対話を重視し企業価値向上

対話を重視し企業価値向上

ジャスダック証券取引所 代表執行役社長 筒井 高志 氏



――経営計画を順調に前倒している…

筒井 私が05年に就任した際には2年・2年・3年の7年計画を想定していた。最初の2年で土台を作り、次の2年で展開し、その後の3年ではグローバルな競争力を持てるようにするというものだ。ただ、土台作りに関しては06年の7月で委員会設置会社ともなり、その時点で多様な領域から専門性の高い人材にも集まってもらえた。このため、人と組織は整ってそれなりの陣容になってきたと自負している。従業員数は約150人であったものが、現時点で170人となった。今後は200人程度をメドに増員していきたい。また、執行役クラスとの議論も進み、その下で働く社員の意見も可能な限り汲み上げて、一つ一つに答えを返している。この結果、社内にも一丸となれる方向性が出来てきたという認識を持っている。

――取引所の方向性とは?

筒井 基本思想として取引所は皆さんとともに作り上げるものだという認識だ。取引所だけが独善的にこれがよい、と思ったものを推し進めることはない。まずはステークホルダーの皆さんと一緒にいい市場を作り、守っていく。その上で、どれだけ機能を洗練させられるかが大事だ。このためにはまず、自主規制機能の質が上がることが必要だ。質の高い規制とは、ギスギスと規制を厳しくするという方向性とは異なり、より適正・適切に規制していくということだ。的外れな規制を行う、判断にやたらと時間がかかる、これらは適切とは言いがたい。そのような無駄の無い規制を実現していくには、個人のプロフェッショナルなスキルを向上していくことが不可欠だろう。組織的にも委員会設置会社となったことで自主規制機能はより独立性を増しており、これを機に自主規制と市場運営のあり方も透明性・効率性の高いものになっていくと考えている。

――規制が単なるブレーキではないと…

筒井 そのとおりだ。質の高い自主規制機能が市場参加者を惹きつけ、市場運営機能により付加価値を生み出していく。このため、市場運営部門に「市場本部」や「ステークホルダーズ本部」といったエンジンやアクセル役となる部署を設置し、より市場や市場関係者との連携を密に出来るよう努めている。適切になったものをどれだけ外部に理解していただけるか、発信したものに対して外からの意見をどう吸収し反映させていくか、というコミュニケーションを円滑に行うことが重要だ。こうやって構築したPDCAサイクル(Plan→Do→Check→Action)を可能な限り効率よくしていくことは大きな課題の一つだ。

――ステークホルダーズ本部の業務は…

筒井 あらゆるステークホルダーと連絡を密にして、こちらの意見を発信し、また外部の意見を吸収することを目的とした部門だ。いわゆる支援・サービス部門といえるだろう。サービス産業としての取引所を強化するという役割も果たしていく。現在はIR支援サービス、ガバナンス支援サービス、流動性向上サービスなど、企業に対するアドバイス能力を一つ一つメニュー化している。また、今まで無かったアイディアとして、「JQバリューアップ診断」というサービスを開始した。これは企業のトップの方にアンケート形式で110余りの質問を1時間程で答えていただき、それをベースに上場企業の企業価値向上のための提案を行うというものだ。アンケートにはヒト、組織、技術、企業文化など、いわゆる財務諸表に反映しきれない企業の価値を引き出すための工夫が施されている。これを通じてJASDAQの上場企業経営者が、自らも気づいていなかった強みを発見していくこと、或いは気づいていてもうまく投資家に発信できていなかった、という“気づき”を提供するために開発したものだ。まだこのような試みは始まったばかりだが、この方向性はもっと色濃くなってもよいと考えている。従来の取引所のあり方から、一人一人の職員が付加価値を生みだすためにJASDAQとして何が出来るかを市場の参加者とともに考えていく、そういった体制を整えていきたい。この市場関係者との連携能力と、自主規制機能の質を上げるという双方向の動きが両輪として働いたときに取引所として一段と上質のものが出来上がると考えている。

――最近は大型銘柄がJASDAQに来ているのも見受けられる。

筒井 評価されるのは光栄だが、実力としてはまだまだだ。取引所化から2年が経った今年は、具体的な成果を出して、周囲から明確な認知をしてもらうための一年だと考えている。経営計画を前倒すのも、この一環だ。この点、今年の上場数そのものは、去年とそう変わるペースではなく、順当に年間60社前後は達成していくのではないか。

――JASDAQブランドが確立してきた印象を受ける…

筒井 それぞれの市場が特色を出していくべきだというのが私の持論だ。それらが競争することも勿論だが、うまく噛み合って日本の市場全体が上昇していくことが理想だ。このうち、我々ジャスダック証券取引所のビジョンは明確で、目標はIPO市場として最良のものになることだ。当然、日本一のIPO市場を想定し、可能ならば世界一という座に挑戦していく。外国の企業が日本国内での評判を聞きつけて、JASDAQ市場での上場を検討していただける、というのが理想だ。我々も本来は7年計画の終盤でグローバルな競争を行いたかったが、現在の情勢はそうも言っていられなくなってきた。このため、米国のナスダックや韓国のコスダック、中国の深センなど海外との対話も昨年辺りから徐々に取り組み始めている。

――JASDAQに新コンセプトの市場を創設すると…

筒井 まだ最終決定ではないが、新規性の高い事業を対象とした市場の創設も検討事項の一つである。バイオ、ナノテクやロボット関連、ニューコンセプトを備えたIT事業などの分野だ。これら新領域に大切なのは事業のシーズ(種)は何なのかということをしっかりと評価していくことではないだろうか。これは取引所が、新技術を用いて進めようとするビジネスの展開に如何に評価ができ、その内容を見極めることが出来るかということだ。また、実際に株式を公開する場合には、投資適格と判断されるだけのしっかりとした情報の適時適切な開示、事業内容の説明・IR(投資家向け広報)を行えるかどうか、これらをしっかり押さえていくべきだろう。新領域の潜在価値や成功の可能性については外部の専門家の評価も必要となるだろう。ただ、もちろん取引所はステークホルダーとの対話を重視して作るものであり、上場企業、証券会社、投資家などとも趣旨を共有していく必要がある。