消費者も自己責任の意識を

消費者も自己責任の意識を

あさひ法律事務所 弁護士 滝本 豊水 氏



――最近保険会社の不払い問題が紙面を賑わせている…。

滝本 マスコミでは、悪質で詐欺的だと報じているが、中身を詳細に見てみると、請求したのに、保険会社が難癖をつけて支払わない一昔前の事例と最近の事例はかなり違う。例えば、単純に支払うべき保険金の日数を間違えたミスがある一方で、医療保険において、ファイバースコープなどの医療器具で患部を確認しただけの場合は処置となり、手術にはならない。しかし、同じ医療器具を使用する際に患部を動かすと手術となり、手術給付金が支払われる。これは顧客には分かりにくい上に、診断書を出して保険会社がチェックするときにも間違えたという技術的なミスがある。また最近、案内漏れとの指摘を受けているのは、入院後に通院したものの、顧客が保険請求をしていなかったケースや、特定の三大疾病と診断されれば、死亡保険金の一部が診察給付金として支払われることを顧客が分かっていなかったケース。さらには、医者が病名を本人に告知しておらず、知らないままになっていて、請求できなかったケースもある。このため、保険会社は申し出がないので分からなかった、と説明している。これらに対し、顧客は分からないのだから、手取り足取り案内するのが保険会社の義務だと非難されている。さらに、どんな保険に入っているのかもよく分からない人がいるなど、様々な混乱が生じることがあることが一番の問題だ。

――金融庁の対応は…。

滝本 金融庁の検査マニュアルで、顧客保護態勢を強く言っている。金融商品取引法が施行され、広告・説明義務について、行為規制で、金融商品取引業者に厳しくなっている。しかし、日本において適切なディスクロージャーと、それが行われたことを前提とした投資家、顧客の自己責任が全く徹底していない。プロ向けの商品は別として、大衆向けの商品の販売には、消費者に分かりやすく説明した上で、後はお客さんの自己責任とすべきだ。

――業者は明確な説明をせず、顧客は業者任せになっている…。

滝本 結局、最初の説明義務が問題だ。これから一番大事になる顧客保護体制とは、加入後の苦情対応も大事だが、キーは説明義務、ディスクロージャーだ。パーフェクトなディスクロージャーをして、あとはお客さんの自己責任というラインを決めるべきだ。顧客の無理な苦情を認めると、返って消費者を甘やかすことになる。その結果、最近のような詐欺的な商法が出てきたときに、顧客が教育されておらず、対応力がないので、そういう話にコロリとだまされ、被害が広がり、消費者の利益にならない。日本のマーケットが発展できない。逆に言えば、一般大衆が分からないような商品であれば、売ってはならない。

――保険会社がすべき、説明義務とは、どのレベルなのか…。

滝本 私は最近、大衆商品で幅広く売るのであれば、説明義務のレベルは、義務教育レベルにすべきだと主張している。専門用語や約款が細かい説明書ではなく、義務教育を受けた人なら分かるような容易な書き方とすべきだ。一般的な人であれば、金融販売業者は中学生レベルの教育を果たしたものとしての分かりやすい説明をする。大学の数学のような難しい商品を3時間説明すればいい、分厚い説明書を渡せばいい、というのは間違いだ。分かりもしないものを何時間説明しても、それは説明義務を果たしたことにはならない。

――保険会社だけが悪いのか…。

滝本 保険の今の問題を見て、生命保険会社が全部悪い、と片付けばいいが、三方一両損だと思う。保険会社は分かりにくい商品を作った上に、商品を説明する体制がよくない。一方、監督当局は、分かりやすくするよう監督すべきだし、消費者もよく考えて、加入のときに、金融商品を買うときにリスクがあるので、理解して納得の上で、自己責任を徹底してもらう。今後高齢化社会に向かって、貯蓄から投資へ、日本の金融資本マーケットを世界標準に高めるには、これが不可欠だと言いたい。

――このようなことになった背景は…。

滝本 自由化して商品を多様化すれば、保険だけではなくて、それに伴って監督体制や説明義務がより重要になる。しかし、金融ビックバンでは、自由化すればいい、利便が高まればいいという考えが先走ってしまった。最近のように説明義務に違反した業者に対して厳しい処分をしなくてはいけなかったのが、当時は伴っていなかった。自由化というのは、逆に規制が厳しくなる面もある。自由にやってもいいが、その代わりルールに違反すると厳しい。そのルールが遅れ、商品の自由化のほうが先行してしまった。

――それで巻き戻しをしている…。

滝本 自由化、規制緩和は戻らないと思う。しかし、どんな商品でもいいよ、と言って、プロに売るような商品まで、高齢者にも売るのは、それはとんでもないことだ。そういうルールを作らないまま自由化したので、ここに来て揺り戻しがされている。金融庁もこれまでの反省もあり、再度コンプライアンス体制をうるさく言い出した。昨今も出ている金融検査マニュアルに出ている顧客保護等管理態勢や金融商品取引法における厳しい販売ルールを、個人のお客、法人顧客、適格機関投資家に分けて、プロ向けのものはプロに販売する一方で、個人には適用性原則を法令上の規制にして、適用するというようにした。

――適合性原則という言葉自体が浸透していない日本であるが、保険において適合性原則を導入する具体的なイメージは…。

滝本 いま言われたように、適合性原則は元々証券取引において発達したが、確かに保険において、ルールはなく、分かりにくい。よく聞かれるのが、例えば何歳以上にはこの商品を売ってはいけないという規制を作るべきかと言われても、その人ごとに経験も能力も知識も違う。一律にルールを作るのは難しい。

――では、どういう対応が必要なのか…。

滝本 意向確認書を取ることになった。金融機関からすれば、すぐに、また手続きが一つ増えたという受け止め方をするが、そうではない。説明義務というのは、販売業者が重要な事項、契約の概要と注意喚起の情報をよく説明して、顧客が理解した場合のみ契約する。コインの表が契約書なら、裏が意向確認書みたいな形となっている。本来の適合性原則というのは、非常に幅広いものだ。無理な誘導はしていないか、本当にこの人に合っているのか、これが適合性ではないか。意向確認書は今年の4月から適用されているが、適合性原則の中では、最終段階での規制となっている。

――商品が複雑になればなるほど、業者も難しい対応が迫られる…。

滝本 一般的に金融商品だけではないが、利便を求めるために、複雑な商品にする傾向がある。しかし、そうすると説明に無駄なコストをかけるだけだし、かえって顧客が混乱する。さらに、金融商品が難しいのは、販売業者が非常に大きな役割を果たしている。それは、金融商品は在庫がない。販売業者が消費者に行き、消費者が了承して、初めて物ができる。金融商品は見えない。お金を払ってから、将来の約束を売る。これが金融商品の難しさだ。このため、販売業者が重要な役割を果たすという、他の商品にはない特色があるから、説明義務は非常に重要だ。それが、最近認識されてきて、それは正しい認識だと思うが、それが徹底した後は、今度は投資家の自己責任原則を確立していく必要があろう。