監査法人は組織的な対応を

監査法人は組織的な対応を

公認会計士・監査審査会 会長 金子 晃 氏


――監査審査会が設立されて、3年が経った…。

金子 会計不祥事が次々と起こって、監査の信頼性が揺るいでいたので、できるだけ早く監査の信頼性を回復すること、またマーケットに、会計監査が改善の方向に進んでいるという情報を発信することでこの3年間大変だったが、あっという間の3年間でもあった。監査のチェックに関しては、米国・カナダ・英国が先発隊だが、今では彼らとほぼ対等な形で我々の審査会も成果を上げている。企業の規模で言えば審査会は中小企業並みだが、職員には本当に遅くまで一生懸命働いてもらい、大変な作業をしてもらっている。

――現在の職員数は…

金子 審査会の職員数は約40人強。監査法人などの検査を中心にした業務を行う審査検査室に約20人、そのうち、審査・検査の中心になる公認会計士が半数程度を占めている。また法曹資格を持っている者が3名いる。残り半数の約20名が公認会計士試験の実施に関わる業務や、組織全体の総務的な業務を行う総務試験室に所属している。会計監査事務所や監査に関して、さまざまな意見や評価があったが、実際のところは必ずしも確認されていなかった。我々が実際に審査・検査をすることで、今まで推測でしかなかったことが事実により確認された。また関係者も知らなかったような事実も明らかになった。

――過去3年間で、行ってきた具体的な業務は…。

金子 大規模監査法人を含め、上場企業を監査する監査事務所の監査の品質管理の状況を審査・検査し、監査の品質を高める観点から改善すべき問題点を指摘した。また、業務改善等が必要な法人に対しては、金融庁長官に対し業務改善指示等を行うよう勧告した。監査事務所が改善すべき点はこの3年間でほぼ指摘したと思う。また、日本公認会計士協会が行っている監査事務所の監査の品質管理レビューに関しても審査・検査を行い改善すべき点について指摘を行ってきた。

――なるほど…。

金子 過去3年間で協会のレビューが一巡し、これからの3年間で2巡目のレビューが行われることになる。このように協会レビューも2巡目に入るので、指摘した問題の改善状況の把握と改善の定着が行なわれることになるのではないか。

――2巡目の検査で改善点が見られるかがポイントだ…。

金子 我々はこの3年間で、指摘した問題点が各監査事務所において、自分たちの問題としてとらえられて、改善がなされているか、その改善が個々の監査業務の品質の向上に結びついているか、そして改善が定着しているかをチェックしていく。そして、3年後の2011年3月末までには日本の監査事務所の品質管理上の問題が改善され、非常に質の高い監査が提供される状態になるようにする、それが我々の目標だ。

――審査会が検査する過程で、法人・事務所としての意識が形成されてきた面もある…。

金子 それが非常に大きかったと思う。大企業を監査するのに、会計士個人が独力で監査業務を進めていたのでは対応できない。監査事務所は組織的な対応をしなければいけないという認識が形成されてきたのではないか。

――それが一番の問題だ…。

金子 法人としての一体性・統一性をどう確立していくかが一番重要だ。法人である以上は、法人としての意思決定や業務執行がなされる、と想像していたが、実際は、個人の公認会計士たちの集まりだと知った。所属する法人の構成員である公認会計士個人の存在、個性が非常に強く、一人一人がそれぞれ独立して仕事をしているという印象を強く受けた。

――公認会計士は他の職種に比べ、独立志向が高い…。

金子 実際、会計士に志望動機を聞くと、人に使われるのが嫌だ、専門的な能力を使って、独立して仕事がしたい、という意見は多い。しかし、現代の社会の中で、独立して仕事ができる場は多くない。画家や作家は別として、プロフェッショナルと言われる弁護士や建築家、そして、会計士にしても、相手方の組織と仕事することになれば、組織で対応しなければならない時代になっている。だから、これからはプロフェッショナルの特質として、誰からも使われずに、独立して仕事するというより、むしろ自分の専門知識に基づいて仕事をし、公益を守ることを使命とすることがポイントであり、この点が強調されるべきだ。

