手段を選ばない業者を排除

手段を選ばない業者を排除

証券取引等監視委員会 事務局 委員長補佐官 熊野 祥三 氏



――監視委のプレゼンスが上がっている…。

熊野 証券会社や投資顧問会社が登録制になったこともあり、証券市場は非常に難しい段階にある。自由化を進める流れが続く一方で、投資家の資金が低金利の影響もあって貯蓄から投資へ大きなうねりとなって押し寄せ、非常にプラスの風が吹いている。その半面、ライブドア、村上ファンドのような市場のカジノ化のような、極めて投機的な動きが出ている。投機的な流れの中で、マーケットを一攫千金の場として捉える人も増えている。

――リスクをとらない人も入っているし、一攫千金を考える人もいる…。

熊野 一攫千金的な気分が、証券業者にも伝播している面がある。それをあおっているのが登録制ともいえる。誰もが証券会社や投資顧問会社になれる状況がカジノ化を加速させている。本来、市場は自由であるべきだし、行政があまり介入すべきものではない。私のキャリアからしても自由主義ではあるが、健全な市場の発展を考えると、一攫千金のために手段を選ばない業者を可能な限り排除し、その一例を通じて、投資家にメッセージを送る。その意味で監視委、特別調査課・検査課・開示検査課が、目立っているのではないか。

――かといって、一攫千金を考える人を全く排除はできない…。

熊野 確かに、投機は市場の原動力であるし、すべて排除したら成り立たないが、法律を軽視する、儲けのためなら何でもありの投機家、安易にそのような場を提供する証券会社に対しては、厳しく取り締まるべきだろう。

――そういう中で、監視委が少なすぎの声が圧倒的に多い…。

熊野 以前に比べれば、かなり増員しているがまだまだ少なく、職員の質も追いついていない面がある。また、行政の組織区分との関係で、やるべき仕事と若干ずれている部分が出てきている。問題の新興証券会社は、監視委管轄ではなく財務局管轄で、各地の財務局は、この監視で大変だ。監視委も少ない中で、地方財務局と協力しているが、人手不足は否めない。また証券業自体が昔と比べて、変化している。大手証券ですら、ブローカー業務と、それを補完するディーラー業務、それに引受業務だけであったが、今はマーケットがあって、それに対する自己トレーディング業務のウエートが大きい。さらにプリンシパル業務と称する投融資もある。取り扱っている商品もMSCBや仕組債など複雑だ。客層を調査すると、金額ベースで見れば、グローバルなヘッジファンドが極めて大きな割合を占めている。そういった新たな分野に関する監視委の習熟度は、少し足りないように思う。

――最先端の金融技術は、証券界の中でも、きわめて限られた証券会社が行っている。その技術を金融庁が習熟するのは大変な話だ…。

熊野 ヘッジファンドの取引は、ノーベル賞を取るような人が取引手法を開発し、証券会社がそれに対応している。だから、取引のリスク管理はどうなっているのか、不正取引はないか、少なくとも、そのレベルについて的確に問いかけ、ジャッジできる能力は持たなくてはならない。

――民間の知識を金融庁に導入するには、活発な民と官との交流が必要だ…。

熊野 官に民の知識が入るのが望ましいのは分かっている。ただ、公務員改革に関する最近の議論に顕著だが、今の日本では、官から民への異動に対する世間の風当たりは厳しい。SECの場合、アメリカの企業のコンプライアンス担当の幹部は、必ずSEC経験がある。SECも彼らを採用することで、業界の実態やその時々に必要な知識を習得する。一方、民間人はSECでの経験をキャリアアップの材料にして戻る。これが日本では、弁護士や公認会計士は可能だが、民間企業ではできない。これが最大の弊害。だから私のような定年前後の世代の人しか来られなくなってしまう。民間人が監視委に入るのも大事だし、長期的に言えば、官が民間に何年間か出向して帰る。一定の年齢までは、自由に民と官が交流できる仕組みが必要だ。

――今度、去年の4月の改正で投資信託も監視委で監視する体制になったが…。

熊野 従来の証券取引の監視だけでなく、投資信託、投資顧問、金融先物、証券会社も含めた内部管理等を見ることとなり、新たな分野に関する検査能力はかなり上がってきた。これからの課題は、証券会社の内部管理やリスク管理の評価だ。様々な問題は、証券会社のリスク管理・内部管理体制が不十分で起きるケースが多いので、そちらに焦点当てる。一方で、金商法が施行されれば、これまで具体的な法令違反がないと、処分勧告できなかったが、今後は業務運営がトータルとして、不健全だと判断すれば可能となる。

――投資顧問やREITに関してはどうか…。

熊野 投資顧問やREITにかかるアドバイスに問題がある。特にREITは、業界でベストプラクティスが確立していないように思う。REITの多くはデベロッパー、あるいは私募ファンド会社が親会社として、スポンサーになって、その下にREIT、運用会社を作る形になっており、利益相反が起こりやすい構造にある。親のポートフォリオ編成の都合で、REITに物件を持っていっている。これまでいくつかREIT絡みで勧告しているが、基本的にはどっちを向いて仕事しているのか、それが本当の主旨。運用会社が自分自身でREITの投資家のためにジャッジしていますか、ということだ。

――金融のコングロマリット化、銀行系証券の活躍などが起こっている中で、今のREITの問題も含めて、利益相反の問題がクローズアップされるべきだ…。

熊野 そのとおりだろう。融資・預金業務と証券業務との関係、あるいは自己投資業務と証券業務の関係をどう見るかが鍵となる。その間にファイアーウォールを置けばいいと簡単に言われるが、その中身は検討する余地がある。難しい問題だが、ここに取り組まねば、自由化の中で投資家保護は図れないだろう。グローバル化で、諸外国と同じ競争条件で戦うためには、日本だけ昔の65条をそのまま守ろうとするのは無理だ。業務運営の中で、どんなウォールを立てるのか、現実に行動する人間の倫理として、何を考えて業務を行うかが大切だ。証券会社も系列会社で未公開株ファンドを保持していたり、自己投資部門を持つなど、利益相反を抱えており、業界共通の話だと思っている。業界人が自ら節度を守ることが一番大事だが、我々としても一段と目を光らせる必要があることは確かだ。

――日証協、金融庁、取引所などの自主規制団体と、監視委との関係については…。

熊野 マーケット・仲介業者を監督していく上で、全部を法律に当てはめるは無理があるし、国が強制すべきでない部分も多くある。そこに、自主規制機関がもっと取り組んでもらいたい。原則、業者の問題は業者同士で解決するべきだ。ベストプラクティスは上から押し付けるものではなくて、業者や市場関係者などで話し合って、確立していくべきだ。その中心になるのが、日証協と思っている。マーケットは、自由な立場で取引する場所と考えている。しかし、それを守るためには、マーケットの参加者が、それぞれ倫理観と節度を持って業務を遂行する。業者間で確認しながら、国や監視委の関与をできるだけ排除しうるよう、取り組まなければ自由なマーケットは実現しないだろう。