国に頼らぬブランドづくりが重要

国に頼らぬブランドづくりが重要

公営企業金融公庫 総裁 渡邉 雄司 氏



――公営企業金融公庫の廃止後の方向性が出た…

渡邉 公営企業金融公庫については行政改革推進法において、「平成20年度において、廃止するものとし、地方公共団体のための資金調達を公営企業金融公庫により行う仕組みは、資本市場からの資金調達その他金融取引を活用して行う仕組みに移行させるものとする」とされていた。この移行後の仕組みについて議論が行われていた。地方公共団体は(1)地方が共同して当該機能を担う新組織を設立すること、(2)同公庫の財務基盤を新組織が承継すること、(3)これらを可能とする法的枠組みの整備、を要望してきた。これに対して一部では地方公共団体はそれぞれ個別に資金調達すべきで、共同調達のための組織は妥当ではない、との意見もあった。しかし、1,800強ある地方公共団体のうち、公募債を発行できる団体は40弱に過ぎないうえに、発行できる団体にも、公庫が供給しているような超長期資金の調達には限界がある。公営企業金融公庫の貸出の8割弱は市町村であり、仮に公庫の果たしている機能が無くなれば、大部分の地方公共団体の資金調達はきわめて困難になる。また、仮に調達が出来てもコストアップは避けられず、それは住民負担の拡大に直結する。結論としてはこうした点が理解され、地方が共同して新たな機関を設立することが決定した。

――新組織への移行にはさまざまな課題や議論が残る…

渡邉 今後決めるべき大きな問題は2つある。ひとつは、地方が共同して設立する新組織がどのような法的性格のものなのかという点。もうひとつは、公庫が保有する既往の資産・負債がどれだけ新組織に承継されるのか、という点だ。資産の承継についてはデューディリデェンスに基づいて適切に新組織に移管・管理するという方針になっている。特に注目されているのはゼロ金利時に既発行の超長期貸出とのスプレッドから生まれた利ザヤ益の帰属だ。これについては将来利率が上がれば、今度はゼロ金利時に発行した貸出とのスプレッドで損失が出るため引当金が認められている。私は公庫の引当金等は、金利低下局面における地方の金利負担によって蓄積されたものであるから、地方のために使うべきだと考えているが、この見解に異論もあるというのが現状だ。

――公営企業金融公庫の低利・安定資金が、地方財政自立を妨げているという意見も…

渡邉 地方の自己規律が働くような仕組みは必要だと思うし、金利メカニズムが働いても良い部分はあるだろう。しかし、公庫の資金は、上下水道や病院など、住民の生活・生存に直結するようなインフラ整備のためのもので、財政状態に関わらず必要となるものだ。これら分野は少しでもコストを引き下げなければならないのだが、その辺りが混同されている。ここでのコストアップは、ただ地方財政の悪化、住民負担の増加をもたらすだけだ。

――新組織は地方の自己規律を高めるための工夫など、現行の公庫の業務とは異なるものになるのか?

渡邉 地方の自己規律を高めることは重要だと思う。新組織にもその観点を取り入れる工夫があっても良い。しかし、財政規律の監視は一義的には新組織の役割ではない。また現実に、現在の人的資源では監視機能が有効に機能することは困難だ。監視機能は基本的には別の仕組みを考えることが必要ではないか。新組織のコンセプトは現在の公庫とは大きく異なるので、すべての面で新たなビジネスもデルをつくっていく必要がある。地方債をめぐる環境も変わる中で、地方公共団体からのニーズも変わっていくだろう。現実的に考えると、新組織の業務内容は当面から大きく変化することは無いだろう。しかし、将来的には地方が環境変化の中で、この組織をどう活用しようと考えるかにかかっている。

――政府系金融機関ということで低金利での調達が可能だったが今後は不透明だ…

渡邉 新設の機関が市場から高い評価を受けることが今後の運営に最も大切だということは地方も当局も同じ認識だろう。国の機関である、政府保証がある、という国のコミットメントより得られた好条件は今後無くなるわけだが、それに代わる地方政府のコミットメントをしっかりと市場に評価してもらう努力が必要だ。また、それとは別に新機関が強固な財務体質を持ち、引き続き金利変動のリスクに対応していけることも大事だ。これらの条件がそろえば新組織の発行する債券は財投機関債という位置づけではなく、国債の次に信用力のあるスーパー地方債だと考えている。市場は新たに異質なものが登場することで当初は戸惑いがあるかもしれないが、その性格を鑑みればそのような位置づけとすることが考えられるし、またそう位置づけられるようにすることが我々の任務だ。

――直近では夕張市の財政破たんなどもあり地方債、財投機関債とも国債と比較してスプレッドが拡大している…

渡邉 私も直近の動きには非常に興味がある。だが基本的には、金利の先高感がある中でボラティリティーが高まっており、特定の商品だけでなく全体的に国債とのスプレッドが拡大していると解釈しても良いのではないだろうか。逆に言えばこの2〜3年の過剰にタイト化していたということだ。そのなかでは一時期、財投機関債と事業債のスプレッドが急拡大した。投資家には事業債と公共債のマーケットは明確な区分があるようだ。事業債の中では電力債などが信用力のトップで償還も多いため比較的スムーズに発行できる。ところが公共債の中では財投機関債は比較的劣後するため、こういう局面では投資家は買いにくい。政府金融機関の見直しによる買いにくさというよりも、金利上昇局面でのボラティリティーの高さがスプレッド拡大の要因で、恒常的な傾向となるわけではないと考えている。

――夕張ショックのマーケットへの影響については?

渡邉 政府は地方公共団体の破たんに備えた法律の導入を検討しているが、私はいわゆる民間企業と同じような破たん法制というのはありえないと考えている。財政というのは市場原理だけでカバーできない部分を担うものであるからだ。ただ、このたびは非常に市場に不信感を与える結果となってしまった。私は早期是正とディスクロージャーの仕組みが不可欠だと思う。新組織の債券がスーパー地方債としての地位を確立するためにも地方公共団体には自律の精神とタイムリーなディスクロージャーが求められてくる。最後に、現在進められている改革の根本理念には「民にできることは民に」と「地方にできることは地方に」という二つの柱がある。我々公庫の改革は「地方にできること」を模索した改革であったといえる。我々は今後、国の機関としての地位も、政府保証も原則上は無くなるわけで大変厳しいものだ。この改革で機能は変わらないとしても相当中身は変わる。これからは自らのブランドを高める努力が必要となる。市場からの声によく耳を澄まし、市場の信頼に応えられるよう最大の努力をしていきたい。