商品先物を武器に、取引所競争に対応

商品先物を武器に、取引所競争に対応

東京工業品取引所 理事 小野里 光博 氏



小野里 昔の商品取引所は、一取引所に一商品といった形式が一般的で、一つの取引所に多くの、しかも全く毛色の違った、商品を上場するところは少なかった。そんな中、東京工業品取引所は1984年に3取引所が合併して、貴金属、ゴム、繊維と3つのカテゴリーを抱えた、先駆的な総合商品取引所のイメージを持った商品取引所として誕生した。

――昔の商品先物のは悪徳で、ほとんど個人投資家が売買していたイメージがあるが…。

小野里 1950〜60年代の日本の商品市場はリテール中心で、不適当な勧誘によって、様々な問題を起こし、社会問題化されたことが、ずっと尾を引いてきた。それが、金が上場したころから、政府の商品先物政策が「規制から育成」へと大きく転換した。問題の多い取引として二重三重にがんじがらめに規制する考え方から、重要な産業インフラであると認識して、むしろ積極的に育成するようになった。

――グローバル化も進んだ…。

小野里 総合商社や外国からの取引が加わるようになったため、取引方法も、1991年には売買手法をコンピュータによるサラバ仕法にし、取引に透明性を設けることでやってきた。意外かと思われるかもしれないが、東工取の取引高で、今は個人投資家シェアが、2割ぐらいしかない。世界中、どこを見ても商品先物市場はプロが中心。また、一昨年の法改正で不当な勧誘も厳しく制限され、ほとんど根絶に近い形になった。このため、相当程度、昔の悪といった商品先物のイメージは一掃できたと思う。

――商品先物はハイリスク・ハイリターンだ…。

小野里 商品先物は、大損するのが怖いと言われている。株の場合、100万円で買った株が50万円になってしまうことはあっても、50万円の損で済む。ところが、商品先物の場合だと、100万円の証拠金で取引失敗をしたら、100万円がゼロになる。さらに、相場にレバレッジが利いているため、相場の動きによっては追い証拠金という形で、もっと資金を持ってこなくてはならない事態になる可能性がある。先物のハイリスク・ハイリターンのハイリスクは、プロだったら問題ないが、個人が1,000万円損したとなれば、ほとんど破産状況になってしまう。さすがにそれでは、とちゅうちょしているという人はたくさんいる。

――今度のミニ金で、個人がずいぶんやりやすくなるのではないか…。

小野里 その通りで、10分の1のサイズのミニ金をはじめ、これならばリターンもそんなに大きくはならないけれども、損をしたところで高が知れている。安全性を高めるために、証拠金も厚くしている。現在1kgの金は、9万円の証拠金が必要となっている。その10分の1となれば、9,000円の証拠金でいいところだが、1万2000円にしている。さらにロスカット制度を導入している。これは選択性で、例えば1万円当たり、2万円までの損は仕方が無いとして、2万円以上損をするようでは自動的に手じまう仕組みだ。

――個人投資家の保護になる…。

小野里 その通りだ。手しまって損は2万円で押さえ、大きい損が生じないようにする。ただ、相場の状況で必ず2万円で止まるという保証は無く、若干足が出るかもしれないが、大きな損を出さない仕組みをミニ金では作っている。個人のプロの中で、こんなまどろっこしいものはやっていられない、という人は標準の取引をすればいい。

――プロに対しての対応は…。

小野里 一般にアジアの先物は個人の比率が高いのだが、少なくなったとはいえ、東工取も1〜2割の個人がおり、欧米に比べると多い。この状況が良くないとは思っていないが、本当のプロとは違うので、リスクプロファイルの比較的ぜい弱な個人に対する値幅制限や建て玉制限などの余分な規制をかけざるをえない。市場管理についてもそういう部分がある。海外のファンドや外資系の金融機関からは、東工取はがんじがらめで使い勝手が悪いと言われている。そこで、今回ミニ金は、個人の委託者保護をより強化したマーケットを作る一方で、それと同時に逆に従来のところは従来の標準の方は、値幅制限を倍にして、建て玉制限も緩和し、プロ仕様にする。これはセットとなっている。

