日米の景気、ボトムアウトの兆し

日米の景気、ボトムアウトの兆し

三井住友アセットマネジメント 宅森 昭吉 氏



――米経済に不透明感が漂っている…

宅森 モーゲージ金利は昨年央にかけて上昇したが、これに伴って新築住宅の許可件数や着工件数は減少を始めた。住宅着工に関しては06年初まで月間200万戸を超える行き過ぎた水準でもあったため、金利上昇により見る間に下がってきたという印象だ。一時は150〜160万戸前後である程度の落ち着きを見せていたのだが、直近では130万戸台まで低下しているため、これはやや減少しすぎの感もあると見ている。もともとFRBの金利引き上げも住宅バブルの発生を抑えるために金利を上げていったという背景があり、ある程度までの住宅市場縮小は想定の範囲内であった。

――金利上昇の効果が出てきた結果だと…

宅森 またサブプライム問題は当初、損失見込み額が米GDPの1%にも満たないため、深刻ではないとも見られていた。ただ、証券化に伴い、誰が損失を保有しているのかが分からないいう不安感が信用収縮につながっている。疑心暗鬼が市場に広まるなか、たまたま8月雇用統計の大幅悪化(前月比4,000人マイナス)といった材料が加わった。ただ、非農業雇用者増数が当初発表値と翌月の改定値の間でどのように修正されたか、過去のデータに基づくと、夏場、それも8月は当初発表時に悪い数字が出やすい傾向がある。ヘッドラインの数字を鵜呑みにして米経済の減速が本格的に開始とみるには早いだろう。とはいえ、金融引き締めの結果として景気下振れリスクはもともと存在するものであり、何らかの経済を底支える材料は必要だ。18日のFFレート誘導目標の0・50%引き下げは金利低下に結びつき、住宅投資の下支え要因にはなるだろう。後は個人消費がどうなるかが問題だが、個人消費も持ちこたえるのではないかといった印象を持っている。

――米の実体経済を悲観する必要はないと…

宅森 米製造業の在庫は一時高まりが見られ懸念されていたが、前年7〜9月期には前年同月比8.5%あったものがこの7月までにジリジリと同2・9%まで低下している。このところ在庫調整局面はほぼ終了していると言えるだろう。鉱工業生産に関しても、06年10〜12月期には前期比0・4%減であったものが、07年に入り1〜3月期は同0・3%増、4〜6月期は同0・9%増と伸びを高めているほか、直近の3カ月もプラス推移が継続している。8月分は前月比0・2%増となり、発表時には低めの数字ではないかとの見方もされたが、7月分が同0・3%増から同0・5%増まで上方修正、5月分も同0・2%減から同0・1%減まで上方修正されている。上方修正に伴い、7月は設備稼働率の方も82・2%と、81%台から上昇している。生産部門だけを見れば米経済は減速から再加速局面とも言えるだろう。生産の上昇は設備投資にもつながってくる。設備投資の先行指数である非国防資本財受注を見ると、07年1〜3月は前年比5・0%減であったものが、4〜6月期には同7・6%増まで回復している。生産の上昇は雇用にも結びつくはずで、この点からも8月の雇用統計は上方修正の余地があるのではと考えている。また、賃金の伸びは前年比4%増あたりでの推移を続けており、決して悪くない。個人所得も同様に前年比6%台の増加を続けている。サブプライムの問題はあるにせよ、生産の持ち直しは所得・雇用にプラスの作用を及ぼし、消費にも好影響を与えるだろう。

――政治的要因はどうか?

宅森 米政権と経済のパターンから現状を見ることも有用だろう。米大統領が共和党である場合、中間選挙である就任2年目およびその翌年は景気がもたつくケースが多い。対照的に大統領選挙を控える4年目の場合は好転することが多い。今年もその例に漏れず、もたつきが見られている。景気のもたつき局面は物価の安定をもたらし、利下げが行いやすい。ニクソン以来、共和党大統領の就任3年目は、総じてFFレート誘導目標を引き下げを行っている。足元8月の米CPIを前年比で見ると全体で2・0%増、コアで2・1%増と、昨年が同3・0%付近であったことを鑑みるとインフレ圧力は落ち着いている。このためサブプライム問題の有無に関わらず、景気がもたついていれば利下げで経済のてこ入れが行われることは、十分に想定範囲内のことであった。また、為替もこの時期には1割程度、円高・ドル安に振れるケースが多く、この点も過去の事例と類似している。現状も過去のパターンから逸脱した展開ではないとの見方もできよう。

