福井問題、日銀法の改正必要

福井問題、日銀法の改正必要

参議院議員 大久保 勉 氏



――今回のスキャンダルを知ったきっかけは?

大久保 日銀総裁は極めて中立性が高く、また高潔であることが求められる。一部雑誌などで関係があると取りざたされていたために、それに対しての質問をさせていただいた。その際に福井総裁が村上氏との付き合いがあったということに関しては知っていた。私の最も伺いたかったことは村上ファンドのアドバイザーになり、かつ報酬を受け取っていたのかどうかということだ。村上ファンドへの出資を行っているかという質問は念のために聞いたものだ。総裁には拒否答弁の出来ない委員会で、あいまいにならないようイエス・ノーでお答えいただいた。ただ、網を張って追い込んだ私の方も鮎を獲ろうとして鯨がかかった思いだった。私もすべての情報をあらかじめ知っていたわけではなく、これに関しては日銀国会担当職員の方も全容は知らなかったと思う。

――日本の市場ばかりでなく世界の市場に大きな衝撃を与えた…

大久保 日本のメディアは言うまでもなく15日のニューヨークタイムスなども厳しい論調で評価している。少なくとも金融界の常識からは外れている。中央銀行の総裁が市場変動商品を運用しているということは、少なくとも先進国レベルでは非常に恥ずかしい、ありえない話だ。福井総裁が何を考えているかということは最大のインサイダー情報であり、またこれは福井総裁ご自身のみならず、日銀の機能としてそれをガバナンスする体制が欠けていたことに対する問題ではないか。

――福井総裁の進退に市場の注目は高い…

大久保 福井総裁の辞任についてはご本人の判断する問題と考えている。ただ、ブラックマンデーの再来を防ぐような考慮は必要だ。世界の中央銀行のバンカーとして最も信任の厚かったのはグリーンスパン氏で、それに次ぐ方は大勢挙げられるが、福井総裁も世界で非常に高い評価を受けていた。現在は新任のバーナンキ氏がFRB議長を務められていることもあり、世界中の資金が非常に不透明になっている。そこに福井総裁の辞任となれば市場への影響は甚大だ。進退はご自身の判断で行われれば良いと考えている。ただ辞任されるにしても必ずしも今すぐに辞めるという必要はないだろう。福井総裁も非常に優秀な方なので、まずは市場の安定、信頼の回復、日銀のガバナンス向上などを日銀再生プランとして課して、それが終わった段階で期間を置いて辞任されるという形がベストシナリオではないか。

――審議員制度を設立したときに情報開示体制を構築すべきだった…

大久保 おっしゃる通りだ。私は今回のスキャンダルを福井総裁の個人的人格によるものとは考えていない。問題なのはそれを抑止できなかった制度であり、日銀法を改正すべきだと考えている。資産やその運用状況の公開まで当然行われるべきだった。さらには金利に対する情報がマーケットに漏れるという状況を未然に防ぐための制度的なチェックを設けるべきだろう。現行の日銀法では財務省にしか報告を行っておらず、チェック機能が働いていない。必要であれば証券取引等監視委員会、ならびに金融庁もチェックするという外部からのけん制が必要だ。

――利益を慈善団体に寄付して幕引きするという説も…

大久保 福井総裁自身に利殖目的はなかったという主張を行うということだろう。しかし、数人が共同で投資したという事実があり、その数名が利殖目的であったならば福井総裁が利殖目的でなかったかという主張には疑問符がつく。私は99年の当事に民間人であった福井総裁の出資は利殖目的であったと考えている。その時点では日銀総裁に就任するかということは完全に不透明であった。日銀の理事に就任する際にもし株式などを保有していた場合は、通常は信託を行い自らが売りも買いも全く携われなくすることが望ましい。利殖目的で無かったならば、03年に総裁に就任した時点でそのようにすべきであった。

――その通りだ…セントラルバンカーには高い道徳が求められる…

大久保 インサイダー取引の法的要件からすれば、儲かったらルールに抵触するわけではない、損をしてもルールの違反となる。公正取引はマーケットに参加するための最低限のルールだ。特に中央銀行の総裁という最も高い道徳観の必要とされる方がインサイダー取引とも疑われるような事態となったのは大変遺憾だ。あまりのことに吃驚して二の句が継げなかった。

――財務省が管轄する現状以上の制度が必要だ…

大久保 委員会質問の前のレクチャーで証券等監視委員会にも日銀への立ち入り検査を行うかと質問した。定期検査は法律上の制限があり行われていない。インサイダー取引の問題であれば立ち入り検査が可能となる。だが日銀接待事件等情報漏洩に関して個別事象に関しては公表できないとのことであり、透明性の観点で残念だ。98年には日銀職員が三和銀行と日本興業銀行の接待を受け金融政策の情報を漏らした事件があった。この事件を受けても日銀の中ではインサイダー情報管理強化についての認識が不十分であった。この事件に関して、過剰接待を受けたということのみが処罰の対象でこのような本質的な問題にまでメスが入らなかった。そういう意味で今後、金融政策という要を担う日銀のガバナンス強化には課題は多い。

――その時に情報管理という問題意識を持てばこうした事態にはならなかったはずだ…。

大久保 中央官庁・日銀職員は完全である、という性善説に則った運営が長らくされてきた。従来は銀行もそうであったのだが、金融ビッグバン後は自由化を行うかわりに性悪説基づいて厳しく取り締まる方針となり、その結果としてガバナンスが強化された。これは市場の信頼性を高めるための措置だった。ところが官庁は相変わらず性善説を前提とした運営方針が続いている。接待事件や経済産業省のインサイダー事件が起きたように、性善説である根拠は何処にも無い。公務員の不始末や倫理上の問題が多発する現状では性善説を廃止し、しっかりと組織外部からの監視を行う、もしくは公衆が監視を行うことが出来るスタイルを確立することが大事だ。

――日銀にも透明性を向上し、説明責任を果たすことが更に望まれる…

大久保 私は現在、資産負債管理庁構想というものをつくっている。財政再建を行うために国の資産・負債を一元的に管理する組織をつくり、そこと日銀が何らかのアコードを結ぶ。その両者によって財政・金融一体の中で危機管理を行っていく。そのうえで日銀の透明性を向上させることができるだろう。その際に1950年代のアメリカのように国債の安定化政策を取るのか、英国のようにインフレ・ターゲッティングを設定して金融政策を行っていくかということは議論を行う。このたび日銀法の変更があるならば、日銀の独立性の強化が本当に良いのか、それとも国債管理政策に組み込むことの方が良いのかといったところまで踏み込んで議論する契機だと考えている。私はしっかりとインフレ対策を行うために日銀の独立性は重要だが、透明性を確保するための何らかのアコードが必要と考えている。現在は金融政策の説明責任も充分には果たされず、インフレ対策も国債管理政策に飲み込まれるような運営がされたままだ。この度の問題を単に福井総裁の問題にとどめることなく、大きな意識を持って金融・財政改革の絶好のチャンスとすべきだろう。