小企業への格付けをきちんと行うことが課題となる。これは日本全国の中小企業を、その特性を十分に考慮に入れたうえで統一した目線でみることだ。複数の銀行の中小企業向け貸出を証券化する場合、非常に多くの企業を対象とした場合には倒産実績率などを統計的に分析することで格付けが可能となるが、十数社という少ない数であれば一つ一つの評価が重要となる。中小零細企業は中身が千差万別であり、財務データだけでは評価できない部分もある。それを巧く評価する格付けが出来ないかを現在模索中だ。

――もしそれが出来れば、中小企業がお金を借りる時、社長個人の保証を入れるということが少なくなり、銀行でも貸し易くなる。

原田 その通りだ。貸し手にとって、中小企業の場合、事業リスクは一つ一つを丁寧に調べれば出来ないことはないが、やり過ぎると採算割れになってしまう。我々としても工夫の要るところでコストを抑えながら品質を確保しなければならない。できるだけ早く信頼できる中小企業格付けを世の中に打ち出せるよう研究・検討を進めている。

――一方で、地方公共団体や公共性の高い法人などに対する格付けのニーズも高まっている…

原田 従来は相対ベースでの資金調達を行っていた公共的な法人が、金融・資本市場で広く使われている格付けを取得し、それを利用することによって複数の銀行から有利な条件で資金を調達するように変わりつつある。特に地方公共団体に対する格付けには非常に力を入れており、知事、市長、財政局長などのトップとインタビューを行い、公表データ以外のデータを加味して格付けを行っている。弊社では国が関与した地方財政制度が存在するということを念頭において、公募地方債を発行している地方公共団体に対してAAマイナスからAAプラスの3段階の格付けを付している。また、格付結果を示すだけでなく、格付けの理由、背景についてもきちんと説明している。機関投資家はこの格付け理由を丹念に分析することにより、将来の格付けの変化、ひいては市場金利の変化を予測することが出来る訳だ。その意味で格付けの利用価値は大きい。

――最近では地方公共団体のデフォルトも有り得るという報道もあるが…。

原田 これから検討が本格的に行われるということで、現時点ではっきりしたことは言えないが、我々はこうした与件の変化を的確に分析し、それに相応しい格付けを発表することで市場の期待に応えていく決意だ。そうなれば格付けの役割はさらに重要になるだろう。現在、公募地方債については諸般の事情から格付手数料を戴いていないが、関係諸方面の理解を得て、手数料が支払われるようになることを期待している。

――国際面での展開は?

原田 現在、米国SECの認定格付会社の指定を受けるべく鋭意努力している。またアジア諸国においては日系企業を中心に現地通貨建て起債に対する格付けに関与・協力できないか検討を行っている最中だ。