信頼感は市場の担い手が構築

信頼感は市場の担い手が構築

JASDAQ 社外取締役 自主規制委員会委員長 山元 高士 氏



――JASDAQの自主規制委員会委員長に就任された…

山元 ここ1〜2年、市場規律の乱れについて問う気運がようやく証券市場の全体に広まり、特にライブドア事件以降は、自主規制機関がしっかりとした座標軸を持つべきだという議論が急速に高まってきた。JASDAQに自主規制委員会を設置することとなったのも、一連の動きと言えるだろう。自主規制機能は市場の公正性・信頼性と投資家の利益を守るために不可欠の仕組みであり、主体的な実行力の発揮が期待される。金融商品取引法が施行される来年7月に向け、今後も自主規制機能のあり方に関して検討を重ね、関係法令との整合性を図りながら、着地点を見出していくことになろう。今後煮詰めていく課題の例を挙げるならば、利益相反の問題がある。現在私は会社法の趣旨を踏まえ、JASDAQの社外取締役も兼ねている。一方、金融庁は、私が取締役であると同時に、自主規制委員という市場の監視役でもあることに懸念を表わしている。この場合の利益相反は、取引所の取締役としては、上場企業が増えるほど収益拡大が図れる立場にある、しかし企業の新規公開に当たっては、自主規制機能の重要な役割である上場審査を、厳しく適正に行わねばならない、という点にある。こういった問題の回避・解消のためにも、取締役と自主規制委員を兼務するのは2名だけで、委員会の五人のメンバーについては、学識経験者・民間経済研究所・警察といった市場関係者と直接的な利害関係は無く、公益性も強い分野から選出されている。今後、自主規制委員会は、問いただされることの多い新規公開にまつわる問題だけでなく、発行体、証券会社、あるいは投資家といった市場参加者に守ってもらいたい総合的なルールを自ら整備し、体現していかなければいけない中立的な立場にあるからだ。

――その一方、取引所の不適切な取り組みは市場原理において淘汰されるため、兼任による利益相反の懸念は必要ないという意見もある…

山元 本来、市場メカニズムがスムーズに働き、取引所がしっかりと機能していれば心配にはあたらないかもしれない。が、そういった問題視される現象が、今の市場の実態・メカニズムでは適正に排除されるとは限らない。自主規制のあり方を模索し活用することによって、市場のいびつさの是正、その役割の市場参加者からの評価、そして社会的な認知へとつなげていくことが我々の任務だ。

――日本証券業協会の自主規制会議議長にも就任されている…

山元 取引所と協会は不即不離の関係に長らくある。それぞれの自主規制の取り組みが橋渡しとなって、視点を共有していくことは両者の関係にプラスに働くだろう。協会も自主規制に本腰を入れなければいけないという反省がある。今後は各証券会社にも積極的かつ自主的な行動規範に基づく市場仲介者としての役割を要請していくことになるだろう。

――証券業協会における自主規制会議で最も注目されているのは?

山元 各証券会社にも、法令遵守というようなごく当たり前のレベルではなく、より高い倫理観を持ってフェアなマーケットをつくる責任、そしてそれを担うための問題意識に欠落があったのではないかという反省がある。ライブドア事件などさまざまな問題が起きる一方で行政が事後監視型になってきているため、事前予防的規制の部分は自らが担うべきだったという気運が高まっている。ビッグバン以降は紆余曲折を経たが、今までは行政・取引所ほか市場仲介者・発行体というそれぞれのセクターが、互いに問題意識を共有して市場の問題解決に向かう動きは乏しかった。今般のような社会的な問題が発生したことで、関係者が久しぶりに問題意識を共有する機会となった。現在注目されるのは、如何に市場の担い手の間にこういった認識を広め、マーケット・クオリティの維持向上を図るための主体的な行動につなげるか、ということである。

――ビッグバン以降は自由化が先行し、監視・監督が後手に回った・・・。

山元 自由化・規制緩和というのは一つの大きな流れで、自主規制にこれを後退させる意志がないことは大前提に挙げられる。自由化により、証券会社間の競争・金融商品およびスキームの多様化については効果が上がった。問題はそれらがもたらした副作用であり、それら弊害から市場を守るセーフティ・ネットが必要だ。そのためにもタイムリーディスクローズを徹底し、適切な審査・監視をおこなうことで、透明性・公正性を確保していく必要がある。

――自主規制のなかで最も注目すべきは発行の部分か?

山元 発行・組成というプロダクトの部分での自由化は、資本調達・投資手段に大きな利便性を生み出した。しかし他方で、その副作用が顕在化している。特にエクイティ絡みのプロダクトは流通市場が密接に関係するのだが、プロダクトに関わる人たちは流通市場に関して考慮することが少ない。逆に、流通の人たちはプロダクトに対する理解は深くない。流通とプロダクトの関係をしっかりと見据えて、投資家保護を進めることを念頭に置いた発行・組成がなされなければいけない。例を挙げるに、MSCBも資本市場がある特定条件下の発行体のニーズに応えるためには有効な商品なのだが、それが野放図になると流通市場で思わぬ損害や、得べかりし利益を損なう可能性がある。そうしたリスクは投資家や流通に携わる人たちの自己責任である、と突き放すような意見もあるだろう。だが、そうは言っても、市場関係者の多くは急に成熟できるわけではない。本来はすべて自由にした方がよいのだろうが、まだまだ市場参加者の実情に応じてガイドラインを設ける必要があろう。大事なのは最終的にパイを大きくすることだ。残念ながら、本当の意味で市場原理に基づいた理想の市場メカニズムは必ずしも整わない、ということを前提において考えなければいけない。

――自由化と監督・監視は表裏一体だ、しかしわが国では自由化と時を同じくして不良債権問題が大きくクローズアップされ、監視機能の構築までは手が回らなかった…

山元 監視機能が不充分である背景については色々な答えが各人の中にあるだろうが、一つに法令の整備が遅れていたことは否めない。また、エンフォースメントの一層の強化が求められるだろう。そしてもう一つは自主規制機能の活用・強化だ。その根本となるのは、個々の取引所・証券会社の自己責任であり、自己規律に基づいた日々の業務行動だ。監督・検査・監視といった法的規制、そして倫理観に基づく自主規制の二つが両輪として働かなければならない。仕組み上は現在もそうなっているのだが、従来は充分に機能していなかった。

――自主規制機能を高めるためには何が必要か?

山元 やはり最も市場に精通したセクターとして証券会社などの業者・証券業協会・取引所がしっかり問題意識を共有し、高い倫理観に基づいて新たな市場ガバナンスをつくっていくことが何より大事だ。こういった認識を啓蒙し、意識の高いセクターから認識の未発達なセクターへと伝播させていかなければならない。これは我々協会が先陣を切って果たさねばならぬ役割だろう。本来、行政はマーケットの担い手ではない、そして市場原理によってもたらされる自浄効果もまた完全とは言えないものである。市場全体への信頼感は、我々市場の担い手がつくり上げるものだ。それでこそ初めて『貯蓄』から『投資』の時代に、と胸を張って言えるだろう。自主規制機能が遺憾なく発揮されることが市場の信頼性・公正性のカギであるとの認識で、自主規制の動きを今後、いっそう充実させていきたい。