アントレナーシップの醸成を

アントレナーシップの醸成を

日本ベンチャーキャピタル協会 会長 鴇田 和彦 氏



――日本のベンチャーキャピタルを取りまとめる上で、日本ベンチャーキャピタル協会が生まれた…。

鴇田 2002年に設立して以来、銀行系や証券系をはじめ、多くの会員に入会していただいた。さらに協会を支える賛助会員として、ベンチャーエンタープライズセンター、ジャスダック証券取引所、日本証券業協会なども加わっていただいており、会員、賛助会員合わせて100社以上が加入する団体に成長した。

――次第に協会の存在感が高まっている…?

鴇田 協会が行政の窓口となり、公式的な見解を取りまとめる必要性が増してきた。昨年から今年にかけては、金融商品取引法の制定過程で、集団的投資スキームや、ファンドの問題が出され、我々も業界として意見を述べる機会がますます増えてきた。ベンチャーキャピタルとしての活動を、行政にも正確に理解していただいた上で、法制度化されるよう働きかけており、そのため、協会の各社が一丸となって、パブリックコメントを出すとともに、行政とも意見交換を進めながらあるべき法律策定に向けて努力してきた経緯がある。今回のように、業界内での協会の役割は一段と増していると実感している。

――金商法では、集団的投資スキームを含め、様々なファンドに網をかけている。協会から見た金商法の問題点は…。

鴇田 我々の協会の働きかけもあって、ビジネス展開上の制約は極小化されている。機関投資家を中心にして集めているベンチャーキャピタルファンドは、金商法の特例によって、届出で済ませることができ、必要以上の手続きや制約がかなり省かれている。それだけ、コミュニケーションが金融庁サイドとは取られてきたと思う。

――ベンチャーキャピタル業界の課題、会員の要請に対応するために、協会自体の今後をどのように考えているのか…。

鴇田 会員にとって利益実感のある協会でなければならない。そのために、ベンチャーキャピタルに関する情報発信源、いわゆる「ポータルサイト」化を目指したい。行政、法律面をはじめ、中国との交流、米国のベンチャーキャピタル協会などの諸外国とのつながり、ベンチャーキャピタル同士の勉強会やキャピタリストの養成も含めて、すべて情報が集約されて、情報の発信源になる。また、アジア・欧州・米国と、一般的なベンチャー企業といえども、グローバル化が進んでいる。それにより、各国のファンド会計・会計基準・国の税制など、共通な土俵、プラットフォームが当然出てくる。そして、ベンチャーキャピタルの経済活動もグローバル化に合わせた共通のものさしが必要になってくる。共通のものさしを作る上での日本代表の窓口機関として、協会の存在は非常に大事になってきており、協会としてのステータスを高めながら、コンセンサスを取っていく。最新、最先端の情報を常にリニューアルしながら、発信していくとことで、利益実感を持ってもらう。

――日本のベンチャービジネスが米国に比べ、発達していない原因はどこにあるのか…。

鴇田 今までは、ビッグネーム(大企業)を中心とする産業構造が経済の牽引力となり、日本を発展させてきた。しかし、ここに来て経済そのものが産業構造の変革期に突入している。変革期には新産業の興隆が必須だが、日本では新しい企業が生まれる素地が少ない。その最大の理由はアントレプレナーシップ(起業家精神)に対する社会の関心が低いからで、教育を含めたアントレプレナーシップの醸成が、今の日本の課題だ。会社を起業して、アントレプレナーとして活躍する人々を尊敬するかとのアンケートに対し、尊敬すると答える率は米国では90%だが、日本人は10%ぐらいだと聞いている。最近、ここ2、3年の直近のデータでは50%ぐらいにはなっており、日本におけるアントレプレナーシップも徐々に醸成されてきている。

――どうして、アントレプレナーシップを持てないのか…。

鴇田 これまで、自分の立場や職場に安定・安心を求めていたからだと思う。しかし、今では生涯同じ名前の会社にずっと居続ける確率はますます少なくなっている。今の仕事において、個人の適正な能力を発揮できるか、適材適所で十分に発揮されているのか、本来各個人が持てるオリジナリティというものを、ビッグネームのもとで発揮しているのか、組織人としては成功しているが、それ自体がその人の能力を100%発揮しているのか、日本がそういう社会の仕組みになっているかというと、私はなっていないと思う。米国での価値観の中では、起業して自らが成功し、トップになっていくことによって、社会貢献していくということが、非常に評価される。

――なるほど…。

鴇田 だから、米国の一流大学生は、インベストメントバンクやベンチャーキャピタルへの就職に人気が集まっている。また、ベンチャービジネスを興すために、ベンチャー企業に行く人も多い。古くからあるビッグネームに行く人が本当に優秀かというとそうではなく、日本の構造と大分違っている。日本でもアントレプレナーシップを醸成させる活動を大学教育、教育の現場から行う必要があり、そういう人を社会に1人でも多く送り出すことが必要だ。そして、我々は精一杯支援して、全く新しい産業を育てていく。

――そのために必要なことは…。

鴇田 世界を席巻するような有力なベンチャー企業に資金をもっと大量に投与しないといけない。一社に対する米国の投資金額の規模は日本の10倍だ。だから、米国では大型のベンチャービジネスが立ち上がり、グローバル化も進む。世界的な規模で、時価総額数千億円、数兆円という企業が出てくる。一方、日本でのベンチャー企業の場合、時価総額数十億円、数百億円に留まっている。規模が小さいということは、ベンチャービジネスを生み出す際の支援額も少ない。これが、日本で大型のベンチャービジネスがなかなか生まれてないことの理由だと思う。世界を席巻するような事業に対しては、多くの人が出資するだろう。世の中におけるサクセスストーリーの集積が社会をより良くし、進化させ、成長させる。我々ベンチャーキャピタルは、新しい産業の革新を支援する部隊として、リードしていく必要がある。

――そういった中で、ベンチャーキャピタルの現時点での課題は…。

鴇田 日本のベンチャー投資は、日本の経済力に対して相対的に少ない。日本のベンチャーキャピタル投資残高は1兆円だが、一方、米国が30兆円、欧州が20兆円以上と言われている。この状況下で、本格的にベンチャービジネスを育てるには、支援体制の高度化が必要不可欠だ。よりレベルの高い支援体制を整える意味でも、お互いにスキルの高度化を図るよう業界として切磋琢磨していく。ベンチャーキャピタルの高度化により、結果として日本のベンチャービジネスを更に発展させられると確信する。

――最後に抱負を…。

鴇田 我々ベンチャーキャピタルは、ベンチャー企業が、日本経済において重要な役割を果たせるよう、全精力を傾けていく。また、その第一歩になる、アントレプレナーシップを何としてもこの国に根強く、以前の数倍も、数十倍も強く醸成していきたい。それによって、レベルの高い事業を立ち上げる人が増え、この国における革新的な企業が占める割合を上げていきたい。