万全な体制で株式無券面化へ

万全な体制で株式無券面化へ

証券保管振替機構 代表取締役社長 竹内 克伸 氏



――TVCMを行うなど、かなりPRされているようだが…。

竹内 電子化のPRは各方面で行っている。PRの発信回数では証券会社の方が保振よりも多いと思う。発行体には、株主総会が終わって、株主に報告の書類を送る際、株券の電子化の簡単なパンフレットを入れてもらった。パンフレットの内容は、現物を持っている人には券面の名義を確認してもらうというもの。自分の名義になっている人は、とりあえずは権利を失うことはないが、万が一、他人の名義になっていたり、遺産相続等で、被相続人の名義になっている人に、保振への預託や自己名義への書換えなど電子化に対応するため手続きを行ってもらうようお願いしている。

――株券が電子化されるまで、あと…。

竹内 1年半。もう来年から具体的な作業も始める。全体で3700億株あるがそのうち、8割強は当社で保管しており、実質的には、あと540億株の券面が残っている。

――どのような形で残っているのか…。

竹内 証券会社の保護預りになっているが、当社が保管していないものもある。それは法人名義のものが多いのだが、当社に持っていくと、必ず当社の名義に書き換えなくてはいけない。券面の真偽チェックや名義書換を行うが、その際に株主名簿管理人への持ち込みで手数料がかかるといった影響で、保振に預託されていないものがある。

――現金の担保として、株券を用いるケースもある…。

竹内 担保として、券面を1番多く持っているのが銀行だ。担保となる券面は、支店の担当者が支店単位で持っていた。これを電子化すると、現物がなくなり、当社の担保口座に入ることになる。これにより、支店単位で口座を持つ必要がなくなり、本店で集中的に電子管理することになる。不動産業では、すでに本店による担保の電子管理がされている。銀行の中の株券担保管理の仕組みを変えるのが大変のようだ。現時点では銀行も準備をしていると思うので、大丈夫だと思う。

――タンス株はどのくらいあるのか…。

竹内 3月末でデータを取りまとめており、整理中だが、証券会社と信託銀行から取ったデータをすべて付け合せて全ぼうが分かる。いまのところ、証券会社の分は整理し終わっていて、そのデータから推測すると、タンス株が300億株以上にも上る。このうち、法人が200億株弱で、残りが個人のタンス株。これが100億株以上と見ている。

――個人のタンス株が電子化されないと…。

竹内 事前に当社に券面がこなければ、その分は、特別口座において管理されることになる。特別口座は信託銀行が、その人たちの株主としての権利を確保するために作るのだが、売買の時には、どこかの証券会社に移す必要が出てくる。いざ売ろうとするときに手続きが残るなどの不便さが残るので、なるべく電子化の前に、証券会社の電子帳簿データに全部載せてほしいとPRしている。

――権利が失効するようなことが将来起こりうるのか…。

竹内 全体の考え方としては、券面は無価値になってしまう。考えられる問題としては、買主が、名義書換手続きを失念していたり、中には自分の名前が表面に出ることが嫌という人が若干いて、意識的に名義の書き換えをしない人もいる。そうすると、株主名簿に自分の名前が載っていない状況、いわゆる失念株となる。この場合、発行体は株主名簿に掲載している人、つまり前の所有主に株主総会の通知等を行うことになる。これは非常に不安定な状況だ。電子化前までは券面を持っている人が権利者として推定されるので、仮に裁判になっても、券面を持っている人の権利確保が可能であった。ところが、電子化で券面が無くなると、頼みは会社の株主名簿となる。名義書換をしていない状況で電子化されると、それには前の所有主が掲載されているので、これは非常に危ない状況だ。前の所有主自体が所有権を主張しても、証券会社が保管する当事者間の売買記録等により、裁判では勝てるが、問題はその前の名義人が、例えば悪い人で、故意に売ってしまえば、売買を行った2人とは、別の第三者が権利を持つ(善意取得)ことが考えられる。その時は非常に危ない。

