「オラが町投信」を全面的サポート

「オラが町投信」を全面的サポート

さわかみ投信 代表取締役 澤上 篤人 氏



――地方の勉強会での講演を大変な数こなしている…。

澤上 東京に比べ、地方の方が資産運用を学ぼうという意気込みは、必死なものがある。そういった真剣な要望に応えるのは我々の社会的な役割でもあり、また、一緒にがんばろうという気にもなる。預貯金で預けている資金は眠れる最大の資源だ。地方経済の活性化には産業振興、企業誘致、観光振興などの方針が挙げられるが、実際はなかなか難しい。ところが、地元住民の懐が豊かになれば地方経済活性化の目的は達成できる。であれば、産業振興のような困難なことを考えるよりも、資金の長期運用を盛りたて役とすれば、設備投資などのコストは必要ない。運用はグローバルであり、地方も資金運用によって世界の成長を取り込めばいいわけだ。つまり東京に住もうが地方に住もうが、運用で100万円を得る機会は平等だ。そのうえ、インフラコストは地方の方が圧倒的に安い。同じ100万円の運用利益を上げるにしても、地方での資産価値は非常に大きい。ある程度、運用が成果を挙げることができたならば、各人の消費にもつながり、地方経済の活性化にもなるだろう。私は6年以上前からこのように「地方は投資・運用で世界の成長を取り込むべき」と提唱してきたが、最初は半信半疑な態度も多かった。しかし、この一年程度で運用をやらなければどうにも活性化は難しいと、大いに意識が変わってきている。

――さわかみ投信は8月に7年足らずで2,000億円を突破した…

澤上 現在は2,100億円、投資家数は9万人程度だが、これからの増加はさらにペースを増すだろう。現在の社員は56名だが、これは今後の爆発的増加に備えてのものだ。現状の規模に満足するのであれば、人数はその半分程度で充分だ。しかし、世の中のニーズはそれだけではとどまらないだろう。3,000億円は目の前、5,000億円、1兆円も決して遠くないという印象を持っている。来るべき規模の爆発的な拡大に備えて人を育成しておかなければいけない。また、全国各地で「オラが町の投信」を設立するお手伝いをしているが、そこへ人を送り込んで手伝うこともある。

――個人でファンドを立ち上げることへの支援か?

澤上 むしろ、地方の草の根活動の支援だ。志のある地元の人たちが、地元住民のために自ら投信を作れば良いと考えている。いわゆる「オラが町の投信」といった形だ。実は既にそういった投信が3つ認可申請に入っている。私としては、4〜5年のうちに全都道府県においてそういったものが立ち上がって欲しい、と考えている。既存の金融機関は商売っ気を出しすぎて、手数料で稼ごう、儲けようとしている。裏を返せば、地元の人は稼がれてしまうわけだ。運用側の稼ぎのためでなく、志のある住民が地元の方々の資産形成のためとなる投信を作るべきだ。そのために私たちは黒子として全面的サポートを行っていこうと考えている。現在、認可申請に入っている投信は大阪、東京、そしてもう一本は全国版で、全国版は学校の教員がベースになっている。運用は結果がすべてのシビアなものであるから「オラが町投信」は運用を一切しない。そもそも国内の運用能力はまだまだで、運用のまね事はすべきで無いだろう。その代わりに、本物のパフォーマンスができるファンドを複数組み入れたファンド・オブ・ファンズとする。

――「オラが町ファンド」がさわかみ投信のように成功していけば影響は少なくない…

澤上 すべての「オラが町ファンド」は追加型を採用していく。世界を対象にした運用を行うわけだから、成果をすぐに求めるわけにはいかない。しかし、そもそも手数料が格安な本格派投信であるから、時間を追うごとに成長するだろう。以前に私どもがお手伝いした税理士さんのファンド「ありがとう投信」は立ち上げから2年が経ったが、運用成績は年率12%だ。こういった先行モデルの存在もこれから大きく効いてくるだろう。運用コストの割高な既存の投信や金融商品も、そのような動きがあればふんぞり返った態度での商売は行っていけない。そうなってこそ、日本の金融界全体にとっての刺激となるだろう。

――御社自身のファンドの運用については…。

澤上 わが社のファンドはすべてアクティブ運用だ。今は日本株に集中して、これから10年くらいかけて訪れる大きな上昇相場を取っていこうと考えている。そう考える理由は3つある。まずは、日本の企業経営が発展途上型の拡大一本槍から成熟経済へと変化してきたことだ。拡大のころはとにかく前倒しでコスト、土地、人材を抱えよう、とする姿勢が見られた。また、たとえ自転車操業的であってもそういった姿勢でないと競争に出遅れた。ところがこの10年間で、余剰な人員、土地、設備が固定コスト削減のために調整された。これによって景気変動にからきし弱かった企業体質が改善され、現在の規模でも充分食っていける企業体質となってきた。これにより投資家が株式を長期保有しやすくなったことは大きな変化だ。第二点は日本株の所有構造が変わったことだ。バブルの頃は政策保有や持ち合いが全発行株式の54%あった。そのうえ機関投資家が18%いたから、72%は「日本の企業村」の論理が占める世界であった。一般投資家の望むのはキャピタルゲインとインカムゲイン、その基盤となる利益成長だ。ところが、その72%の多数派は決してそうではなかった。例えば持ち合い企業同士による配当の削減だ。この企業の論理によって少数派であった一般投資家は不利益を蒙っていた。しかし、現在では持ち合いは持ち合いが13%程度にまで縮小し、機関投資家を含めても40%余りだ。逆に株式の50%以上を海外投資家や一般投資家が持つ市場となり、彼らが市場から圧力をかけるようになった。そのため、利益を出す会社の株式は買われ、出せない会社は売られるという正常な形に戻った。売られた会社は経営体質の改善、M&A、経営者の入れ替えなど、さまざまな市場原理の対象となるだろう。第三点は、個人の預貯金からの資金が流入していることだ。これは永久凍土がようやく溶け出したようなもので、一回溶ければ元には戻らない。一回投資をやって成功すれば、その成功体験で投資が続けられていく。また、失敗して再び預貯金に戻るにしても、失われた金は相場に勝った誰かの手には入っているわけで、その彼が投資を続けるだろう。さらに、現在の株式市場に手を出すのは怖いが、と待機している資金がある。それらは株価が下がれば買いどきと見て底値を支えるだろう。我々も今年は株価が下がったこともあり、既に約870億円の買い仕込みをした。今年は運用成績を二の次として、国内株を対象にとにかく仕込むという姿勢に徹している。

――最近はプライベートエクイティファンドなど多種多様なファンドが登場しているが…

澤上 現在は貯蓄から投資へ大きく資金が移動する時期だ。物珍しい取り組みが現れるのも当然だろう。しかし、私が言いたいのは、時は等しく経過しているということだ。5年、10年経った後も我々は残っていく。投資家もそのうち経験を積み、目が肥えてくる。物珍しいだけの商品であれば離れられてしまう。また、構造的な変化もそれをさらに促すだろう。今までは盲目的に金融機関に預貯金を行ってきた利用者が自ら投資を行うようになれば、金融機関からの資金の流出が始まる。この点、私募投信の大きな顧客は、これまで黙っていても資金の集まった金融機関だ。個人が自ら運用を始めることで、それらの金融機関への資金供給が止まれば、金融期間やファンドの大規模な淘汰が始まるだろう。