市場に負けないスピード感が重要

市場に負けないスピード感が重要

金融庁 証券取引等監視委員会 事務局長 内藤 純一 氏



――証券市場の規模の拡大、多様化の中で監視委の役割はますます重みを増している…

内藤 ここの業務は一口で言うならば証券取引法および金融先物取引法、この二つの法律の執行の担当だ。しかし、法律は今大幅な改正を行っているし、その一方金融ビッグバン以降の規制緩和も進んでいる。現在は可能な限り市場を自由にしていこうという大きな流れがある。とはいえ、その一方で自由化が、好き放題、不公正といった弊害につながってはいけない。市場の信頼、特に一般投資家に対しての信頼を保っていくことが大切だ。そのためにはやはり法を執行させる体制を強化する必要がある。

――自由かつ信頼できる市場の実現に向け、監視委の組織を拡大すべきとの意見も多い…

内藤 各方面から監視委を充実させるべきとの声があることは非常にありがたいことだ。我々も一段と重い責務を担っているとの認識を高め、強化された体制に相応しいだけの成果を上げていくことが必要となってくるだろう。またもちろん、今以上に告発や処分勧告の件数を上げるだけでなく、風紀を引き締め市場のモラルを向上させるような結果につなげたい。

――米国のSECは組織規模で現在の監視委の10倍近いというが…

内藤 監視委の人員拡大が必要だという意見には同意する。確かに日・米のマーケットと比較した際に米国のマーケット規模は圧倒的なものがある。日本の場合はまだまだ間接金融に頼る部分も多く、直接金融が未発達だという指摘もあるが、市場の不正を察知、調査、そしてそれを解明していくという監督作業には案件の大・小を問わずほぼ同等の労力が必要だ。そういう点では決してSECと比べても引けをとらないだけの人材をそろえていく必要があるだろう。ただ、闇雲に規模の拡大を図れば、監督能力の向上に寄与するのかといった論点は残るところだ。また、単に米国の方式を追求するだけではなく、日本なりの最もふさわしいやり方を模索していくことも有効なのではないか。

――日本流とは具体的にはどのようなことを想定しているのか?

内藤 日米を比較した際に、米国は法律社会としての基盤が日本よりはるかに備わっていることが弁護士の数、訴訟件数などからも分かる。また、米社会はその構造的に、法律や裁判といった明確なルール無しでは種族やマイノリティーの壁を越えて権利を平等に守っていくことが困難な社会であるとも言える。一方、日本の場合は英国や欧州の形に比較的近いのだろう。法律的な行政指導、あるいは免許制度に基づいて管理・監督が行われた時代とは大分違い、非常に自由化・規制緩和が進んでおり、それなりの法を執行させる役割が重要となっているのだが、その一方、国民の負担となる執行に携わるコストを可能な限り効率化し、抑えるということが課題だ。そのためには自主規制機関を育成することが肝要だろう。それは証券取引所であり、証券業界であれば日本証券業協会だ。そういったところで自主ルールを作成し、自己規律を図っていく。法律というのはある意味、業界の最低限の基準だ。必ずしもそれ自体が違法ではないが、紛らわしい取り組みなども、法の境界線上では現れるだろう。李下に冠を正さずと言うわけではないが、より良い取り組み方針、ルールを業界内で自ら取り上げて論じていくことが大事だ。現在は金融庁からそういった要請がそれら機関・団体に出され、業界内ルールの見直しを進めてもらっている。こういったルールをつくるだけではなく守っていくことが大事であり、ルールには違反の際のペナルティーなども盛り込んでもらう。そういった形でより良い取り組みを行う証券業者が評価を受け、残っていくのが理想的であろう。そうすれば監視委の活動は、より小さなコストにより業界の自主ルールを補助していく形で、市場の信頼向上により高い効果を期待できる。法律的には我々が証券取引所、ならびに日本証券業協会を監視していく立場にもある。その一方で、我々は協力者として連携していくということが重要だ。

