監査役は制度の充実より使命感

監査役は制度の充実より使命感

日本監査役協会 会長 笹尾 慶蔵 氏



――監査役の仕事がどんどん重要になっている…。

笹尾 日本監査役協会の会員会社は、02年度末には約4,100社だったが、今年1月には5,500社を越えており、急速に増加しているのが現状だ。そして会員会社の49%が非上場企業となっている。

――半分が非上場とは意外だ。

笹尾 以前は、会員の3分の1が非上場で、残りが上場企業という構成だったが、最近は、非上場の新興企業の入会が増えている。最近入ってきた新興企業の監査役に、入会に至った経緯を聞くと、「監査役の責任が重くなっており、個人で勉強していても追いつけない状況なので、協会で勉強したい」との答えが返ってきた。これらの企業は、いずれ会社を上場させ大きくしたい、との意欲を持っている。そのため、今の大企業の実態を知りたい、交流したい、との意見も多い。そういう面からも、意欲的な会社が加入してきていることが分かる。

――監査役といえば、昔は定年までの数年間を過ごすポストのように思われていた。

笹尾 私は20年前に一度監査役に就任し、その後執行を経て、再度監査役に就任したのだが、最初に監査役に就任したころと今とでは、監査役を見る世間の目の厳しさには、雲泥の差がある。監査役は、昔は待遇のために与えた役職だった。だから監査役になったからといって何もやっていなかった。何もしないのが、良い監査役とまで言われていた。

――いつから、そのイメージが変わったのか・・・。

笹尾 02年の商法特例法の改正により、監査役設置会社と委員会設置会社との選択制が採用されたころから大きく変わってきたのではないかと思う。それまで、日本の企業にとって関心が薄かったコーポレートガバナンスが大きくクローズアップされ、各社が対応を迫られた。監査役制度の本来の形では、取締役会による代表取締役の業務執行の監督が基本にあり、さらに監査役が監査するという形になっているのだが、02年改正までは、取締役会の監督機能については手付かずのまま、専ら監査役の体制を強化してきた。それが、02年改正で、監査役も含め、取締役会の改革が必要となるなど、コーポレートガバナンスに関する関心が急速に高まったのが大きい。実際、それまでは名前だけの監査役も多かったのだが、最近の新任監査役の顔ぶれを見ると、経理にも造詣があり、強い使命感を持った有能な監査役が増えている。

――現状において、改革が必要と考える点、検討すべき点を挙げるとすれば・・・。

笹尾 不祥事が起こると監査役は責任追及される。私は今の監査役制度については、制度としては、ほぼ完璧になったと感じている。ただ、企業不祥事が起こったら何にでも対応できる制度というわけではない。また、監査役はそこまで責任を持てない。会計監査人についても同じだ。監査する側にも、もちろん責任はあるが、各々の職責を整理して議論を始めないと、不祥事が起こったら、何でも監査する側が悪いという議論に陥りやすくなってしまう。監査の仕事に一番大事なのは使命感だ。制度の充実を要望するというより、監査役が自分の使命をどれだけ理解して、どれだけ忠実に対応できるかということのほうが大事だ。使命感についても、単に監査役の問題だけを取り上げて議論するのではなく、コーポレートガバナンスの一環として、監査役、取締役会の監督、会計監査人との連携などを見なければならない。それ以前に経営者自身の道徳心、社会規範、法規範、行政・司法の対応、すべての合わせ技で会社や社会環境はよくなっていく。全体を見たうえで、監査役の役割を議論すべきだと考えている。

――日興の問題を見ていると、委員会設置会社よりも、監査役設置会社のほうがいいように思うが・・・。

笹尾 どちらが良いかという議論よりも、委員会設置会社における監査委員と監査役の制度の違いを理解することが必要ではないか。まず、監査役制度では、常勤監査役の役割が重要となる。すぐれた組織を構築して、それを運用することで事業が順調に進めば問題ないのだが、ほとんどの場合、構築された組織をうまく運用できなくて問題になる。そこで、監査役は、組織の中で業務に関与している人の日々の行為、プロセスに密着して、実態を調べる。現場を回らなければ実状はつかめないので、監査時間を十分に確保できる常勤監査役が必要となる。一方、アメリカ型といわれる委員会設置会社では、監査委員が執行部を監視する際、執行部の中にある内部監査がしっかり実施できているかをチェックする。だから、委員会設置会社の監査委員は現場を回らないのが原則で、その代わり、内部監査をしっかりやるとされている。ただ、執行部の中での監査は甘くなる。自分の行為を自分でジャッジすることはできないので社外委員を置いて監査する。どちらの制度も想定どおりの監査が行われれば、同じ効果が得られると考えている。日興のように委員会設置会社制度をとっている会社も、協会に加入しているのだが、実は監査委員は忙しい。制度が想定した監査方法をとらず、監査役と同じことをやっているからだ。一番大事なのは、やはり制度より、現場で実態をつかむことなのだ。

――監査する人が現場に行かないと意味がない・・・。

笹尾 アメリカでは、執行と監督が分離されており、監督する人は良識があれば、現場を知らなくてもやれる、としている。アメリカではそれが可能かもしれないが、日本の場合、執行と監督は完全には分離できないと考える。ある程度、現場が分かった人でなければ監督できない。これは文化の違いだ。日本の文化を前提にすれば、監査役制度がいいと思うし、アメリカでは、監査役は必要ないと思う。現在、委員会設置会社に移行した会社は100社程度あるが、最近はあまり増えていないし、反対に監査役制度に戻している会社も出てきている。制度さえ変われば何でも良くなると考える人を、私は制度原理主義者と呼んでいるが、このように考える学者などが多いのだが、大事なのは制度ではなく運用である。それに、アメリカと同じことをやっていなければダメというのはおかしい。日本には日本の文化や風土があるのだから。ただ、監査役制度は、現在とほぼ同じ形になってから30年以上経過しているのに比べ、委員会設置会社は4年程度しか経っていないので、その制度をいま非難するのはかわいそうかもしれない。

――日本でも内部統制の実施基準がまとまっているが・・・。

笹尾 J−SOXといわれているのは、財務報告に係る内部統制であって、一般に言われている内部統制は財務報告だけではなく、もっと広く業務全体にかかわるものだ。金融庁が言っているのは、投資家保護の視点が大事だということで、市場を守るという意味ではいいことだ。業務が適正に遂行されるシステムを作るのは経営者だ。今までは、経営者の責任が脇におかれ、監査ばかりが強化されてきたが、今は、アメリカの影響もあり、経営者の責任が明確になってきた。経営者が自社の内部統制については、自分の目で見て、間違いないという内部統制報告書を作り、監査人が監査する。この制度自体はいいことだ。ただ、具体的な現場の話をすると、ITの導入により、インプットすれば記録をはっきり残すことはできる。インプットさえすれば、機械なので決められた通りに計算し、記録していくが、正しくインプットされているかどうかが問題になる。業務上の問題点はインプットするまでにある。実態と建前とのカイ離をどのように埋めるのか。絵を描くのは簡単だが、これからどう運用していくのかが問題だ。J−SOXのいう方向性は間違っていないと思うが、問題なのは、どのように運用していくかだ。

――今後の協会は・・・。

笹尾 当協会は、今まで大会社・上場会社向けのサービスを中心としてきたが、会員構成の変化に伴い、大会社以外の会社や、非上場の会社に主体を置いた研究を進めていきたい。もう一つ、監査役協会に対する期待が高まっている。将来、能力認定制度を作るなど、実質的かつ実効的な活動を行っていきたい。