グローバルなプレゼンスが課題

グローバルなプレゼンスが課題

三菱UFJ証券 取締役会長 五味 康昌 氏


――三菱証券の会長に就任された3年前と現在とで、印象の違いは…。

五味 3年前はUFJとの合併前で、東京三菱銀行と三菱信託銀行が、MTFGの子会社になり、銀・信・証で連結経営体制を整えた時期だ。マスコミには3大証券と対等に戦う体制が整ったと言っていたが、これは相当強気の発言だった。M&Aなどの投資銀行業務やエクイティ関連ビジネスは力不足、預資産も少なく、システムインフラも不十分、コールセンターもなく、海外拠点も手付かずでまだまだの状態だった。UFJつばさ証券との合併を機に形が整って来た。今は自信をもって国内では3大証券と十分戦えると言える。しかし海外においては欧米の銀行や証券に比べて、欧米のマーケットはいうまでもないが、香港やシンガポール、韓国、台湾などのアジア各国ですら、日本の銀行や証券会社と欧米の会社との差は絶望的なほど開いている。

――外資系金融機関に立ち向かうには…。

五味 海外展開していくうえでは、日本企業の国際化のお手伝いではなく、それぞれの国のマーケットでいかにこれからプレゼンスを上げられるかがポイントだ。個人的にはアメリカの西海岸でのミドルマーケットでコーポレートバンキングの成功体験があり、やればできると思っているので、少なくともアジアのマーケットで証券業務を強化していきたい。

――アジアを中心としたグローバル戦略の一方で、リテール戦略は…。

五味 国内のマーケットでの展開は、MUFGの中でも証券仲介などさまざまな取り組みを進めており、ステップ・バイ・ステップで、一生懸命やっていけば、それなりの成果を得られると思っているし、その手応えも感じている。実際、リテールの預資産も次第にシェアを高め、実績を積んできている。

――松井証券との業務提携の報道も出ているが…。

五味 現在決まっていることは何もない。MUFGグループにはカブドットコム証券があり、ネット証券の中で1番優れていると考えており、パートナーとして、誇りに感じている。個人の証券取引がネット証券になるのか、やはり対面との組み合わせがいいのか、まだ帰趨が分からない状態だ。

――ネット取引は主流になりつつあるようだが…。

五味 ネット証券はすでにピークアウトの感あるが、ネット取引は発展段階にあると思う。ここから本当にどのような市場となるか見ていかなくてはいけない状況だ。

――国内営業ではどのあたりに注力していくのか…。

五味 プライマリー面で、もう少しエクイティで存在感を出さなくてはいけない。また、投資銀行業務では日本を代表する企業が、「三菱UFJ証券に相談したか」と言われるような会社にしたい。欧米の投資銀行に国内では負けたくないため、プロパーや銀行系だけで投資銀行業務を行う気はさらさらない。外資系で実績のある人材も採用している。ただ、お金でプレイヤーを集めるのではなく、外資に負けない日本版投資銀行を作るんだという志を持って仕事をしてほしいと考えている。

――日本企業の意地とも言える…。

五味 私は株主価値がすべてとする考えはおかしいと思っている。企業価値を中長期に高める原動力は社員のチームプレーにあると思っている。わが社では、特別なプレイヤーを除いて終身雇用を基本としている。入社すれば、家族が路頭に迷うなんてことはさせない。その代わり一生懸命仕事してもらう。ただ、外資のプレイヤーは給料が私たちの3〜4倍から、10倍で厳しいチャレンジをしている。同じディールで、外資のプレイヤーとぶつかりあったときの集中力、緊張感、それに対する気合はかなり凄いので、そこを間違えるなと言っている。我々はこの3年間でようやく、大学に入学したという感じだ。相手は大学院生になっている。金融機関として、一段の成長を遂げなければ、欧米との競争に負けてしまう。

――最近の政府の金融市場政策についてはどう見ているのか…。

五味 私が証券界に転じたとき、堀江氏や村上氏が株式分割や時間外のTOBなど、法律の不備を突いた取引をしていた。本当は世のため、人のために、役に立つ会社を育てるための新興市場で、マネーゲームを誘発させてしまう事態を招いてしまった。法律には触れていないかもしれないが、立法の主旨から考えればおかしい。当時、金融庁は銀行の不良資産からの金融システムリスク問題にばかりこだわり、証券行政の改正が後回しになってしまった。しかし、ここ1〜2年で法律の不備、制度のゆがみは急速に改善されてきた。これからグローバルに競争力をつける行政を期待したい。

――日本のマーケットをグローバル化するには銀行と証券の垣根をなくすべきだと…。

五味 日本ではまだ時間がかかるかもしれないが、少なくとも海外では欧米と同じ競争条件で戦いたい。今の金融界は変化が速いので、2、3年以内にグローバル化の糸口をつかめなければ、もう世界についていくのは無理だろう。金融マニュアルや内部統制を大事にするあまり、エネルギーが内向きに進み、外に発散できなくなると困る。外に対して強くならなければ、という危機感を持っている。

――今後の金融界は…。

五味 銀行はもはや企業の大株主でもないし、グローバル企業が有利子負債を圧縮している状況では、事業戦略を銀行に相談する時代ではなくなってきた。各企業が、事業戦略やグローバル展開をどうするのかというときに、日本の金融機関がグローバルマーケットにおいてプレゼンスがないのでは、企業に対してソリューションが提供できない。GDP500兆円の企業集団をバックにした日本の金融集団が、これから3年後、5年後にグローバルなプレゼンスを持っているかどうかが、最重要の課題だと考える。