劇場型M&Aは過去のものに

劇場型M&Aは過去のものに

レコフ 代表 吉田 允昭 氏



――村上容疑者が逮捕されたこともあり、改めてM&Aが注目されている…

吉田 M&Aは企業の活性化に貢献するものであり、世の中の注目を集めることはありがたいことだが、やや劇場型M&Aに対する騒ぎすぎの風潮もあり、また、M&Aの専門家が各メディアに登場する頻度も格段に増えた。しかし、M&Aの仲介業者は、本来は非常に泥臭い裏方だ。金属同士を結びつける触媒のような存在で、触媒は金属が結合した後は跡形も無く消えてしまうが、それと同じようにM&A仲介業者が表舞台に立つことはない。それから、そもそも敵対的買収の成功事例は古今東西でも稀有だ。企業というのは株主だけではなく、すべてのステークスホルダーによって形成されるものだ。その一つ一つが納得しないものは成功しない。株主権だけを振りかざしても成果は上がらない。多様なベクトルの調整にM&Aの成功がある。

――最近、派手な提案合戦や対抗TOBなども起こっているが…

吉田 M&Aの成功にはカルチャーの融合やシナジーの実現が不可欠だが、そのために最も大事なのはM&Aの大義だと思う。より大義のある方が最終的には株主・社会の支持を得るのではないか。誰にでも分かりやすいM&Aこそ成功の秘訣だと私は考えている。この大義を外すと市場から報復を受ける。シナジー効果から競争力が向上すれば、顧客・取引先や従業員にもメリットがあり、ひいては地域経済にも好影響を与える。ステークスホルダー全体を利する視点を持つことが大事だ。M&Aというのはいつの時代もオーソドックスに行うのが一番だ。華やかになりすぎると、方向性を見失う場合がある。

――村上氏等の事件をどう思うか…

吉田 現在は市場経済が成熟していくまでの過程だ。 “法律違反”を行うことは良くないと誰もが知っている。だが法律の運用がこなれていない現在はあいまいな部分がかなり存在し、そこはしっかりしたルールに支配されるべきだが、正直に申し上げて未整備なことは否めない。語弊を恐れずに言えば、そのような時期に登場してしまった堀江氏や村上氏はある意味、被害者的な側面もあったのではないか。しかし、そういった事象も時代の流れの中で落ち着いていくだろう。そして劇場型M&Aという言葉も、そんなものがあったのか、と言われる時代が来ると考えている。

――御社のM&Aビジネスへの取り組みスタイルは一貫している…

吉田 私は三十五年M&Aに携わり、この会社をつくって二十年になる。M&Aは企業を結びつける仕事だが、その実現のさせ方は多種多様だ。資本・業務提携、買収、・事業統合、合併等々、これらの手法を用いて可能な限りシナジーを高めるという作業はすべて手作りだ。これをやり遂げるためには人や時間といった限りある経営資源を必要とする。一つの案件に対し、平均すれば3〜6カ月という時間がかかる。人数は最低でも3人、多いときは4〜5人が必要だ。そのため、年間でこなせる件数には限度がある。そしてまたM&Aというのは本来、“いいとこ取り”は出来ないビジネスだ。大きな案件に対しての収入は大きいが、一部の業者のように大きな案件しか扱わないといったことはできない。

――M&A業界の成長は目覚しい…

吉田 93年にはM&Aの案件が年間400件程度だったのに対し、今は年間3,000件と8倍近い規模に成長している。我々のようなM&Aを専業で扱う会社の数はそれに対し倍から三倍といったところだろう。投資銀行・証券会社・外資系が入ってきたためプレーヤーはかなり増えている。

――M&Aの近年の傾向は?

吉田 まず大きいのは従業員がM&Aに慣れたことだ。かつて労働組合の了承は非常に大きな条件だった。それが現在では、労働組合の反対は非常に稀なケースとなった。これは労働組合の組織率が下がっていることもある。ニッポン放送のように敵対的M&Aの場合は労働組合の反対が起こることもあるが、それも交渉手段として使われているようだ。二つめは、かつてに比べて企業の選択肢が大幅に増えたことだ。グローバル化に対応するために法律・規制が大幅に緩和されたことが要因となる。日本は明らかに法律の面で世界のトップレベルになったといえるだろう。その結果、法律にルール・慣行や慣れといったものが追いついてない部分もあるが、M&Aが多様な形態で行えるようになったことは疑いない。三つめは、資本のアウトソーシングが可能になったことだ。例えばソニーが米映画会社MGMを買収した案件は5,000億円規模だったが、ソニー自体の出資は300億円程度だった。ソニーは300億円でMGMの持つ豊富なコンテンツを手に入れ、残りの4,700億円をファンドが出すかわりにMGMの上げた収益は渡すというスキームだ。このようにファンドが登場したことで、資本調達がかなり柔軟になってきた。これによって企業再生も容易になった。MBO案件の増加なども、銀行を含む資本の出し手が増えたからだ。

――緩和の進むなかで業界にまだ足りない部分は…

吉田 基本法を改正したのだから、これを運用して自由と規律を両立させる訓練が必要だ。暫くはじっくりと監視して正すべきは正しながら見守る期間を設けることが大事ではないか。我々だけでなく法を支える弁護士などの専門家も新会社法・金融商品取引法を実務的に十分勉強・経験する必要があるだろう。一方、海外からの敵対的買収に備える必要性を唱える人もいるが、敵対的な場合のカルチャーの壁は大きい。来年に先送りした三角合併の解禁もむしろ日本企業の活性化につながる場合もあるだろう。

――今後のM&Aの展望は?

吉田 日本の経済規模からするとM&Aの件数が年間3,000件(グループ内M&Aを含めて4,000件程度)というのはまだ少ない。米は年間1万2,000件程度だ。ざっくり見て日本の経済規模が米国のおよそ半分とすると、まだ5,000〜6,000件程度まで伸びる余地がある。米・中経済が今後も堅調であれば、早くて2008年、遅くとも2010年までにこれを達成し、わが国のM&Aは件数的にピークアウトして巡航速度に入るのではないか。その頃には、成熟したオーソドックスなM&Aが粛々と行われるようになるだろう。今後は技術の習得いかんによってM&A業者の選別が起こる。また、企業内でもM&Aの専門家が増えてくるだろう。企業の中で充分に業界をマーケティングした後に自らが選別した企業とのM&Aの仲介を我々に依頼に来るという件数も増えている。そうした潮流の結果、私は日本の多くの事業が二社に集約されると考えている。プラズマ・液晶・半導体等々、そういった事業でもM&A手法が使われ、どんどん集約が進んでいる。そうやって二社に集約された企業・事業の世界的な競争力は非常に高められ、グローバル市場に勝ち抜く力を備えたものになるだろうと予測している。