中国の一党独裁は良い体制

中国の一党独裁は良い体制

内藤証券 取締役社長 内藤 誠二郎 氏



――バブル崩壊後を生き抜く経営をしてきた…。

内藤 私がこの会社に転籍したのは平成元年3月、バブルの最後の1年が残っていた。その後、山一証券の破たんの時点で社長代行、その次の株主総会で社長となった。平成2年に第三者増資を行った時点では純財産が165億円近くあった、瞬間的には170億円近かっただろう。しかしその後、バブル期の終えんを向かえ、私が引き受けた時点では純財産が50億円を割り込んでいた。証券会社の中には、財務基盤も厚く危機意識もさほどでないところもあった。市場はいずれどこかで回復すると、人員整理も自然減に任せ、ドラスチックな対処を避けようとした証券会社も多く、これがいくつかの証券会社が廃業や統合に追い込まれた背景だ。非常に経営の厳しい時期にITバブルが起こり、大きな助けとなったが、それまではいわゆる夜明け前が一番暗いという状況だった。当時の苦労の中で培った精神はその後も最も大事にしていくべきものだと考え、希薄化させぬよう努力している。

――御社は日本で先駆けて中国株の取り扱いを始めた。

内藤 中国株は外国人向けのB株市場が開始された初年度の、92年から参画を視野に入れていた。参画を決定したのは緻密な分析に基づいたというわけではない。現地で触れたアジアの活気と日本を比較して感覚的に決めたことだ。それが細々ながらも12年続いてきた。このB株開放というのは一部開放に過ぎない。中国政府は本格的に国内居住者向けであったA株の本格開放に向けて、着々と準備を進めている。いわば我々の12年というのは長い長い準備期のようなものだ。

――中国株は御社においてどのような位置付けにあるのか?

内藤 中国株、とくに中国株に関連する為替が金融収支に占める割合は大きい。上海市場ではドルベース、深セン市場では香港ドルベースとなり、その為替手数料だ。さらに我々は最も早く参入したことで、日本で唯一、域外代理商としての資格を取得しており、提携先と長年に渡って築いてきた関係が非常に良好なことも経営上の大きなメリットとなっている。現在はおおよそだが、金融収支の70%程度が中国株関係から得られている、手数料では15%程度だ。今後活気付いてくれば手数料でも中国株が30%前後にまで膨らむこともあり得るだろう。国内株やディーリングとも合算した全体の収益の中で中国株が占める割合は10%〜15%程度だ。現状は国内株のウエートが高いのは仕方の無いことだが、これを将来は五分五分の形にまでなってゆくと考えている。市場の規模からしてもその可能性は非常に高いだろう。時価総額で言えば日本が500兆円、現在の香港は140兆円で、中国国内が70兆円程度だ。中国・香港を合算しても日本の半分に満たないが、もし中国が国内居住者向けのA株を対外開放すれば、海外からの資金で市場が倍増することもあり得る話だ。そうなれば中国・香港が合算で300兆円規模となり、その成長スピードからもいずれ日本の時価総額を抜いてくる可能性が大だ。また、為替も更に自由化が進めば、いずれ今の2倍、3倍といった元高方向に動くだろうことを想定している。中国株の内藤証券というイメージは定着し始めている。これを風化させないように、さらに鮮烈なイメージにしていくことが今後の大きな経営課題と考えている。

――中国株の販売戦略などは…。

内藤 現在は中国株もネットでの売上額が対面営業を上回り始めてきた。毎朝1,000件、多いときは2,000件の注文がネット経由で入っているといった状況だ。そういった状況を受けて手数料も安くしている。他社との差別化が図られているのは、アナリストが実際に中国の企業を訪問して情報を取っているということだ。中国関連では、スタッフが国内に8人と中国に4人という計12人の体制で行っている。 また、国内投資家の誘引も大きな課題だ。日経CNBCでの毎日の5分間番組や、ラジオ日経で週に1回放送する30分番組、メルマガなどを通じて中国株をアピールしている。また、現在は他社も同様のものを作成しているようだが、中国株二季報「チャイナストックワールド」を始めたのもわが社が最初だ。また、東洋経済新報社とわが社が提携して作った中国株二季報「中国株厳選300銘柄」も8月中旬に発売となった。我々はこれを中国株四季報へと発展させていきたいと考えている。こういった活動の成果もあり、全国の主要都市で春と秋にセミナーを行っているが、ブームの時期には日経ホールを満席とした盛況ぶりも経験した。

――そのほか、中国関連ではどのような事業を行っていくのか?

内藤 加えて現在は、中国本土企業の日本への上場の引受業務も開始する。東証も4年前から中国本土で熱心にIR活動を行っているが、中国本土企業の日本での上場には至っていない。そこでまず、今年10月に産官学の人材を交えて、北京で中国のベンチャー企業家と日本のベンチャー企業家の交流会を開く準備中だ。この3月にはアジアヒューマンネットワーク協会を立ち上げており、その2回目の交流会として位置付けている。東証と大証もこれに参加し、日中の企業家・政治家および文化人などとの交流の場とする。こういった交流会によって、アジアを舞台に提携・協力先を模索していく機会を増やすことは、今後の日本の証券業界にとって大きな意味を持つだろう。現在は、日本だけで考えていると大きな間違いを招く可能性が高い。欧米では取引所の連携が進み、進んでいないのはアジアだけだ。日本・中国あたりが次のターゲットになるのではないか。

――中国のカントリーリスクは…。

内藤 中国が共産党の一党体制であることを懸念する声は多い。しかし、それは実情とは逆で、中国は一党独裁だからこそよいのだ。独裁だから安心できるという面がある。あの広大な国土と13億人の人口を持つ国家が多党制の政治を行うことを想定すると、必ず内部分裂が起こるだろう。中国人は非常に個々の個性が強く、議論の場でも喧喧囂囂(けんけんごうごう)という形容がまさに当てはまる。そういった国民性を持った国が、現状で多党制を採用すれば収拾がつかない。全国で毎年1万件以上の暴動があるが、それらも抑えられている。また、共産党というものも名前だけで、党内部でも一部では変質・多様化が起こっている。それというのも私営企業でのし上がった経営者なども共産党員として参加するようになり、内部で派閥・グループごとに方針の切磋琢磨が発生しているためだ。そういう意味で、共産党が国全体の人民の縮図のような形になっているととらえてもらうとよいだろう。

――北京オリンピック以降の経済見通しはどうか?

内藤 国が貧しく、民衆が疲弊したままであれば暴動や国の転覆などもあり得るだろう。しかし、中国に関して言えばそれは無いと考える。例えば日本でも高度成長期には都市と地方で2倍近くの差があった。中国での格差は10倍を上回るほど大きかったが、それも現在では6倍ないし8倍程度に縮小してきている。胡錦濤―温家宝は両者とも若い時代に地方に派遣された経験があり、彼らは農村と内陸部改革に強いモチベーションを持っている。国全体が高い経済成長を果たしている結果、所得は農村部でも上昇している。中国の人民が求めるのは経済の発展による生活水準の向上だ。そういう意味で共産党は大きな目的を達成しており、これはよい傾向にあるといえる。