――商品先物取引が注目されるようになった背景は…。

小野里 今世紀に入って一次産品・コモディティが投資対象として人気が上がってきたのは、価格が上がるということもあるのだが、中長期的に見たポートフォリオの分散投資が挙げられる。分散投資は、価格の違うもの、関係性のないもの、相関関係の低いものに投資することで、初めて効果が出てくる。投資の対象は株か債券が一般的。債券は基本的に金利なので、株価と金利は明らかな相関関係がある。分散効果が全く無いわけではないが効果は薄れる。ここにコモディティを入れると、価格の動きが全く異なるので、ポートフォリオの分散効果が高い。株や債券のポートフォリオに5〜10%のコモディティを入れると、短期的には必ずしもそうとは言えないが、中長期的に見るとリスクリターンが改善されることが、理論的にも実証的にも立証されている。この考え方は90年代には分かっていたのだが、幅広く世界的に認識されてきた。

――他の原油などに関しても、ミニを導入する考えはあるのか…。

小野里 今回のミニ金は世界でも初めての試みで、我々としては最善を尽くしたが、マーケットは動いてみないと分からないところがある。問題があれば制度の手直しを行ったうえで、原油などの他の商品についても、横展開を検討している。

――海外のプロからは、取引システムの改善に関しても要望が出ている…。

小野里 これからの取引所は完全な装置産業であり、いかに立派な取引システムを持っているかが勝負となる。現在のシステムは2003年にカットオーバーし、その時は世界最高水準だった。しかし、欧米の取引システムの技術革新が進み、たった2〜3年で陳腐化してしまった。今の東工取の取引システムは、海外のプロからレスポンスが遅いと言われている。これは本当に危機的な状況だと考えており、次期システムを、予定より1年前倒しして来年度中、2009年の春ごろに導入する。

――どこの製品のシステムになるのか…。

小野里 今年中に決める予定で、まだ選定中だ。現在、海外のパッケージベンダーを調査して、だいぶ絞り込んできたが、オープン系で海外の機関投資家、プロが使用しているシステムを導入する予定だ。

――東京工業品取引所自身が上場する予定は…。

小野里 上場するためには、株式会社になる必要があるので、2008年中には株式会社化を実現したい。そして、ある程度要件を満たしたうえで、上場という運びになる。

――日本には商品取引所は1つでいいのではないか…。

小野里 現在の日本の取引所は多いとは思う。ただ、経済財政諮問会議の総合取引所構想のように、証券と商品を含めた取引所を一つに統合するのか、あるいはイコールフィッテングで規制をなくし、後は各取引所が自由に事業を行い、そこで競争させ、結果として一つか二つに統合していくのかという意見がある。

――自由競争が大切だ…。

小野里 自由化しても、専門性を特化したところが生き残ると見ている。工業品関係は我々だろうし、現物株は東証、証券デリバティブは大証、金融先物だったら金先、といった具合だ。その中で、合従連衡のように同じデリバティブ同士で、ゆるやかなアライアンスを組んだらどうかという議論も出てくるだろう。このような議論がある中、無理やり1つに統合する必要があるのかと考えている。

――しかし、今のままでは生き残れないのではないか…。

小野里 現実的にはこれだけのサイズの取引所なので、東証のように総合化というのはなかなか難しいと思う。ただ、我々が取り扱っている商品に近いものであるとか、今我々が持っている商品とセットにすれば、ユーザーにとって有難いものは積極的に取り入れるよう考える必要がある。また、東証が行うとしている商品指数については、東工取は「TOCOMインデックス」という商品指数を持っているので、これをベースにした先物を上場するなど、自分たちがやっているビジネスから、今自分たちの強みを生かしていきたい。