常に周りに目を光らせS投資推進

常に周りに目を光らせS投資推進

証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏



――保振(証券保管振替機構)のプレゼンスが向上している…

竹内 証券市場では決済システムにおけるリスク管理能力の向上を目指すことが世界的な流れだ。決済に関連するリスクは二つある、一つは売買成立から決済までの時間だ。これが長ければ長いほどリスクは高くなる。もう一つは売買のボリュームで、これが増加するとリスクもそれにつれて増大する。売買のボリュームは経済規模の成長スピードとは比べ物にならないほど増大の一途をたどっている。そこで決済時間の短縮を図ろうとする動きが出てきた。その中で代表的な取り組みが二つある。一つはペーパーレス化の動きで、もう一つがSTPだ。STPとは、売買の成立から段階を経て、証券と資金の交換、完了まですべてをコンピューターが行い、一切人の手を入れないシステムだ。この膨大な確認を伴う作業に人の手を入れてはミスやタイムロスが増えるばかりであり、システム開発は不可避だ。

――ペーパーレス化に向けての進行状況はどうか?

竹内 国内でのペーパーレス化の流れだが、二〇〇三年三月にCPがまずペーパーレスになって、一般債がこの一月から、投信は来年一月、そして最後に株式のペーパーレス化は今から三年弱後の二〇〇九年一月という目標だ。これら証券決済制度改革の議論は七年前からスタートしており、全体で十年の計画となっている。この十年で世界レベルから遅れていたわが国の証券決済分野もかなりのレベルに達する見通しだ。

――世界レベルで見て進んでいる部分もある?

竹内 ペーパーレスで最も進んでいるのはフランスで日本は二位だ。日本はフランスより大きな市場を抱えながら徹底したペーパーレスを進めていることで注目されている。例えばアメリカなどは州ごとの法が管理しているために出遅れた部分もある。米の上場企業の半分近くが本拠を構えるデラウェア州はペーパーレスの法律を作ったが、法律が企業の自主的な選択性を尊重したために採択率はきわめて低かった。そこに日本のこういった取組みが伝えられ、ペーパーレス化への大きな刺激となっている。もう一つ注目されているのはSTPについてだ。通常、取引が行われる場合は売り手と買い手の間で成約した情報が一致することをまず確認する、そして清算の手続き、決済へと移るのだが、その都度に両当事者での確認作業が発生する。これは相変わらずどこでも手作業が多い。そこで当社では二〇〇一年九月から決済照合システムを稼働させ、この仕組みをすべてシステム化している。

――約定だけではなく確認作業もシステムを通じて行うということか。

竹内 通常ならば売買の当事者が確認した情報を相手方に送り、相手方も確認結果を送り返す。この確認作業が交互に繰り返される従来のスタイルは「ワイパー」と呼ばれている。しかし一番理想的なのは中心となるシステムで自動的に一括確認できる仕組みだ。これをセントラルマッチングシステムという。当社の決済照合システムはこの方式を採用しており、現在では機関投資家取引にかかわるほぼすべての証券会社・信託銀行・カストディ銀行と運用会社の六割以上に利用していただいている。これはビジネスとしても成り立つ段階だ。売買当日の照合率も国内取引に関しては九九・九%以上となっている。

――日本の遅れている点は?

竹内 配当の受取や議決権の行使といった株主権の行使、そして合併・分割・併合に伴う株主権の変更に関する手続きを円滑に行うために情報の更なる集約化が必要だ。またクロスボーダー取引に関しても国内取引と同じように電子化が必要になってくる。欧州はやはりクロスボーダー取引に関するシステム作りが進んでいる。ただ、三年後には株式のペーパーレス化は上場企業の義務となる。ペーパーレスになれば証券会社と保振の電子口座が権利の所在地となり、株主の名前・住所・所有銘柄などの情報が集約されることから株式の発行体と当社が連絡を行うことになる。その結果、そうした遅れた部分もかなり改善されるだろう。

――海外投資家の株式取得動向を発表するということも聞いている…

竹内 今までは海外投資家から見ると大変不便であった、というのも株式の取得制限というものが存在し、法律上、航空や放送など株式取得制限のある分野では、海外投資家の取得比率が二割や三割を超えると名義書換を拒否できるということになっている。このリスクもペーパーレスになれば保振が情報を一手に扱うことにより軽減される。その際、二つの変更点がでる。一つは、よりリアルタイムに海外投資家の取得比率を公表することだ、これは毎日の公表を考えている。もう一つは株式の発行体の求めに応じて取得比率を報告することだ。これらの取り組みをペーパーレス化と同時に行えるように進めている。なお、これは取得制限会社に限ったことではないが、株式の発行体は情報提供請求権を有し、正当な理由がある場合は個別株主に関する情報の提供を保振経由で証券会社等に請求できる。ただ何が正当な理由かということを具体的な内容に落とすガイドラインが必要で、これは関係各業界全体で構築しなければいけない。

――株式大量保有届出制度も必要なくなるかもしれない

竹内 従来、証券会社はそれぞれの銘柄を扱う名義書換代理人をすべて相手にする必要があって処理に多くの労力を費やした。ペーパーレス化の後は保振が一括管理をするデータを市場全体が使いやすく提供することができる。五%ルールは株式の所有者が当局に報告する必要性があるというもので、現在はまだペーパーレス化と併せた議論は行われていない。しかし将来的には可能性としてそれも変わってくるかもしれない。

――一月からの社債のペーパーレス化の情状は?

竹内 株式の場合、保振は上場したものしか扱っていない。上場会社が破たんした場合には株主の引き渡しを希望する分以外は株券を廃棄する取り決めなども整っている。ところが一般債には上場規制がついていないため、およそ一般債というものはすべて保振が扱っている。事業債・電力債・金融債・財投機関債・地方債・そして私募債、私募債は実質的には融資と同じなのだがこれも対象にしたため取扱銘柄数が数万になった。株式は証券会社と信託が主な利用者だが、社債は圧倒的に銀行が中心だ。地方債になれば手続き業務に慣れない金融機関も扱う。また、ペーパーレス化に伴う事務フローの変化に対する不慣れなどを克服してもらうことも課題で、これら課題に取り組みながら事務処理能力を向上させており、一般債のペーパーレス化は概ね順調に走り始めたといえるだろう。

――東証ではストップなど不祥事が相次ぎ、システム投資に関する意識が低すぎるのではないかという意見も出ているが…

竹内 投資インフラに係る産業がどんどん装置産業化していくのは世界的な流れだ。そして欧州に見られるように合併から寡占化していくこともまた止められないだろう。それが効率化を進めてコストダウンを図るには最もよい方法だからだ。しかし、同時に有事の際のリスクもまたどんどん膨らんでいくことには注意しなければいけない。はっきりいえることは市場の変化が物すごいスピードだということだ。アルゴリズムやスライス取引、これらが市場に意識されたのはここ数年のことだ、オンライン取引は十年前に考えもしなかった。この意識の変化は常に投資家のニーズから来ており、そこには良いも悪いもない。そのニーズを如何に察知して対応していくかという心構えがインフラを整備するものには必要だ。例えば自らの管轄する分野以外でおきたようなトラブルなどからも大いに学ぶことができる。常に周りに目を光らせながらどのような失敗が起こりうるかを分析・想定し、それを未然に防ぐ体制を日々の業務からつくることが大事だと考えている。