規制緩和により自然な円安を

規制緩和により自然な円安を

フジマキジャパン 藤巻 健史 氏



――安倍政権が引き継いだ構造改革や小さな政府は日本経済の活性化につながるか?

藤巻 改革は活性化のためには当然やらなければいけないことだ。小泉政権の行ってきたのは資本主義への道ならしといえる。ここで中途に格差是正などを掲げて後戻りさせてはいけない。格差問題は結局、昔、行ってきた社会主義がよいか、資本主義がよいか、という議論を再燃させているのと同じだ。これは本来ならば既に歴史が回答済みのはずだ。資本主義化していかなければ国際競争力で出遅れる。格差を無くすれば、国内での格差は無くなるとしても国際的な格差は圧倒的に開くだろう。要はみんなで等しく貧乏になりましょうということと同じだ。

――では新内閣のような政治要因が、為替相場へ及ぼす影響は…

藤巻 為替相場自体は安倍政権とは関係なく推移するだろう。安倍政権に限らず、基調として円安にしないと日本はダメだと考えている。安倍政権は現在の財政赤字では国がもたないということを掲げており、消費税上げと歳出削減を行う必要がある。これは景気減速要因だ。今の日本では金融政策も、財政政策も、これ以上行っていくのは難しく、為替政策は採らざるを得ない政策といえる。とは言っても、実際の為替相場は積極的に政策を打ち出す必要も無く円安に向かうだろう。そのため、政府は何もせず、円安が好ましいとのメッセージを送り続けるだけでよいのではないか。

――為替政策については長らく議論がされてきたが…

藤巻 円安の方が景気刺激に良いというのは既に政府のコンセンサスになっている。中国などの急成長はこれを証明した典型的な例だ。中国政府が人民元の切り上げを渋る態度をみても分かるように、自国通貨安は輸出競争力の向上と密接に関係しており、経済を刺激する。こういった認識は国内でも随分と広まったようだ。その一方、通貨が高いということは購買力があるということだ、これは買う方にとっては良いのだが、売る方にとってはもちろん、マイナスとなる。これは輸出に限ったことではない、円で物を売るということ自体が、国内であろうと国外であろうと高くなってしまう。例えばの話だが、熱海への旅行などは円が高くなれば大きな損害を受ける。それは円で観光という商品を売るからだ、円が高ければ観光客はグアムやハワイに行って相対的なドル安の恩恵を享受するだろう。これは国内観光客に限ったことではなく、外人観光客にも通じることで、熱海観光の価格が国内外で上昇するということだ。このような現象で生産量が落ちてしまえば、結果として資産価格が下落していく。日本の経済に一番リンクしているのは資産価格だ。熱海から海外への観光客の流出ということが起これば、熱海の土地価格・関連する株価などは大きな打撃を受けるだろう。円が強くなるということは、売るということの一切に関してマイナス効果を生み、生産サイドに悪影響を及ぼす。

――3年ほど前にドル買い・円売りで100兆円規模での介入を行ったが…

藤巻 あの時点で本来は日本人の民間が外貨建て資産を買うべきだった。あのときに民間が購入していれば現在は大きな収入を得ていただろう。その還流する仕組みやインフラが無かったから官が介入を行ったというのが実情だ。私は現在の為替レートが、まだ円高だと見ているが、これは日本の規制の問題だと考えている。規制緩和を通じてインフラを整えれば、民間の資金が自然と円高を解消していくだろう。

――民間資金により円安に向かう際の動力は?

藤巻 円安に向かうと主張するのも、日米間の5%の金利差は為替ディーリングにおいて絶対的なものだからだ。このような状況であればドルが上昇していくのが普通だ。我々トレーダーはドルを売るときは元々ドルを持っているわけではない、売買を繰り返すならば必ずドルを借りてこなければいけない。その際には現状では年5%台の金利を支払うことになるわけで、ドル売りというのは常にハンディキャップを支払うことになる。私はスイスフランで勝負した経験もあるが、金利がブレイク・イーブン・ポイントを押し上げて大変な苦労を強いられた。ディーラーにとって金利差は大きなハンディとなると同時に、実需も同様に先物におけるヘッジコストが大きく膨らんでしまう。トレーダーにとってみれば、金利差が4.75%であろうと、4%であろうと絶対的に高い水準だ。2%が見えてきて初めてニュートラルに近づく印象だ。例えば、双子の赤字のような理屈などは為替相場にいつ効果を及ぼすかも分からず、きょうやあすに関しては痛くも痒くもない。しかし、金利差というのはきょう痛い。総じて、金利というものは為替相場において非常に大きな意味を持つ。そのため、金利差主導で円安ドル高の流れは続くのではないだろうか。

――個人の投資家も動き出して円安方向へと動き出した…

藤巻 心配しているのは日本から米の長期国債に資金が流入しすぎていることだ。現在の長期金利は低すぎると考えている。私は本来であれば現在の日本人には米株式投資が一番よいと考えているのだが、慣れていないこともあって長期債を買ってしまっている。どうしても固定金利商品が欲しければ今は短期物を買うべきだろう。

――国力に見合った為替水準は…

藤巻 通貨というのは通信簿と同じだ。国力という成績に応じて採点されなければいけない。実力不足であるならば「2」をつけて発奮させることが、お歳暮を贈って「5」をもらうよりよっぽど好ましいだろう。同様に、国力に対して不適正な為替レートは発展の妨げにもなる。国力が弱含んだ時期、国力の活性化が必要な時期には、通貨を弱くして輸出競争力をつけ、生産サイドである企業の業績をよくするべきだ。輸出をテコに企業価値や不動産が高まり、金利も上昇局面となることで、投資対象としての魅力から海外へと流出した資金は再び回帰する。また、その過程において通貨価格が自律的に向上していくことで、再び海外に対する購買力が高まっていく、といった調節が行われる。日本経済を一番スムーズに安定させることが出来るのは、為替政策だといえる。これは人為的に崩してはいけないサイクルだ。小泉前首相はさまざまな規制緩和を行ったが為替に関しては行わなかった。しかし、より効率的なマーケットをつくるべきではないか、そもそも金利の低い日本で満足している現在のマーケットは非常にいびつにゆがんでいる。そのようなところで資金が停滞するから円安もまた進まず、日本の経済は復調に多くの時間がかかった。

――足元では米株式は好調な一方、日本株が伸び悩んでいる…

藤巻 為替が基調にあるにせよ、足元の日本株の不調はマスメディアが片棒を担いでいる側面がある。米経済の失速論ばかりが唱えられているが、米経済の実態は巡航速に抑えただけで、むしろ最も理想的な状況にあると言ってよい。巡航速度に経済が減速するならば今後の米経済は黄金期ともいえる状態になるのではないか。米国のGDP成長が5〜6%などとなれば、むしろ危なくて仕方ないという認識だ。06年第2四半期の確定値は2.6%だったが、来年には最低で3%と、米経済政策の狙い通りの巡航速度に調整されていくだろう。経済の減速というのは失速ではない。日本のマスコミのように減速=腰折れといった論調を持ち出すのは間違いだ。FRBの利上げは成長をベストシナリオで安定的に持続させるために行っているものであり、減速=最高といった認識こそが正解だろう。