会計基準の国際統一は将来の課題

会計基準の国際統一は将来の課題

企業会計基準委員会 委員長 西川 郁生 氏



――国際会計基準の対応で大変だ…。 

西川 国際会計基準(IFRS)が05年から欧州市場で使われており、欧州の企業は上場する際に、IFRSが必要なのはもちろんのこと、欧州以外の企業に対しても、IFRS、またはIFRSと同等な会計基準にするよう求めてきた。欧州は日本、米国、カナダの会計基準について、基本的に同等であるものの、一部追加開示が必要との指摘をしており、ASBJではこの対応をIFRSとのコンバージェンスの一環で取り組んでいる。また、追加開示の指摘に対し、米国サイドが不満として、欧州に再度検討を求めた。欧州サイドも米国での欧州企業の追加開示を無くすことができれば、好都合だということで、欧州と米国の間で話し合うことになった。この影響から、本来なら07年から欧州外の企業にもIFRSと同等の基準を求めることを2年間ずらした。一方、日本の会計基準は、26項目の追加項目のうち、米国と日本が重なっている十数項目は、欧米間の議論の推移を見て判断するものが多いが、残りは改正の要否の検討を進めている。EUとの交渉自体は金融庁が行っているが、基となる会計基準の整備は、委員会で進めるものであり、今年1年関連する会計基準の見直しに取り組んでいく。

――一番難しそうなのは…。

西川 欧州から厳しい指摘を受けている項目が3つある。その中で典型的に挙げられているのが持分プーリング法だ。企業結合が起きたときに、パーチェス法は一方が他方を買収することを前提にしているが、持分プーリング法はお互いが対等合併することを前提にしているため、のれんも時価への評価替えも出てこない会計処理法だ。欧米では、最近までプーリング法を認めていたが、乱用された経緯から、今は認めていない。日本の場合は、対等合併というケースが稀であってもあると考えたので基準に残している。会計の考え方というより、ものの見方の違いと言えるのではないか。今回の議論の中で、基準の差異の象徴的な項目として挙げられているので、プーリング法を無くすことが本当に可能かを調査研究中だ。

――日本と欧米との考え方の違いとは…。

西川 支配、被支配が明確でなければ企業結合も生じないという考えが欧米諸国。それに対し、日本の場合は、たとえ大部分が支配、被支配関係による合併だとしても、同じ業種の同じ規模の合併のように、対等合併がないとは言い切れない。

――特に銀行では、合併後の銀行の頭取を交互に出すケースがある…。

西川 何十年も交代で社長を出すというケースが実際あったわけで、それが経営上いいかどうかは別として、どちらが取得したかわからないことがあるのは事実だろう。ただ残すことで、どの程度日本の会計基準の評価に悪影響をもたらすのか、また、金融機関の将来の合併のために残しておくべきという声もあり、なかなか判断が難しい。

――プーリングについて注記のようなものをつけることによって、欧州が同等性を認める形にはならないのか…。

西川 議論されている同等性の評価は、あくまでも欧州市場の中で資金調達する企業の問題に過ぎないため、欧州市場で資金調達する企業がプーリングを使わなければいいだけの話だとする意見がある。一方で、いま問われているのは基準の同等性で、認めれば基準が劣ることの象徴になるとの見方もある。様々な人の意見を聞いたうえで、年内に結論を出したい。

――日本独自の会計基準も分かるが、金融がグローバル化する中で、IFRSを日米欧で作ればいいのでは…。

西川 先進的なマーケットを持っている国が集まって、マーケットオリエントな基準を作る枠組みができればそれはいいことだと思う。もちろんIASBは今の仕組みがそうだというだろうが。IFRSは原則主義を取っていて、詳細ルールもない。自国の基準を諦めて、IFRSを導入することを決めたところは多いが、いざIFRSを適用しようとすると、各国で固有の問題が出てくる。しかし、その固有の問題について、ロンドンのIASBに問い合わせても、答えを拒絶されたり、タイムリーに返答が帰ってこないことがほとんどだ。このため、導入を決めたオーストラリアやアジア諸国は悩んでいる。経済が発達した国だけの基準という発想ではなく、世界百数十カ国を相手にして同じようにやろうとしている今のIFRSでは、どこの国も満足させられない面がある。そういう面も踏まえて、金融庁等が長い目で日本の会計基準の方向性を考えていく必要があろう。

――以前発行体寄りだった資本市場制度が、ここ10年で投資家が見ても納得するような制度になった。一方で、会計基準はまだまだ発行体寄りのような気がするが…。

西川 日本でも投資家寄りの基準に変化している。財務諸表を見る側が会計についても、きちんとした考えを示してくれるのが一番いいが、投資家の声はなかなか聞こえてこない。アナリストが代弁しているかもしれないが、世界的には偏った考えの勢力がいるようだ。また、企業は開示に対するコスト負担をしているし、決算発表の場でもアナリスト等の声を聞き、開示に何が求められているかについても肌感覚がある。企業は情報を出したくないのでは、との声も聞こえるが、会計基準を作る立場からは、企業は出すべき情報をしっかり出してきちんと評価されたいと考えている、と見ている。

――税務会計と企業会計の乖離については…。

西川 海外は完全に分けられている。日本の場合は、単体の決算が非常に税とリンクしている部分があって、単体を基に連結も作るので、税とのリンケージの問題を常に考えなければならない。会計が変わる際には、税の問題がなんとなくついて回る。税と会計とを全然別のものとしてしまうと、会社の決算を基に税の申告調整をする仕組みが複雑になり、社会全体にとって、税の作業負担が重くなってしまう。しかも税務と単体決算が完全には切り離さない中で、単体決算の段階からコンバージェンスを進めたのだから、もったいないとの考えもある。リースの時のように時間がかかったものの、税の問題をクリアしたという実績もできている。このため、当面、コンバージェンスのために単体と連結を切り離す議論はなく、したがって税の問題もついて回ると考えている。

――国際会計基準以外で抱えている課題は…。

西川 コンバージェンスの問題以外では、日本の制度への対応を行ってきて、直近のことでは、四半期決算の問題だ。四半期決算が監査では無くレビューで行われるが、どの程度の開示をすればいいかという制度への対応を行った。今後は新たな基準を作るたびに年度末だけでなく四半期でどう扱うか考えていかなければならない。その他、信託法が変わったことへの対応を審議している。いろいろな課題はあるが、適正な開示のために、尽力していきたい。