第三世代のシステムに着手

第三世代のシステムに着手

大阪証券取引所 取締役社長 米田 道生 氏



――株式の売買高が急増している…

米田 ご承知の通り、個人投資家のネット取引の急増に加えて、機関投資家のアルゴリズム取引などが既に大証にも入ってきている。それらにより取引量がここ一年間で急速に膨れ上がったことに対して日本の取引所の対応は極めて遅れていた。我々も去年の五月にはヘラクレス市場の新規上場申請受付を一時的に停止せざるを得なくなった。すでに上場している会社の株式の売買を停止するわけにはいかないため、申し訳ないが新規上場申請のほうを一時的に停止させてもらった。

――新システムの導入は上手くいった…

米田 おかげさまで順調なスタートを切っている。昨年八月には新しいシステムがほぼ出来上がり、九月から証券会社などとの最終テストの段階に入っていた。そのテストの状況をみて、新システム稼働開始のメドが立ったので、十一月からIPOを再開した。おかげさまで、今年一月末の新システム稼働開始後、四月末までにヘラクレス市場には十一社の新規上場がある。新システムのテストの最中であった昨年十一月には、東証であれだけ大きな問題が相次いで起こり、取引所のシステムへの注目度がかつてないほどに高まった。このため、新システムの稼働開始には通常以上の大きな緊張があったのは事実だ。大証としては、入念なテストを実施したうえで、ヘラクレス市場だけを一月末に、日経二二五先物などは二月末として、稼働開始時期を二段階に分け、慎重にスタートさせた。

――新システムの特色は…

 米田 新システムには、日本の証券取引所では初めて分散系を採用した。メインフレームのシステムと比較すると、分散系システムは能力増強が容易だ。また、大証の新システムは、いわゆる第二世代のシステムになっている。第一世代というのは大証の旧システムであり、現在の東証のシステムだ。メインフレームは、容量に対する拡張性に乏しく、短期間に一〇倍・二〇倍に拡張していくことはできない。ところが、市場の取引量は、短期間に一〇倍や二〇倍に膨らむという動きがあり得る。ヘラクレス市場ではこの三年間で注文数が二〇倍にも増えたが、上場企業数は二割程度の増加だ。注文の増加傾向はデリバティブ取引においても同様で、こうした急増に対し、世界各国の取引所は、そのシステムで柔軟に対応することを求められている。日本でも取引量の増加が本格的になってくれば、東証が一日の注文処理件数を五月中に一千二百万件、約定処理件数を七百万件にするといっても、そのスピードでは追いつかないおそれもある。大証では、新システム稼働開始後、徐々に注文量が増えており、稼働開始して一カ月あまりしか経っていないが、すでに旧システムのピーク時の二倍程度の注文件数を記録する日がある。特にヘラクレス市場と日経二二五オプション取引で注文件数が伸びている。日経二二五先物取引では、旧システムの処理能力制約に起因してシンガポール取引所に流れていた注文が大証に戻ってきており、今後はさらにシェアを高めていきたいと考えている。

――システム増強で注文が増えたと…

米田 我々が二月下旬に稼働開始したシステムには、二つのポイントがある。ひとつは処理容量だ。秒当たりで見れば、旧システムでは六十件の注文処理件数でしかなかった。それを七倍強の四百五十件まで高めた。また、デリバティブ取引だけで見れば旧システムの十倍近くの秒当たり処理を可能にしている。さらに一日当たりの処理容量は旧システムでも余裕があったものの、それをさらに増やして四百万件の処理ができるようにしてあり、今年の夏あたりには八百万件にする。新システムは設計段階からハードウエアの追加によってそれを更に二倍、つまりは従来の一四倍の処理能力を実現できるように作ってある。また、もうひとつのポイントは、システムのレスポンスの速さだ。旧システムは注文の受付から処理を終えるまでに数秒かかり、注文が集中して極端に遅くなってくると一分くらいかかってしまうスピードだった。これに対し、新システムは〇・一秒という速さになった。それでようやく世界の標準になったというレベルだ。

――その部分に注目すればニューヨーク証券取引所よりも早いということになる。

米田 確かにその部分では大証のほうが早いそうだ。世界の最先端の取引所の使用するシステムは既に第三世代だといわれている。ニューヨークとロンドンはまだ第二世代だと思うが、スウェーデンなどは既に第三世代だ。そして第三世代になって、世界の中ではアルゴリズム取引が出始めた。だから大証も早くもその次の手までしっかり考えなければいけない。

――第四世代のシステムが必要だと…?

米田 そう考えている。日本の現状としては我々が第二世代で東証は第一世代だ。東証は三年後に新システムと言っている、もちろんそのときに第二・第三世代のどちらになるかは分からないが、世界的なレベルで見ると深刻な問題だ。

――大証はその先も見ていると?

米田 大証は、秒当たりでも一日当たりの注文・約定件数でも余裕があり、アルゴリズム取引にも対応できる。また、トヨタやソニーなど、東証と大証には数多くの重複上場銘柄があるが、東証で取引できない時間帯にも大証は取引できるため、証券会社にも大証で取引してはどうかと勧めている。昨年の十一月の東証のシステム障害時には、大証に発注する投資家や証券会社があった。重複上場という仕組みを使って、大証は、東証のバックアップ機能を果たしている。ただ常に先を考えておかなければいけない。ハードウエアを追加するという夏ごろの対処については新システムの設計段階から見据えていた計画だが、実は既にその次の段階の検討に入っている。これもシステムを分散系で作ったからできることだ。

――見せ玉の問題を減らすための日証協などの措置は効果が上がっているか?

米田 必ずしも見せ玉が少なくなっているとは断言できない。我々の処理能力を上げたため、注文件数が更に伸びたということもあり、判断は難しいところだ。

――一方、金融庁なり日証協で新興企業の上場審査が甘いのではないかという意見がライブドア事件を契機に出てきているが…。

米田 いたずらに新興企業市場をつくってルールを緩くした、という論調が多いがそうではない。今後の日本の産業の盛り立て役として期待されたベンチャー企業に多様な資金調達を開こうとして作られたルールだったはずで、その点は極めて大事だ。新興企業はその性質として業績の変化が激しい。上場審査のルールを変えるよりも、そうした新興企業の性質を理解したうえで審査する問題意識を持つことが大事ではないか。上場というのは取引所が最終的には責任をもってやっていくのだが、証券会社も引受審査をしている、そして公認会計士も監査している。上場審査基準を変える前に市場関係者のすべてがしっかりと審査に参加できているかという点をもう一度見直すべきだということがひとつ。もうひとつは上場したあとの管理体制だ。企業の変化というものは非常に激しいため、常に品質のチェックを工夫すべきではないか。

――そのチェックはどこが行うべきか?

米田 一義的には公認会計士が適切だろう。日常的に企業の財務部分を最も把握しているのはやはり公認会計士だ。そして取引所も公認会計士との連携を深めていくべきだ。私は、企業にいささかでもおかしな動きがあれば踏み込んで調べる体制を大事にしており、日本公認会計士協会近畿会とは頻繁に連絡を取っている。このような、今でもできる取り組みを取引所、引受証券会社、公認会計士ら関係者の間でもっと増やすべきではないか。単に上場審査基準を厳しくするだけでは本末転倒だ。