ファンド否定は過剰な反応

ファンド否定は過剰な反応

日本証券アナリスト協会 常務理事 天野 俊彦 氏



――アナリストの社会的地位・認知も高まってきた…

天野 アナリストという職種の重要性が向上し、それに対する需要が増すことは今後も間違いないと考えている。ただこの数年、証券会社やその他金融機関の統合・再編等の影響で、当協会の教育プログラムの受講者も減っていた。しかしそれも昨年あたりから持ち直す傾向が出てきている。また、証券投資に関して初心者である方向けの証券アナリスト基礎講座を一昨年から開始したところ、この参加者の累計が3,000人程度になった。主婦や学生の方も受講されており、このところの証券投資への関心の高さを反映したものといえるのではないか。一方で証券アナリスト試験に合格し、かつ3年の実務経験を有する検定会員は4月末で2万112人となった。こちらの方は、少ない年で800〜900人、多い年で1,300人程度増加している。

――このところの株式市場は、村上ファンドの問題もあり調整している…

天野 村上ファンドも株主価値の向上とコーポレートガバナンスに緊張感をもたらしたという点においては評価ができる。だが、証券市場のルールの中で最も大事なのは情報の非対称性を解消し、すべての投資家に対してフェアなグラウンドをつくりあげることだ。インサイダー取引の禁止はその中核ともいうべきものといえる。村上ファンドは、株主価値の向上を目指すと主張する以上は、他の投資家に迷惑をかけないという最低限のところをまず守るべきだった。最も基本的な部分での過ちがあるならば、それ以外の点で得た評価も無に等しい。

――ファンド規制を強化するといった動きも出ている…

天野 ファンド全般の信頼性が疑われるということになれば、それは行き過ぎだ。バランスを持った見方が大事だろう。現在はヘッジファンド、プライベートエクイティファンド、ラーメン屋ファンドに至るまでが存在し、ファンドは銀行、証券、保険に続く第4の金融機関として成長しつつある。そういう意味では一定の役割を金融社会の中で果たしており、その存在を否定するのは過剰な反応だ。

――政府は海外投資家を呼び込むために努力してきた。ファンド否定は逆行にもなる…

天野 ヘッジファンドについては、幾つかの問題が指摘されてはいるが、市場の流動性を高め、また効率性を増すという意味では間違いなく役割を果たしている。プライベートエクイティファンドについても、一定の局面においては、公開会社より事業のリストラクチャリングを効率的に行うと、世界的に評価されている。そういう機能まで否定するわけにはいかない。

―― 一方でディスクロージャーがきちんと機能しなければアナリストの商売は難しい…

天野 アナリストは、公開された財務諸表が公正につくられているとの前提に立って分析を行わざるを得ない。エンロン事件の折には、アナリストには不正行為が分からなかったのかという議論も米国で巻き起こり、議会の公聴会に、エンロンを担当していたアナリストが召喚されたという経緯もある。アナリストの仕事は、過去の実績をベースにしながら将来の収益を予測することにある。資本市場において、それぞれが役割を分担しているわけで、アナリストに不正発見を求めるのは無理がある。

――ディスクロージャーがきちんとしないから、長期投資よりデイ・トレーディングに魅力を感じる投資家が増えるのでは…

天野 一部に問題があったことは事実だ。だが上場企業の大部分はしっかりとしたディクローズを行っている。一部の事件を過大に評価するのは危険だ。資本市場に求められる機能は資源の適正配分だが、その実現には中長期の観点からの投資の存在が不可欠だ。デイ・トレーディングばかりが発達すれば、その基本的な機能の阻害となりかねない。

――証券取引等監視委員会なども、デイ・トレーディングにより株価が短期に騰落を繰り返す現状を憂慮している…

天野 市場において短期の取引が及ぼす影響が強くなっているのは間違いない。一つ大きな原因はヘッジファンドの勢力が増していることだ。それと機関投資家の運用に対する評価が四半期ごとに行われ、短期で成果を上げねばならない構造になっていることだろう。

――アメリカでは、ファンドがつぶれて金融不安が引き起こされた例もある…

天野 ファンドが急成長した背景には、世界的な緩和的金融政策が続いたことが挙げられる。ファンドはここまで順風満帆に資産規模を成長させてきたが、ここからはやや逆風に向かう可能性がある。そのような中で、一部では世界的な金融引き締めの影響により、ファンドが危機の震源となる不安も指摘されているが、金融の体制が昔に比べるとかなり強固になってきている。リスク管理の手法が発達したことや、クレジット・デリバティブの発展によって、リスクが相当分散されていることもあり、極端な心配は不要との見通しが米国あたりでは強いようだ。

――ファンドに対する日本の規制は緩いのではないか…

天野 金融商品取引法はファンド全般を規制対象として取り込み、ファンドの運用者も、金融商品取引業者として位置づけている。従来は銀行・証券・保険のそれぞれに縦割りの法律が設けられ、ファンドをその枠組みの中で規制することは困難だった。新法によって、ファンドを正面から規制するための大きな網は被せたと言えるだろう、これは大きな成果だ。金融庁もヘッジファンドについての調査を昨年12月に行っている。今後の法律の運用が注目される。

――新法はプロ・アマの区別を明確にしている…

天野 今度の金融商品取引法では、プロアマの区分けをくっきりと行っている。現行の規制ではディスクロージャーに差がある程度だったが、行為規制までをプロの場合は緩和した。適合性原則もプロに対しては適用しない、こういった、従来からは考えられないくらいの規制緩和が行われる。プロに対しては完全に自己責任原則が貫かれるわけであり、今後の機関投資家にかかるプレッシャーは非常に大きい。金融商品取引法の作成にあたり、「自由化の促進による金融業の国際競争力の向上」という理念も重視されている。そのため、プロ相手には極力規制を外そうとしているのだが、機関投資家といっても多様であり、投資に関する知識・経験には差がある。そのような背景から、従来は一律プロと見なされていた機関投資家が、自主的に自らをプロとしての認定対象外とするための申請も、この度は可能となるわけだが、それにしても今後はすべての機関投資家はプロとしての運用能力の向上をこれまで以上に求められる。そのような中で証券アナリストも今後ますます、高度な金融技術と職業倫理を両立させたプロフェッショナルとして役割を果たしていくことが期待されていると思う。我々の協会も投資関係業界の発展のために重責を理解し、一層の貢献を果たしていくつもりだ。