「すべての市場参加者が『自己規律の確立』を」

「すべての市場参加者が『自己規律の確立』を」

野村ホールディングス 副社長 兼 Co-COO 稲野 和利 氏


――今後の金融・資本市場のあり方を考える懇談会がまとめた中間報告は、日証協にとって画期的なことだ…。

稲野 協会として、金融資本市場という大きなくくりで、提言をまとめたのは初めてと聞いている。今回はあくまでも協会発で、市場の中心に身を置くものとして、今後の道筋がどうあるべきか、我々としての問題意識と解決策を明らかにする必要があるという認識に立って行った。時間が差し迫ると、論点が単純化、矮小化する恐れがあるので、今のように締め切りがない時に、整理しておくことが重要ではないかと思っている。

――報告の項目が多岐にわたっているが…。

稲野 すべてを等しく議論したわけではなく、事実上項目だけになっている部分もあるが、一応、網羅する形となっている。今後について決まっているのは、税制に関しては近々ワーキングをつくって、本格的に検討し、提言をまとめあげていく方針だ。

――ワーキングではどのような検討を行っていくのか…。

稲野 長期的視野に立って、あるべき姿を考えていきたい。市場の仲介者である証券会社からすれば「貯蓄から投資」という流れをバックアップする手立てが必要だ。一方、証券税制における税率の軽減は金持ち優遇ではないかとの議論があるが、基軸となる論点かと言えばそうではない。ただ、そこに論点が収れんしがちなのが現状だ。

――預金に比べ株はリスクを伴うため、それに見合った税率にすべきとの発想は当然だ…。

稲野 その通りだ。株式にお金を投じるという行為は、ある側面から見れば個人の利益を目論んだ行為ではあるが、一方でマーケットを通じた資金配分の一翼を担っている。それによって資金循環しているのが資本市場の構造であるから、その行為自体にも意味がある。全体としてとらえるべきであって、金持ち優遇か否かの議論はあまりにも、思考として単純過ぎると感じる。もちろんそのために証券会社は努力を重ねていかなくてはいけない。

――国は間接型直接金融の発想に前から傾いている。税制もその発想だが、それだけでは金融市場のダイナミズムは生まれない。累進型の株式投資も理解しなくてはいけない…。

稲野 中間報告では、確定拠出年金についても述べているが、拠出限度額の引き上げやマッチング拠出の導入など、国民の資産形成に直接関係するタイプの税制はもっと優遇されてもいいのではないか。累積的に投資されることで、その効果が将来発生するのであって、今の拠出限度額はあまりにも小さい。役割、意義を認めたうえで優遇するか、バランスをとるかを検討すべきだ。

――税制のほかに中間報告のポイントは…。

稲野 「自己規律の確立」と「自由と規律のバランス」が、非常に重要だと考えている。金融資本市場の世界は変化が早く、進歩していく世界であり、すべて規則で書き下ろして、それを守っていればいい、というスタンスでは進歩は生まれない。ライブドア事件で浮き彫りとなったが、「何でもできる」と「何をやっても良い」とは違っていて、多数の参加者の行動や理論に基づいたコンセンサスによって、金融資本市場の常識・モラルが担保されるはずであって、残念ながら今の日本にはそれが不足している。90年代に証券会社の不祥事の際には、日本の証券市場が良くならないのは、証券会社のビヘイビアが悪いからだ、ということを散々言われた。もちろん、その側面は否定しないが、証券界だけでなく発行者や企業、個人投資家や機関投資家など、それぞれの参加者が果たすべき、それぞれの自己規律を働かさないと全体として良くならない。「自己規律の確立」と「自由と規律のバランス」を参加者に幅広く及ぼして、それぞれのところで追求する必要がある。

――その点、証券会社には日証協のような自主規制団体があるが、個人やファンドのように規制団体がないところには、どういう対応するのか…。

稲野 情報格差がある個人にとっては、投資家保護が最も重要だ。そして、同時に金融リテラシーを身につけることが、個人の自己規律につながる。投資は自己責任なのだが、その言葉だけを声高に言っているのでは、貯蓄から投資への流れは進ちょくしない。

――ヘッジファンドへの規制が言われているが、ファンドに対してはどうか…。

稲野 他人資産を運用している者としての受託者責任というのが最大の原点だ。受託者責任は、資金の委託者のために果たすべき行動を追及し、自己の利益を優先しないことだ。それを出発点とする最大の問題とは別にさまざまな技術的な問題もある。技術的な問題だけですべてを解決するよりも、受託者責任原則に反している人に自然と退場を求められる構造にしていくべきだ。大量保有報告を厳しくすればいいとの意見もあるが、それは技術論であって、本質論とは少し遠い気がする。また、受託者責任原則を全部マニュアルで書き下ろせると考えている行政関係者は多いが、それは無理な話であり、そういうテーマは各業態にも共通していると思う。日本の金融資本市場の歴史が浅いために内在する自己規律の形成が不足していることを市場参加者全員が自覚し、向上させていくことに努めるべきだ。

――行政との連携に関する提言も入っているが…。

稲野 行政との関係では、ベターレギュレーションの促進が挙げられる。証券業界と行政との距離はかつてに比して遠のいたと言われている。さまざまな問題ある事象に当局が厳正対処するのは当然ではあるが、規制の運営を実効性あるものにするためには、監督する側と実際に業務を運営している側とがきちんとした会話する必要がある。これは癒着とは違い、行政側も事象をきちんと把握したほうが、しっかりした監督管理ができるということであって、そのための会話は否定されるべきではない。ここ数年、行政との間での会話の総量が減り、変化の激しい金融資本市場をうまく運営できていないという指摘もある。このため、証券会社側も行政に理解してもらうために会話を増やす必要があり、そのうえで本当に全体が効率的な規制にすることが重要だ。

――投信についてはどのように考えているのか…。

稲野 分かりやすい目論見書の作成が一見地味ではあるが、証券会社・投資家双方にとって、かなり意味のあるテーマだ。今の目論見書のシステムは電子交付も可能だが、膨大な紙が必要となる。野村証券や野村アセットでも、かなりのボリュームの目論見書を作る一方で、大量破棄するなど、紙の無駄になっている。しかも分量が厚いことで、読む行為をバリアしている。つまり、論理的には完璧だが、何も実現できていない世界かもしれない。そのことも含めて見直すことで個人からも信頼され、分かりやすい市場ができると思う。

――基本法を制定するとあるが…。

稲野 金融商品取引法はこれから施行されるので、基本法はその先のことで、まだ早い話ではある。しかし、このような整備を行っていくと、最終的に全体としての姿がはっきりしてきた時に、さまざまなものを包含した法律改正が必要ではないか、という問題提起だ。

――言ってみればイギリス金融サービス法のような、縦割りをなくす法制ということか…。

稲野 金融商品取引法で前進している点は、金融商品の法的性格ではなく、経済的性格に着目している点だ。従来であれば、その業を営む人たちを監督する法体系によって、縦割りにしていたのを横にしている。ただ、それでも含まれていない点はある。さらに体系として整備しなければ、実際の市場の変化に立ち遅れ、国際競争力を失うことになろう。