――米の景気マインドは…

宅森 実体経済が底堅いなか、サブプライム問題による下振れリスクが取り沙汰されている現状では、マインドが景気を左右する局面と見られる。そこで期待しているのはニューヨーク・ヤンキースだ。消費者マインドの数値をみるとヤンキースが大きく追い上げを果たした7月にコンファレンスボードの消費者信頼感指数、ミシガン大の消費者景況感指数がともに高まり、8月には減速と、同チームの状況とマインドは一致する部分が多い。同チームがワールドチャンピオンになった年は景気も好調だ。14・5ゲーム差をひっくり返しての劇的な地区優勝という形であれば、10月のプレーオフにかけて相当な盛り上がりとなるのではないか。クリスマス商戦にも好影響を与えるだろう。

――年末にかけ米景気は加速していく可能性があると…

宅森 総じて直接的なサブプライム問題の損失見込み額はGDPの1%に満たず、各国中銀があれだけの資金供給を行ってきたこともあり、世界の金融システムが変調をきたす可能性は低いだろう。米経済が落ち込まず、中国経済の好調が継続していくならば世界経済は総じて強いと見ている。原油高は懸念である一方、現在80ドル前半にある相場が一気に1バレル=100ドルといった極端な動きをするとも考えにくい。原油の期先物は落ち着きも見せており、景気が原油高を吸収できる水準に止まるのではないか。

――日本経済はどうか…

宅森 日銀は年内の利上げは難しいとの見方も聞かれているが、1カ月経てば状況は一変する可能性もある。輸出が底堅いのほか、設備投資は4〜6月期が悪かったことで懸念が広まったものの、7月分の供給サイドのデータが回復を見せたことで7〜9月のプラス化の可能性は高まっている。また、鉱工業生産は米経済減速による自動車輸出の不調、ITの調整にも影響され、1〜3月期は1・3%減、4〜6月期は0・2%増と弱い数字であった一方、これらの影響も一巡し、7〜9月期以降の生産は堅調となるだろう。7月は地震の影響もあるものの、8月は前月比5%増程度への好転が期待できると見ている。生産の活発化により稼働率が上昇すれば設備投資にもつながる。

――国内の個人消費には懸念もある…。

宅森 消費者態度指数が弱含んでいる点は好材料ではない。ただ、生活に即したデータを見ると好転も見られる。全国でのホームレス数は減少し、ホームレスになった理由調査でも倒産・失業といった切実なものから、対人関係などへ主な原因に変化が見られる。自己破産申請件数もマイナス傾向を継続しているほか、失業率も低下している。一人当たり賃金が上昇してこない背景には、グローバル競争による賃金押し下げ圧力や、団塊世代から若年層への労働層の移行に伴う賃金の圧縮が影響しているだろう。また、景気ウオッチャー調査から景気の方向性に対する判断理由を見ると、所得税の定率減税廃止、住民税の上昇、ガソリンの値上げ、年金問題や中越地震による影響が出ている。これに加えてサブプライム問題が囁かれるなど、国内においてもマインドが消費の重石となっている。ただ、同調査においても景気の現状水準に対しての認識は底打ちつつある。好材料さえ出ればそろそろ方向性の現状判断指数も反転上昇してよい頃だろう。

――消費マインドも好転する可能性があると…

宅森 消費マインドにつながる身近なデータを見ると、「がんばっている人を応援しよう」という、景気後退の最終局面や、踊り場脱却局面に多い雰囲気が見られている。盛岡の老舗旅館の女将修行をテーマとしたNHK連続テレビ小説「どんど晴れ」が民放の連続ドラマで出せない20%台の視聴率を出しているほか、瞬間最大視聴率の過去最高を更新したのは8月の日本テレビの24時間テレビにおける萩本欽一氏のマラソンゴールの43・9%であった。このほか、期待しているのはプロ野球で、阪神タイガースがペナントレースで劇的な追い上げを果たし読売ジャイアンツ、中日ドラゴンズと人気球団間優勝争いをしている。材料次第でマインドの回復は十分に考えられる。