経済、世界的に回復、拡大

経済、世界的に回復、拡大

国際金融情報センター 理事長 溝口 善兵衛 氏



――為替相場の動きがここのところ激しい…。

溝口 今、為替市場を支配している力には、相反する二つのものがある。一つは、インフレ警戒のため去年から続いている米国の金利上昇で、日本の金利との格差が拡大しているということだ。もう一つは、米国の経常収支の赤字がなかなか減らないことが潜在的にドルの不安要因となっている。ドルの価値を高く押し上げる力と押し下げる力が拮抗しており、この二つの力に影響を及ぼすと見られる材料に、日本の個人の投資家なども含め市場参加者が敏感に反応していることが影響しているのではないか。日々のニュースなどが伝えるその時々の情勢が、この二つの見方にどのような影響を与えるかで為替は動いている。

――レンジはどの辺りを見ているのか。

溝口 過去数カ月の動きを見ると、一ドル=一一〇円を超えた後は一一〇円を切って下には行っていない。逆にドル高も一二二円といった辺りでピークをつけたあとは、一二〇円をなかなか超えない。日々の動きで見ると、確かに短期間に五円〜六円といった大きい動きをする場合もあるが、今のところ、この二つの力が拮抗していることによって、ドルが強くなってもそれほど上まで行かず、弱くなっても、さして下には行かない状態だといえるだろう。

――日銀が量的緩和を解除し、金利を上げることになった場合、どのような動きが考えられるのか。

溝口 当然、金利差が縮む動きが出れば、若干ドル安が進むと多くの人が考えるだろう。他方で、米国の赤字とそのファイナンスが急激に変化を起こすとは考えにくい。従って、日米の金融政策の先行き感が相場に大きく影響していくだろう。先週、バーナンキFRB議長の議会証言があったが、インフレ警戒スタンスは続いているようだ。

――米国はあれだけの赤字を抱えて、よくドル高を保てるものだ。

溝口 それはやはり、米国経済が弱くないということだ。今年の米国成長率の見通しは、政府の見通しが三・四%。コンファレンスボードなど民間の見通しも三・五%前後となっており、去年とあまり変わらない。二〇〇四年がやや高く四・二%となっていたが、これからは潜在成長率に近い成長率が続くと見ている。赤字の拡大は、国内の旺盛な需要が海外にオーバーフローしていることを意味しているのだが、その流出する超過需要を呑み込んだうえでGDPが伸びていると言うことは、それだけ米国経済が強いことを表している。今後は、住宅価格がこれまでのようには上がらず、個人消費も影響を受けるとみられているが、そのうえで三・五%程度の成長率を見ている。だから資金が米国に向かっている。

――住宅という個人支出における一番コアな部分が落ち込んでも、三・四%成長は可能なのか?

溝口 住宅価格の上昇は長いプロセスの中でのことであり、少々停滞したところで過去から上昇してきた分は残るだろう。そして、雇用増を伴った生産の拡大が続いているので、消費にそれほど大きな影響を与えることはないだろう。また、企業部門は、収益が改善したことで余剰資金を多く持っているといったことから企業の投資が増えると見る人もいる。米国の外を見ると、日本や欧州の回復、ここ二〜三年の中国における一〇%前後の高成長、そして東アジア、中南米、東欧といった途上国全般の回復も世界の経済を成長に寄与するだろう。アジアの石油輸入国などは、過去には石油価格が上がると、インフレや外資不足か起こったが、あれだけ石油価格が上がってもインフレが起きていない。こうした国々は過去の経済危機の苦い経験から金融引き締めなどといった早めの対応をしていることが効いているのだろう。

――全世界的に、IT化による生産性の向上といったものが効いているのか。

溝口 先進国ではそういった面もある。一方で、途上国では投資をすることによって生産性が上がるというプロセスが続いている。

――中国では経済成長も著しく、一年ほど前から不動産バブルが破裂するのではないかと騒がれている…。

溝口 上海や北京といった大都市で若干住宅のバブルはあったようだが、中国全体の経済活動からすれば、そう大きなものではなかった。中国経済をリードしているのは設備投資だ。国内に対するものの需要や海外への輸出需要というものが大きいため、生産が拡大し、そのための投資が必要になる。中国ではこの動きが続いており、むしろ投資の過熱を抑えるための対応をこれまでやってきた。土地のバブル的な懸念要素がないとは言えないが、中国ではもっとファンダメンタルな経済の拡大が続いていると見て良いと思う。

――人民元に関しては、また新たな動きが出そうな気配もあるが…。

溝口 去年七月に二%切り上げて変動相場制に移行したが、日々の変動は小さい。ここにきて少し変動が早くなってきたと言われているが、それでも非常に小さい変動幅だ。切り上げ当初は一ドル八・一一人民元だったものが、半年強経った現在で八・〇四人民元程度と非常にゆっくりとした調整だ。米国に限らず他の国々からも調整が少し遅過ぎるという不満の声も多いが、中国では急激な変動は避けたいという気持ちが強い。多分、中央銀行のエコノミストなどはもう少し柔軟であっていいと思っているだろうが、なかなかそれが政治的な決定につながらないのが今の中国の構図ではないか。

――先日行われたG8会合で注目されるべき点は。

溝口 今回のG8ではロシアが初めて議長国となった。世界経済全般はG7の十二月に行われた際の見通しと変わらなかったが、エネルギー供給の内容などにおいて、ロシアという産油国が入って議論をしていることには非常に意味がある。

――以前は二十ドル台だった原油価格が六十ドル台まで上がり、本当に、よくそれでインフレになっていないものだと不思議に思う。

溝口 原油依存度が減っていることに依るところもあるが、かつてのように供給ショックで価格が上がった訳ではなく将来の需給の引き締まりを予想しながら徐々に上がってきていることから、ある程度の対応ができると言うことだろう。また、製品価格はなかなか上げにくいため、企業は合理化などでコスト増を吸収していくなど消費国の企業や人々の対応が進んでいる。さらに原油高のためにインフレが起きると、インフレの方の影響が大きいと各国政策当局が早めに金融引き締めを行っていることもある。また、産油国のほうも中東などでは、増えた石油収入を工場や病院などといった国内の開発のための実物投資にお金を使い、それでヨーロッパやアジアといった石油消費国からの輸入が増えている。そうした投資に使われないオイルマネーもある程度は残るが、今のところは石油価格上昇のショックが比較的スムーズに吸収され、世界経済のバランスが崩れないで済んでいる状態だと言えるだろう。

――最後に、東アジアの共通通貨(ACU)の将来展望について。

溝口 ACUという一種のインデックスを使って債券を発行したり買ったりという可能性はあるだろうが、それがユーロのような共通通貨になるには相当の時間がかかる。共通通貨になるには、各国が一つの経済圏を形成しようという政治的な意志がなければとても難しい。経済圏を形成すると、そこからいろいろ調整を要する問題が出てくるが、そうした問題を受け入れるという人々の意識が必要だ。さらに、そういうことをやるために、それぞれの国が仲良くやっていくということが、まず前提となる。アジアは歴史も違い、言語も違い、宗教も違う。いろいろなものが多様であり、戦前から統合の動きがあった欧州とは違う。しかし、そういうものを目標として掲げて、東アジアが安定した社会になるよう努力していく必要があろう。