――どんどん金融商品も複雑になっているし、会計も難しくなっている。一人の人ではなかなか大企業の監査をやるといっても難しい…。

金子 大企業の監査は、チームを編成して当たっていかないといけない。自分は人を使えない、こつこつ自分でやるほうがいいとなってしまうと、監査チームを運営することが本当にできるのか、という問題が出てくる。そういう組織を統括する手腕も必要になってくる。そのあたりの認識を変えていかないといけない。いつまでも人に使われるのが嫌なので、この業界に入ってきたと言っていると、組織的な監査はなかなか進まない。

――公認会計士の資格について市場原理を入れ、入り口はもう少し広げて、マーケット原理を働かせるべきではないかとの意見もあるが…。

金子 原則としては、私もそのように思う。しかし他方で、一定の質の確保も必要だ。試験を執行する側としては、経済社会からの要請も踏まえつつできるだけ多くの公認会計士を社会に提供していきたい。多くの人に公認会計士になるための試験を受けてもらいたいとの希望があると同時に、質はやはり落とせない。一定の質は確保しなければならない。ただ、多くの人が受けないと、合格者は増えないので、できるだけ多くの人に受けてもらう。そのためには、受験者が無駄な勉強をしなくてもよく、本来公認会計士として必要な知識と能力を問う試験にしていきたい。

――試験改革も必要だ…。

金子 受験生にフレンドリーな試験にしていく。例えば、実際監査をするときに、法令集や基準集を覚えなくても、必要な基準や法律が分かっていればいいし、必要ならばテキストなどで確認すればいい。また、論文式試験についても、単なる法令や監査基準に関する知識を問うわけではないので、法令集や基準集などを見て試験を受けてもいいのではないか。このような点も含めて試験改革に関する小委員会を今月3日から立ち上げ、有識者を幅広く参加してもらい、議論を始めて頂いている。10月中に結論を出してもらうことになっているが、それまでに合意が得られ、実現可能なものは、どんどん実行していく。

――この他には、どんな対策を取っているのか…。

金子 現行の試験制度では、会計大学院の卒業者には、企業法を除き、短答式試験が免除されている。また、短答式に受かれば、次の論文式が駄目でも、2年間は短答式の合格は有効である。社会人も受けやすいように、一定の科目の試験の免除も与えている。

――試験だけでは、その人のことは分からない…。

金子 受験している段階では、実際に監査業務を行うことに自分が本当に適しているかは必ずしも分からない。弁護士の場合でも、試験に受かり、修習も終わって、実際に弁護士となる段階で、弁護士事務所の面接があり、そこで落とされて採用にならない人もいる。あるいは弁護士業務をして見て、その業務が自分に合わない人も出てくるかもしれない。あまり試験を難しくして、何年もかけて合格したものの、その後その業務に適さなかったとしたら、悲劇だと思う。入り口はそんなに難しくしないで、一定の水準を越えていれば資格を与え、あとは本人や市場が判断するのが、本来のあり方だと考えている。

――この組織自体の今後の方向性は…。

金子 今回の公認会計士法の改正もあって、審査会の審査・検査の深度も深めていかないといけないし、外国監査法人に対する検査権限の付与等業務範囲も拡大する。そのためには人員の点、組織の点でも充実させていく必要がある。また、審査会のスタッフの能力アップも図る必要がある。組織の拡大、充実は不可欠だ。

――拡大に関して、具体的な目標は…。

金子 国の財政も豊かではないので、今の人数を来年に倍にして欲しいと言っても、なかなか実現は困難であろう。我々が現体制で成果を出し、その成果を維持発展させていくために、実はぎりぎりいっぱいでやっているということを事実で示し、さらに成果を出すためには現体制の拡大が必要であることを実際に示していく。地に着いた形での要求をしていくことが必要ではないかと思う。少なくとも今の人員では、職員に夜遅くまで働いてもらわざるを得ないので、倍ぐらいはほしいと思う。