金融商品取引法で大きく前進

金融商品取引法で大きく前進

日本証券投資顧問業協会 副会長専務理事 中井 省 氏



――今国会で成立する金融商品取引法についての評価は?

中井 当協会では現行の投資顧問業法に関して、新しいアセットマネジメントの手法を生かせる法律にして欲しいという規制緩和要望を、四〜五年前から金融庁や内閣の規制緩和推進会議に対して提出していた。この成果もあって、このたびの金融商品取引法は投資顧問業法も含んだ抜本的な法改正となり、資産運用業について大幅に規制緩和をしていただいた。我々としては高く評価している。例えば投資一任業務の参入の際に従来であれば営業保証金を積む必要があった。だが、営業実態を見ると投資一任業務は、企業年金や金融機関といった多額の資金を運用しているプロの機関投資家の資金を運用し、競争も非常に厳しい。そのため、およそ営業保証金を積まねばならないような事故というものは過去に例がない。そういった背景から過剰規制ではないかという議論があり、今回の改正では営業保証金は積まなくても良くなった。また、もう一つの問題点は専業義務の存在だった。有価証券の運用以外は資産運用に必須の業務でも当局から個別に兼業承認を受けないと出来なかった。このため、金融市場の変動に対応した機動的な運用を十分に行い得なかったが、金融商品取引法では付随業務が幅広く認められ、為替、貸し株といった業務についても当局の個別承認なしで可能になったのは大きな進歩だろう。

――改正でまだ足りない部分は…?

中井 今回の改正では資産運用業務と昔の証券業務が一体化され、資産運用業が金融商品取引法上の第一種業者(旧証券業者)の本業に含まれてしまった。証券取引法では過去に損失補てんの事件があって、取引一任勘定取引が禁止されていた。それが無くなって今度は証券会社の方で資産運用も本業として出来るということになった。その結果、証券会社のなかでブローカレージやアンダーライティング等の業務と資産運用の間で利益相反が起きる危険性が生じる。我々はその危惧を金融審議会で訴えたつもりだが、自由化の流れもあって受け入れられなかった。これについては証券取引等監視委員会も懸念しており、注意喚起の建議が行われている。このため金融商品取引法では利益相反的な行為の禁止が明文化された。この規制の実効性が上がるように実際の運用過程で当局が厳しく監視していく必要があると思う。

――ラップ口座については?

中井 証券会社は、現在はラップアカウントという形をもって資産運用分野に参入してきている。これは手数料が顧客の預けた資産額に比例する定率の方式になっており、株式売買をむやみに増やして証券会社が手数料収入を稼ぐという、いわゆる利益相反的なことが起こりにくいシステムとなっている。また、ラップアカウントを扱っている証券会社はすべて我々の協会に加盟していて、自主規制ルールを守っている。資産運用の観点とモラルをもってルールが守られるならば監視委員会の心配も必要ないのだが…。

――アメリカなどでは証券会社がある特定の社の株を一定以上保有することは禁止されているが…

中井 アメリカの強みは投資家が資産運用をよく理解していることだ。あちらの投資家は資産運用と一般の証券業務に利益相反関係があることを知っている。米ではラップアカウントの運用は証券会社ではなく社外の資産運用会社に委ねる例が多い。そうでなければ投資家から信用されないことを熟知しているからだ。ところが日本では、投資家の側にセルサイドがバイサイドのお金を預かって運用しているという危険性への認識が低い。これが我々が最大に懸念する点だ。

――株式大量保有報告については…?

中井 5〜10%の株式保有について3カ月に一度の報告が2週間に一度に改正されるが、これは投資顧問業界にとっては相当な負担だ。現行法では資本関係があれば共同保有とみなすという形式的な基準を採用している。親子会社について50%超の株式を所有しているかどうかでみなし共同保有と判断され、保有額をすべてグループ会社で合算して報告しなければいけない。これは世界でも例がない規制だ。米などは実質的に意思決定が一緒に行われている場合は共同保有とみなされるが、単なる資本関係だけの場合はそうではない。92年に株式の大量保有報告制度が出来たときに、日本企業の系列のつながりに配意してこの条文が入れられたようだが、当時は銀行・証券会社・生保等に5〜10%の株式保有制限があったため適用例がほとんどなく大きな問題にはならなかった。ところが97年に持ち株会社が認められ、銀行や保険会社がグループ会社の株を持ち株会社に集中させた。結果として、例えば銀行系の子会社である投資顧問会社などはバンクホールディングカンパニーの100%子会社となり、同じホールディングカンパニーの子会社である銀行や証券会社と保有株を合算して報告する義務が生じてきた。極端な例では一年に四百件近い大量保有報告を出している会社がある。具体的な例として、バンクホールディングカンパニーの子会社である投資顧問会社がある上場企業の株を0.1%保有していたが、兄弟会社の銀行が3%、同じく証券会社が2%程度同株を保有していたので合算して5%を超えてしまい、証券会社がディーリングを行って合算保有株式が動く度に自分が売買していなくてもその都度に報告義務が発生するという例が現実に存在している。

――それは大変だ。

中井 投資顧問業は顧客に対する忠実義務があって顧客の要望に沿って運用する必要がある。そのため兄弟会社である銀行や証券会社が保有する株とは全く離れて、資産運用の理論に基づいた意思決定のもと売買が行われるわけで、これを合算させることは意味がない。独立した立場で意思決定が行われている際は当局に登録する等の仕組みを導入して会社が個別に保有報告を提出できるよう要望を出しているのだが、認められなかった。これは不合理で過剰な規制として残っている。

――村上ファンドは海外へと移ったが?

中井 シンガポールに移った後にどのような運用実態になるか不明なので確かなことは言えないが、日本株投資に関しては大量保有報告の義務は海外であっても存在する。また、与謝野大臣もおっしゃっていたように、日本人の資金を日本株で運用し、投資助言を行って手数料を得るなら海外に拠点を置いていても投資顧問業法上の登録は必要だ。

――協会の現状は…?

中井 投資一任業務を行っている当協会の会員会社の契約資産残高は、昨年12月末は139兆円で、今年3月末には150兆円には届かないまでも近い数字になっていると推計している。株式市場が好調で時価総額が膨らんでいることに加えて新規資金も集まっている。過去の規制緩和要望の成果もあって郵貯簡保への運用参入が可能になったし、ラップアカウントもまだ金額は少ないながらも、顧客の数は急激に増加しつつある。ラップアカウントの受託金額も近いうちに発表していきたいと考えている。

――今後の課題は…?

中井 成熟した国家になればなる程、国民が持つ資産の運用は経済的・社会的に非常に大きな意義を持つ。従ってこの業界の担う役割は大きい。金融商品取引法が国会で成立すると、来年の施行に向けて政省令の整備がなされよう。政省令段階での規制についても必要があれば当局に要望をしていく予定だ。それに合わせて当協会の自主規制も変えていく必要があろう。これら一連の動きを通じてアセットマネジメントビジネスの社会的認知の向上を図っていかなければならない。アメリカでは投資顧問というのは最も知的な人が携わる職業とされている、日本でもこの業界がそれだけの地位になるよう高めていくことを抱負としている。