発行市場見直しの第一歩

発行市場見直しの第一歩

日本証券業協会副会長 自主規制会議 議長 山元 高士 氏



――日証協は「会員における引受審査のあり方等に関するワーキング・グループ」の最終報告を2月にまとめた……。

山元 証券ビックバン以降、引受業務に関して、従来の業界のルールや当局の行政指導などを全て白紙に戻し、日証協ルールとして、やや抽象的できめの粗い第14号規則を定めた。しかし、自由化・規制緩和の下で、様々な金融商品が出てきて、想定外の事態が発生するなど、発行市場が変貌した。また、証券業参入の自由化で、引受・審査体制の不備な会社が参入した。その影響から、発行市場の規律が置き去りになりがちな傾向となり、2〜3年前からマーケットに好ましくない事象が発生していた。このため、昨年証券会社の仲介業務に関する懇談会で当局から問題提起があり、発行市場における引受・審査業務の強化・整備がメインテーマに挙がり、昨年7月から7ヶ月かけて、協会で議論した。

――14号規則はだいぶ前に作った規則だ……。

山元 1992年に作った規則であり、規定の考え方が15年間変わっていないことそのものが問われていた。この度の取りまとめは、その間の市場の変化を踏まえて、マーケットの秩序を考える、投資家の保護を考える、市場の価格形成の公正さを担保する仕組みとして、引受業務のルールを見直そうということであったが、遅れた印象は否めない。

――どれくらい遅れてしまったと考えられるのか……。

山元 02年頃から引受・審査業務のあり方が問われていたので、4〜5年遅れたと見ている。それまで問題が見逃されていたのは、日本のマーケットがバブル崩壊後、下降トレンドにあったことや、企業がマーケットから資金調達する機運が急速に萎んだことが影響した。その後、景気回復の過程でマーケットの状態も良くなり、企業活動も活発となって、資金調達が必要になった。特に企業再生の動きが出てくるなど、発行市場に新しい動きが起こっていた。しかしながら、見直しの機運が煮詰まらず、その結果、ライブドア事件等につながり、当局が重い腰を上げる大きな要因になった。その間において、日証協や業界など、民間の立場で考えるべき引受関係者が、怠惰をむさぼっていたといわざるを得ない。

――自由化に目が向いていたということか……。

山元 流通市場については、あらゆる証券マンが関与しているが、発行市場は正直専門的なところがあり、一部の人しか関わっていないため、発行市場、流通市場両方を考える人が少ないのが現実だ。このため、市場全般の運営・あり方に問題があっても、それぞれの市場の枠内の問題として捉えており、資本市場全体として考えるに至らなかった。

――具体的には、とのような見直しを行ったのか……。

山元 今回の見直しは第14号規則の、言わば訓示的な規定となっていた大項目を増やし、さらに中項目を設けて、きめ細かく引受・審査業務のあり方を規定した。一方で、各証券会社には自分たちのルールとして、引受・審査マニュアルを作成し、的確な自己管理、高い自己規律を求めることにした。さらに各社のルールを投資家、発行体といった第三者に示す主旨から、協会への届け出を求める。引受業務において、守るべき具体的な指針を示したのが、今回の協会のルールだ。これで関係者が首をかしげるようなファイナンスは減少するだろうし、IPOについても、能力・経験・知識が乏しい会社は抑制されるだろう。

――引受審査に関しても、定めている……。

山元 IPO、POには、引受業務と審査業務がある。それを二本立てにして、それぞれが違う立場でチェックしあう「内部けん制システム」の確立を考えている。引受業務では、発行会社のお世話をするのが仕事で、ルールがあっても、歯止めが利かない場合がある。このため、それを担保するように、引受審査という機能を設け、内部けん制が働く形で、より適切なファイナンス、IPOができる仕組みを求めている。今回は協会の規則になったため、違反したら協会から制裁される仕組みになっている。これにより、日本の発行市場における業務の状態はかなり改善されると期待している。ただ、あまり強い縛りを導入すると、本来の自由化・規制緩和にも影響する。ハンドリングが難しいところだ。

――最終報告では、引受審査だけでなく、MSCBにも言及している……。

山元 企業がMSCBの発行による株価下落が既存株主の利益を損ねているとの意見や、MSCBを買い受けた投資家がヘッジのための空売り等によって、発行後の株価下落を招いている、との指摘があった。このため、証券会社が買い受ける際の留意事項として、調達資金の使途や財政状態、既存株主への影響などを確認することを求めることとした。さらに当該企業の経営者等に対し、十分な商品説明を実施することや、投資家、既存株主にとって重要な項目に関しては、適切な情報開示の実施を求めるよう指導する。今回の取り決めは、大きな前進と評価している。

――MSCBの発行は相当減少するということか……。

山元 MSCBについて理解していなかった投資家に対し、注意を喚起するとともに適切な投資判断基準・情報を提供できると考えている。同じく、発行企業に対して、MSCBを発行する場合に熟慮を求める効果が得られると見ており、MSCBはいわばキワモノであるというアラームになろう。株価への影響を極力抑えながら一定の自己資本の充実が確保されるというMSCBの利点を残しつつ、市場への公正性確保、既存株主への影響に対しても一定の効果が期待される商品設計として、原則的に月間に払込日時点の上場株式数の10%を超える株式への転換請求を行えない旨の条件を設定しており、全体的には、発行が抑制されると推測している。海外発行についても、国内での協会ルールの趣旨が担保されるよう指導しており、いわゆる尻抜け現象も回避できると考えている。

――発行市場にとって、この最終報告の意味は大きい……。

山元 これでまず、発行市場に対して、投資家保護、市場の公正性の確保にとって、必要最小限の環境整備ができた。ある意味で発行市場見直しの第一歩と言える。そのような観点でいえば、流通市場では問題はないのか、証券会社に対するエンフォースメントの現状の仕組みに問題はないのか、という点検しなくてはいけない。そうした中で一番問われるのは取引所の自主規制機能。取引所がビックバン以後の自由化・規制緩和の中で、望ましい監視ができているのかという点である。発行体も投資家もヘッジファンドも自由に動ける状態である一方で、協会では基本的には証券会社を通じてしか指導できないために、協会単体では限界がある。さらに発行体、投資家ともに物が言えるのは、民間では取引所しかない。取引所に参加する各主体に対して、規律を守り、高いモラルを持たせることによって、市場の公正性、透明性を確保する責任と義務がある、今までの取引所のあり方を検討していく必要があろう。