――来年度に施行される金融商品取引法だが、多くの業者が免許制から登録制に移行することを懸念する声もある。

内藤 登録制により一段と規制緩和が進む、ということだが、それは新規参入の増加などで市場に活気をもたらす役割も果たすだろう。それは非常に重要なことだ。やはり世界・アジアを見ても、東京市場は世界経済においての比重の大きさにもかかわらず、伸び悩んでいる。かつては世界の三大市場の一角を担ったのだが、米・欧の市場に引き離された、というのが現状だろう。そういう面で市場の活性化は欠かせない部分だ。その一方で、自由化が進む中、我々が法を執行させるための体制強化が巧く働かなければ、望むような結果にはつながらないという危惧はある。その中で我々の監視の方法も相当洗練される必要がある。証券会社などに検査に立ち入る、事業法人のディスクロージャーの中身を精査する、あるいはインサイダー事件を追いかけるにしても、その時代に相応しいやり方に変化していくスピードが強く求められる。例えば、証券会社が今年になってから30数社参入し、ほぼ同数が廃業へと追い込まれている。これだけ入れ替わりが激しい中で、我々としても検査、そして検査からの結論もスピードと効率が求められる。そのためには重点を置いた運営が求められるだろう。これはディスクロージャーの調査に関しても同じだ。

――今事務年度の目標としてMSCBなどを挙げているが…

内藤 大きな課題だととらえている。今まではどうしてもインサイダーや相場操縦という場合にも、その部分だけを切り取って法律に照らし合わせる手法を採ってきた。しかし、現在の問題の中には単一な要素だけでなく複合的にさまざまな問題同士を組み合わせることで利益の追求を図ろうとする案件が増えてきた。組み合わせに用いられるのは例えば、投資ファンド、TOB、MSCBを不正に利用した資金調達などで、これらをパーツごとに調査するのでは解明が困難な場合がある。

――監視委から金融庁への建議が目立ってきているが、非常に良い傾向だ…

内藤 現場で個別の案件に取り組む中で、法律的な手当てが今一歩及んでいないということで悔しい思いをするということはある。透明性を向上してさらに現状を高めるための現場の意識を金融庁に伝えるということは我々も非常に意味があると考えている。金融庁の方も監督は日々行っているわけだが、やはり検査の現場とは距離がある。我々が現場で発見した問題点を持ち帰り、検討したうえで建議足りうるものであれば企画当局に伝え、彼らに一もみしてもらったうえで立案可能か検討してもらう。このような連携はとても大事だ。

――検査の対象や、不正行為も多様化しているが、対応する人材は?

内藤 ヘッジファンドのような比較的新たな投資の主体をはじめ、越境取引など、従来とは異質でつかみにくい事例はますます増加してくるだろう。今までの海外当局との情報交換は我々の必要な情報だけをいただくといった一方向のものが多かったが、それだけでは海外からの不正行為は取り締まれない。今後はさらに親密な連携行為が必要だ。それを行うための人材も多様な能力が求められる。今現在は、民間の金融機関、証券会社、他省庁からの出向や、弁護士、公認会計士などといった方々90名程度に来ていただいているが、我々ほど極端に多彩な背景をもった人材をそろえている組織は霞が関でも珍しい。何よりもこれから益々人的な規模を拡大しようという中で、そういった方々には頼っていかざるを得ない。そうした人材を確保するうえで大事なのは監視マンとしての仕事がやり甲斐もあり、彼らのキャリアアップにも大きな利益になるということを我々もアピールしていくことだ。米SECなどは優れた弁護士などが数多く在籍している。それは証券法、会計の世界に非常に精通しているという評価を得ることが可能だからだ。そういった組織としてのアピール力を身に付け、優秀な人材の方と監視委が相互に高め合い、市場に貢献できるような組織としていきたい。