新会社法、時代の変化にほぼ対応

新会社法、時代の変化にほぼ対応

あさひ・狛法律事務所 弁護士 南 繁樹 氏



――昔ながらの会社法・商法がようやく現代の日本に適したものになった…

 新会社法は、実際には商法改正の総整理という性格がある。商法改正は、平成二年の改正以降も少しずつ改正が行われ、特に、組織再編については平成九年から改正が行われてきた。経済・構造改革に平仄を合わせ、規制緩和・制度の柔軟化が必要だった。

――新たな流れにあってない部分もまだあるか…

 国内的な取引に限り、ほぼやれることはやったという感がある。特に、組織再編については、税制もあわせ、時代の流れに相当対応してきている。金融にしても商品設定の自由度は高く、遅れているといった感はない。グループ企業を全体として規制する結合企業規制、これはまだ若干残っている。

――あえてその中で問題点は…

 国際的な取引について課税繰り延べの問題が解決していないので、国際的M&Aについては障害となろう。ただ、これを本当に改めようとすると米国並みの租税回避を視野に入れた立法が必要となる。すると税法の厚さが今の二倍くらいになるので現実的ではない。米国では本社のオフショア化(インバージョン)が大きな問題となった。しかし日本企業の本社が、突然バミューダ・ケイマンなどに移転することを希望しているかといえば、国民性と照らし合わせると疑問だ。そのような極端な例を除けば多くの問題は制度上整った。

――法律がこなれていないという面はある…

 制度間の調整としてロジックの整理は行われたのだが、従来の商法の考え方、その基づいてきた学術体系とは若干異なる考え方をとっている部分があるので、混乱は存在する。例えば資本充実の原則の概念について従来とは異なるような考え方が取られている。新会社法でも、資本充実の原則という概念は存在するが、例えば、債務超過会社を消滅会社とする合併は許されないといった従来の考え方が見直されている。

――混乱は現実の中で判例など積み重なることで解消可能か…

 新会社法では、従来の考え方を変更したような箇所があるが、必ずしも十分な議論がなされていない。前述の合併の件でも、未だに見解の対立がある今回の新会社法の作成過程は、民商法いわゆる基本法の立法としてはかなり異例だったといえる。

――施行まであと一カ月と迫っているが会社は何をすべきか…

 定款変更を検討する必要がある。実際には、整備法の規定及び商法施行規則の経過措置でほとんど対応可能なので、極端にいえば、何もしなくともよい。しかし、会社法との条文の書き方が変わってくるため形式的なすり合わせが必要だ。上場企業には、WEB開示の導入・取締役の書面決議などに関する定款変更を勧める。あとは内部統制に関する意思決定を新法施行後の最初の取締役会で行う必要がある。内部統制自体は多くの上場企業においては既に進められているが、その明示化が必要だ。

――未上場企業については…

 会社法によって制度が大幅に自由化されるので、この機会に、例えば、取締役三人を一人にしてしまう、監査役を置かない、会計参与を導入する、など新法に対応した形での制度変更が可能だろう。

――では、お勧めの新会社法の活用方法とは…

 上場企業にとってはやはりM&Aとファイナンスがやりやすくなった点を活用すべきだろう。例えば、簡易組織再編の基準が従来の五%から二〇%になったことだ。二〇%以下の一部門の分離・買収が取締役会のみで可能となる、これは相当に自由度が高まったと見るべきだ。

――M&Aが活発になれば防衛策も気になるが新法の中での位置付けは…

 防衛について基本的な考え方に変更はない。しかし色々なテクニックが利用できるようになったため防衛策も設定しやすくなっている。例えば新株予約権の発行、これは一般的には差別的な行使条件を付帯した新株予約権をもって、買収者は新株予約権を行使できない、これに対して一般株主は行使できるという状況をつくり、買収者の持ち分比率だけを薄める。新法では、新株予約権の無償割当てという制度の利用や、新株予約権に取得条項をつけることが可能になっており、経営陣にとってやりやすくなっている。ただ、株主・取締役・買収者の基本的なバランスは変わっておらず、したがって根本的な変化が生じたとは見ていない。

――三十八回連載を金融ファクシミリ新聞に執筆していただいたが、あえて書き足りなかった点を挙げるとすれば…

 今回の新会社法に関する連載は金融関係の読者の方を想定し、基本的には上場企業、なおかつM&Aとファイナンスを中心に据えた。そのため中小企業関係の事項はあまり取り上げていない。中小企業では、少数株主対策をどうするかという問題がある。中小企業でも銀行・取引相手などとの間で外部資本を入れている会社、従業員に株を与えている会社がある。あとは事業承継に関する部分も重要である。また、平成十八年税制改正で役員報酬の給与所得控除相当分に関し会社の損金算入が否定されたことで、中小企業には若干締め付けが厳しくなっているのだが、そういった側面にもあまり触れていない。連載では、閉鎖会社(公開会社でない会社)についても、上場企業のグループ会社管理という視点で触れたが、中小企業自体での新会社法の活用法を紹介したものではなかった。

――税法について変えていかなければいけない点は…

 対価の柔軟化について、これはまだ一年先伸ばしになっている。これに税制がどう対応していくかが課題だろう。あとは種類株式の評価の問題点が未解決である。それとDES(デット・エクイティ・スワップ)についてだ。平成十八年税制改正で、DESを受けた債務者会社の方で発生する債務消滅益が課税対象になり、今後DESにマイナス影響を与えていくのではと危惧されている。

――新会社法により、日本の資本取引は活発化していくと思うが、まだまだ種々の問題がある…

 ひとつ指摘したいのは今後の金融商品の商品性の方向だ。米国などでは風変わりな商品設計も可能で市場もそれを消化している。日本の場合はそういった金融商品が持ち込まれた際に比較的、悪い使われ方をすることがある。過去の例を挙げれば、他社株転換社債(EB)などが投資家に損害を与えてしまった。デリバティブなども一方では損失先送りに使われ、他方では投資慣れしていない一般顧客が手を出し大きな損失を出した例がある。金融商品のメリットを引き出しながら、商品として長持ちするような、安定的な手を出しやすい形で開発されていけば、というふうに考えている。