孫の世代まで安心して引き継げる国

孫の世代まで安心して引き継げる国

ベトナム経済研究所 所長 窪田 光純 氏



――ベトナム経済研究所の概要は…

窪田 ベトナム経済研究所は、日本の通産省ならびに外務省、ベトナムの商業省(通産省に相当)と党中央本部のご協力により17年前に開設された組織だ。半官半民かつ2国間でつくられており、現在はダナン市の駐日代表部も当所内に置いている。ダナン市はベトナムの定める5つの特別市の1つで、細長いベトナムの中間に位置し、中部発展の中心となる都市だ。国策で石油精製基地がダナンの南に作られ、中核都市としての地位を高めている。私はダナン市駐日代表部の代表代行も務めさせていただいている。

――主な業務は

窪田 当研究所が主に行っているのは日本企業がベトナムに進出するときのアドバイスや法的手続きのサポートなどだ。申請書類や定款の作成などを手伝うが、760社ほどの進出企業のうち300社近くを我々でサポートさせてもらっている。我々を訪れていただいた企業数は8,000社、このうち1割の800社ほどが会員となっていただいており、300社ほどが現地進出した。また、日本企業がベトナムでのビジネスを行う場合に、その目的や利害について現地政府に説明を行うなどの依頼を受けることも多い。例えばベトナムは石油・石炭・レアメタルも産出するため、各商社が先を争って採掘権を取得しようとしている。このような際にベトナム政府が公平な判断基準を下すためのレポート作成を行う。また、セミナー開催やセミナー講師の派遣、ベトナムの法令(投資法、企業法など)の翻訳などもその都度行っている。

――ベトナムとはどのような国か?

窪田 日本がその関係を子どもや孫の世代まで安心して引き継いでいける国だ。韓国などは日本と同質の国だが、ベトナムとはより質の高い補完関係を築くことが可能だろう。文化面でも日越はともに仏教は大乗仏教だ。国民の勤労精神が高く、国内に石油・石炭など資源もある。食糧(穀物)自給率は160%近くあり、国防の意識も高い。その国土は東南アジアの最もよい海岸線に張り付いており、地政学的な豊かさがある。政治は安定しており、指導者も優秀で人材層は厚い。社会主義の国でありながら、党と政府の間には首相府という機関を設置し、政治的にも民意を反映するバランスよい運営がなされている。

――単に労働力が安いだけではないと…

窪田 これまでは中国プラス1として安い労働力のある生産基地だという認識が多かったが、21世紀に持続的に生存・成長していくために求められる条件を全て兼ね備えた国ということが出来るだろう。そもそもベトナムの金融政策の基本をつくったのは日本だ。95年に日本から無償のODAがあったが、その際にベトナムの総合政策・金融政策・産業政策・農業政策を日本が作成した。その後は毎年毎年、それを追いかけて修正をしながら日本がベトナムを指導している。

――証券市場は…

窪田 証券市場はまだまだ開放されていない。というのも、準拠法が明確でないからだ。共通投資法26条によれば、株式・国債・社債への間接投資を認めるとの大きな方向性は明記してある。しかしこれに施行細則が伴っていないことが問題だ。昨年7月1日に共通投資法の施行細則が出た際にも、間接投資に関する部分は欠落していた。このため、現在は日本からベトナムへの株式投資は容易に出来ない。日本からベトナムへの投資の際は現地へ行って口座を開設するという方法が取られている。この様な状況のため、ベトナムには現在個人口座が24万口座あるが、このうち外国人口座は7,300程度に止まっている。

――海外から直接ベトナムへ投資できないと…

窪田 施行細則がないためにベトナムへの投資は煩雑な手続きを一つ一つ専門家の指導の下で行う必要が出てくる。そうなれば自然とまとまった大きな資金でなければそのコストに割が合わず、日本の投資家の多くはファンド形式を取らざるを得ない。現在は35本のファンドが存在するが、うち海外のファンドが25本ある。ベトナムは、年間経済成長率が8%以上で、今後10年以上成長継続が見込めるほか、適度なインフレも存在する。各金融機関はこういったことを宣伝に用いてベトナム投資への資金を集めるのだが、残念なことにファンドで集まった資金に対して市場はあまりにも小さい。現在の上場企業数は200社あまり、時価総額が230億ドル程度、1日の出来高は3,000万ドル程度だ。しかし、今月中にはベトコムバンクというベトナムで最も優秀な国営商業銀行が新規上場するなど、目玉となる企業がこれからどんどん上場してくる。一方で、今後の国営企業の民営化と上場を見越した証券会社設立も相次いでおり、この小さな株式市場に証券会社が60社もある。当然このうち商売になっているのは数社もない。統一企業法により経済グループの設立が認められたことで、70年代の韓国で起こったような財閥グループが増加していることもこの背景となっている。これら経済グループは銀行・証券不動産など広く抱えようとする向きが多い。

――国有企業の民営化・上場については…

窪田 今年は恐らく250社程度の国営企業が民営化されるだろう。このうち何社が上場するかは未定だが、これにより株式市場は急拡大するだろう。政府は各セクターの中核に据える企業71社(2007〜2010年に株式化される国営企業リストによる)の株式化について、ロードマップを作り、公表している。しかし、日本の金融機関の方はこのロードマップの存在すら認知していらっしゃらないようだ。日本に限らず、海外のファンドはただベトナムの証券会社と提携して資金を送り、運用を委託しているだけというのが実情だ。これではあまりに無責任だろう。金融機関がファンドの手数料だけは徴収して、仮に数年後の決算時に赤字であったという結果をもってベトナムが投資家から判断されるというのではフェアではない。ベトナムは上手に運営すれば必ず黒字になる国だ。国債はじめ各省からの債券も発行されているほか、株式も優秀な未上場株がそろっており、政府発表をしっかりと抑えていれば、その旨味が十分に取れる。

――海外の金融機関は勉強不足ないしはファンドを設立すればいいという考えだ…

窪田 ファンドの資金がベトナムに過剰に流れ込んでいるとの声もあるが、問題はその効率だ。海外資金は間接投資の場合、一般上場企業であれば株式の49%以内、金融機関であれば29%以内までの取得制限がある。このため、ベトナム人投資家が売却するのを待っているだけのいわゆる空室待ちの資金が50億ドルも存在する。ベトナムのGDPが800億ドル、歳出予算が180億ドル、世界中からの対ベトナムODA総額が35億ドルであることを考えると、この規模がいかに大きいか、いかに海外からの投資がベトナム国内で非効率的かが分かる。国内のベトナム・ファンドの運営者が半日でよいから当研究所に来て、国家の推進計画を学んでいただき、合わせて71社(2007〜2010年に株式化される国営企業リストによる)のロードマップを学んでいただければ無駄な待機資金の急減にもつながるだろう。ベトナム大使館と話している際にも日本のファンドのあり方に困惑するとの声が聞かれる。日本のファンドの設定は認可制ではなく登録制であるため、ベトナム株式市場の人気化に伴ってそういった実を伴わないファンドが数多く設定されてしまった。そういった現地に対する認識・知識が欠如し、運用能力を伴わないファンドに対しては何らかの改善が必要だ。