金商法への改正は実践的解決

金商法への改正は実践的解決

あさひ・狛法律事務所 弁護士 栗原 脩 氏



――金融ファクシミリ新聞で「こう変わる 金融商品取引法」の連載を行っていただいたが、一言でいうと今回の金融商品取引法(金商法)への改正のポイントは?

栗原 改正の内容は多岐にわたるので、一言で言うのは難しいが、やはり法律の名称の変更が大きいと思う。たとえば、銀行をはじめ金融機関の多くの人びとにとって、現行の証券取引法に対しては、証券に関するもの、つまり日常の預金・融資などとは別の分野の、少し距離のある法律という受けとめ方だったのではないか。それが、「金融商品」という言葉が入ってきたので、随分と違ってきているのではないかと思う。投資信託の窓口販売など、各金融機関で取り扱う商品も多様化してきているので、遅かれ早かれ、こういった法律に直面せざるを得ない状況にあったともいえる。また、当初に議論されていた金融サービス法の構想から見れば、金商法の対象範囲は必ずしも広くないという批判はある。もっと規制対象を広げて、同じ傘の下で規制を行うべきであるという意見だ。ただ、今回の改正は、ある意味では実践的な解決であるともいえる。元々、免許業種である銀行業などを同じ法律のなかに取り込むには、いろいろと新たな困難が生じる。むしろ、法律は別々でも、金商法の法理や規制のやり方を徐々に広げていく方が、現実問題としては有効なのではないか。

――内容面で注目すべきところは…。

栗原 目的規定が2倍近いボリュームとなっているが、そのなかで2つの点が注目される。1つはディスクロージャーの整備、もう1つは市場機能の発揮が盛り込まれたことだ。特に、ディスクロージャーがこの法律の重要な柱の1つであることを明記したことは重要なポイントだと思う。アメリカのSECは、行政委員会的な組織のなかで最も成功した例だとされている。J・セリグマン教授によれば、いくつかの理由のうち、最も大きな理由は、SECが情報の非対称性の是正という法理に基礎をおいたことであるという。これは、端的に言えばディスクロージャーの考え方を柱としているということである。今回の目的規定の改正は、この観点からも意義があると思う。

――金商法の問題点は?

栗原 規制範囲を拡大したことや他の法律を統合したことに伴う分かりにくさがあることは否めない。金融商品取引業の定義が複雑であることや金融商品の定義の意味(デリバティブ取引を定義するための技術的概念としての位置づけ)は、その例だ。しかし、今回の改正が、いろいろな議論を経て成立した画期的なものであることと比べれば、それほど大きな問題ではない。また、包括的、横断的な改正を目指すということがうたわれたことにより、金商法に含まれなかった事項について、なぜ含まれないのかという問題意識が高まっている。例えば、国会の審議の過程で、商品先物取引はなぜ別の法律で規制するのか、その結果、不招請勧誘の禁止の対象にならないのはなぜかという点が問題となった。この点については、特に参議院において相当の議論が交わされた。そういう意味では、デリバティブ取引でも金商法の規制する分野、商品取引所法の規制する分野と分かれることになり、どちらが有効な規制になっているかが問われることになる。一種の競争関係になるともいえるわけで、これは、必ずしも悪いことではない。今回の改正で終わりというわけではなく、今後とも規制の実効性という観点から注目されていくだろうし、必要に応じて見直していくべきである。

――政令・内閣府令については、どの辺りが注目点か…

栗原 金商法では政省令に委ねている部分が多すぎるのではないか、法律で正面から書くべきではないかとの指摘は、国会でもあった。例えば、TOBの改正のなかで、少数株主保護の観点から公開買付者に全部買付け義務を規定した箇所について、全部買い付け義務の生ずる一定の水準に関しては、政令の定める割合以上になる場合と規定されている。この数字は、法律に明記すべきではないかとの指摘があった。これは会社のガバナンスに関する問題でもあり、法令のどのレベルで規定するのが適当かについて、もっと議論が尽くされてもよかったのではないかと思う。政令・内閣府令に具体的な規制の内容が委ねられた事項のなかで、最も注目されるのは、内部統制報告書(財務報告に関わる内部統制の有効性を確保する体制についての報告書)だ。どのような内容になるかは企業の実務に与える影響が相当に大きい。

――新法では金融経済教育についても触れている…

栗原 マスコミ等ではあまり大きくは取り上げられていないが、金融経済教育、いわゆるフィナンシャル・リテラシーについて言及された点は注目している。金融商品取引業協会と認定投資保護団体に関する規定において、これらの団体が金融に関する知識を普及させるように、啓発・広告活動を行うことが規定された。法律の中で位置づけられたことによって、関心は高まると思う。ただ、この問題については、型にはまった、押し付けのような内容のものではあまり意味がない。自発性、創意工夫が活きる形が望ましい。フィナンシャル・リテラシーの議論は、アメリカなどでは、FEDのグリーンスパン前議長や各理事のスピーチでも、個人が住宅ローンや消費者ローンを計画的に活用し、借入過多にならないようにする、ローンなどに関する詐欺的な商法による被害を防ぐ、といったことに重点が置かれているようだ。必ずしもインベストメントについてのリテラシーということではないという印象である。日本の場合は「貯蓄から投資へ」という文脈の中でファイナンシャル・リテラシーという概念がとらえられている感が強い。株式売買の手法などを学ぶことは、それはそれとして悪いことではないが、むしろ投資のリスク、ポートフォリオの考え方、市場変動のメカニズムの把握など、基本的なことを身につけるように配慮すべきだろう。「投資」と「売買の繰り返し」とは違うということをしっかりと認識しておく必要がある。

――ファイナンシャル・リテラシーの向上に必要なのは?

栗原 個人のライフプランのなかでの金融資産の形成という問題意識からすれば、たとえば資産運用業の立場から、もっと積極的に発言や働きかけがあってもよいと思う。アメリカではファンドマネージャーについて、伝記をはじめ、いろいろな書物が数多く出されており、こういうものに接することは個人投資家の立場からも大いに参考になると思うが、日本ではこれまでのところファンドマネージャーが情報発信を行う機会は決して多くはないという印象である。いろいろな角度からのアプローチがあってよいテーマだと考えている。