――このほかにも、問題があるのか…。

竹内 相続の配分が未決着の人もいる。親族から引き継ぐといっても、財産管理があやふやで、しっかり引き継いでいないケースがある。その場合に株主名簿に載っていれば、発行体から通知が来る。また引っ越しをした時に役所や学校、郵便局には変更届を出すが、発行体に変更を届けていない人も多い。そのため、発行体が通知を送っても、届かないケースが出てくる。何年かすると、案内状も来なくなる。そうした所在不明株主はかなりいる。その場合には、会社法の改正で、5年間待って、5年経って連絡がなければ、株式を発行会社が売却し現金に変え、申し出があれば、現金を渡すという制度ができたが、この制度を使っている発行体はごくわずかだ。発行体側からしてみれば、この際に一気に現金化して株主に対して何か問題はないのか、とちゅうちょしている。これまでは名義の書き換えをしっかりして、株主名簿に自分が掲載されるように、とPRしてきたが、これに加えて、最近では住所を変更した人に注意してもらうよう呼びかけている。

――配当では問題はないのか…。

竹内 現在株主の7割が郵便局扱いとなっている。中には本人の意思とは別に郵便局扱いになっていることを知らない人もいる。その場合、転居した時に、その配当の支払通知書が株主の手元に届かずに、返ってくることになると、株主は配当金を受け取れなくなってしまう。一方で、3割は特定の銀行に配当を入れておいてもらうよう銘柄単位で登録しているが、これらの人は、預金通帳で確認できるので、心配していないが、それ以外の人は、発行体と糸が切れてしまう。従って、とにかく株主については、一度財産を棚卸ししてもらい、こういうケースもあることを注意して、この機会に確認に必要な手続きを行うようPRのもう1つの柱として、しばらく訴えていく。

――今、年金の問題で大騒ぎしているが…。

竹内 年金の問題は、制度が大幅に変わる際に起こるミスだ。これに関連して、われわれも電子化に伴う制度を設計している担当者に、年金のようなことが起きないことを再度確認させた。年金制度の場合、カタカナ入力だったので、今回のミスの一因になったと言われている。当社では、漢字で入力することとしているので、そのミスは起きない。ただ、例外的にカタカナを使う場合もある。保振で取り扱う際、名前に使用する漢字を制限している。その際、名前の漢字が無くて、他の漢字に置き換えられたくない人に対して、カタカナを使っている。そういう場合は本人に連絡するのでカタカナ入力のリスクは小さい。そういうやりとりがあったという記録が証券会社に残るので、元のデータと付き合わせることができる。

――リスクはないのか…。

竹内 当社に入っているものは、証券会社の顧客台帳から来ている。証券会社の顧客台帳が、今度は券面に代わる権利の所在証明となる。それを当社にすべて集める。従って、今証券会社の顧客台帳が事実と違っていれば、そのまま入力してしまうので、そこにリスクはある。もう1つは、当社に届いていないものは、特別口座に入る。特別口座には株主名簿に載っていて保振に預託されていない人が転記される。この部分も新しい電子の顧客管理台帳となる。従って、株主名簿が違っていると、そのままリスクを背負うことになる。失念株のリスクである。現在の証券会社の顧客管理台帳が事実と違っているかが、問題となる。完全ではないにしても、年に2回とか、残高通知とか、売買があるたび取引通知がいく。ただ、まれなケースだが、無関心なままで株を持っていて、確認をする機会がほとんどないような場合、その確認には、かなり時間がかかってしまう。そのようなリスクはあるが、その確率は極めて小さくなっている。土台のところから、年金とはリスクがだいぶ違う。それから、年金の最大の問題は事実が分からなくなったことだ。株券の場合は、証券会社の顧客リストの保存義務が法律上10年となっている。移行後の日々のチェックは、最初から意識していて、毎日毎日株主の日々の全銘柄についての電子記録を全部足し上げ、そして、発行済み株式総数とつき合わせする。毎日マクロとミクロをチェックする。

――今回の年金問題では入力データがなくなったことも大きな要因となっているが…。

竹内 われわれは、データに関しては、最大限の管理をしている。システムは、1つは動いているが、1つは動いていない状況にしておき、万が一の場合に残しておくダブル構成にしている。加えて、地震でつぶれた場合のためのバックアップセンターを置き、それもミラー方式で、同時に持つことになり、2重、3重の管理体制をとる。証券会社の顧客管理電子台帳もある。

――年金と同じことが、株であれば、東京市場は大暴落が起きる…。

竹内 そんなおそまつな管理をしている市場は土台がダメとされてしまう。そして、東京にはお金が入らなくなってしまう。これは国の信用だ。そうしたことがないよう、最善の注意をして、準備万端整えたいと思う。