説明責任と透明性の向上を

説明責任と透明性の向上を

格付投資情報センター 代表取締役会長 原田 靖博 氏



――米国のサブプライム問題に対し、G7などで検討され始めた…。

原田 G7はファイナンス・スタビリティ・フォーラム(FSF)に対し、検討を依頼したが、実際には証券監督者国際機構(IOSCO)の専門委員会(Task Force)で議論されることになる。IOSCO Task Forceは今年4月にムンバイで行われた年次総会で、現在のサブプライム問題が起きる前にストラクチャード・ファイナンスについて、コード・オブ・コンダクトの特則を作る必要性があるかどうか検討することになっていた、現在議論が進められている。来年2月ごろまでには何らかの方向性が出ると聞いている。

――今回の問題は、格付けを過信した投資家の問題との指摘もある…。

原田 その通りだ。格付けは商品購入の判断材料の一つに過ぎない。提供する以上はしっかりしたものでなければいけないのだが、格付けは信用リスクについての情報であって、商品の値段に関しての情報を提供しているわけではない。値段は、流動性リスクや市場参加者の需給の影響も受ける。分かりにくい商品であれば、投資家の層も限られるので、おのずと利回りが高くなる傾向がある。米国では、他に指標がないので、投資家が格付けのみに依存して値段を決めていたことも問題を大きくしている。

――とはいえ、AAA格からC格への格下げは唐突だ…。

原田 証券化商品の格付けは、前提があって決まっているものである。その前提の裏付けとなるマーケット状況が変われば、当然格付けも変わってくる。その部分においてのマーケット・投資家の理解不足が挙げられる。信用リスクのみを評価していたのにもかかわらず、価格全体を評価するものと受け取れた。そして、それ以前に証券化商品の格付け自体への理解が不足していて、前提条件があって結果が出ることを理解されていなかった。格付会社も格付けの持つこうした性格について、市場に対する説明責任や格付会社の行動の透明性を意識すべきであろう。事業会社の場合、会社四季報を見れば、ある程度格付けの検討はつく。また、業績は毎期発表され、株価という別の指標もある。一方で、仕組み商品はそういったものが全くない。従って、格付会社は格付けの利用者に対し、証券化商品に対する格付けの持つ意味を積極的に説明しなくてはいけない。この点が、今回の問題から得られる最大の教訓ではないか。

――仕組債は格付会社が関与している度合いが強すぎる、そこには当事者責任が発生しているのではないか…。

原田 それは違うと思う。格付会社は、オリジネーターやアレンジャーから出された条件について、それが妥当するかどうかを評価するわけであって、別に商品を販売しているわけではない。商品を作り、販売する人が責任を持つべきであって、格付会社が責任を持つのは、出された条件が適正であるか、法律的に問題はないかをチェックする部分だ。チェッカーという意味では、事業会社債と全く同じといえる。ただ、一般的な理解が不十分であったとすれば、しっかり説明すべきところだ。

――商品が分かりにくいことに加え、いきなり大きな格下げがあったことが、投資家から不信感を持たれている…。

原田 米国ではサブプライムローン証券化商品をさらにCDOの形に二次加工している。この時の前提条件としては、サブプライムローンの相関関係がゼロに近いと想定していた。このため、一つの住宅ローンが破たんしても、別の住宅ローンには影響を受けないとされていた。さらに劣後部分をとっているので問題はないとして、「AAA」の商品を作ったのではないか。しかし米国の住宅市場のバブルがはじけ、その前提条件が崩れてきた。つまり、相関関係がゼロではなくなり、劣後部分が大幅に不足することになり、格下げをしたのだと推測している。ただ、これは外部から見た限りの印象で、実態は良く分からない。

――格付けは一般投資家では分かりにくい信用リスクを記号で示しているので、非常に分かりやすい一方、格付けした理由を深く考えない…。

原田 信用力を評価するという点では事業会社の格付けと同じだが、ストラクチャード・ファイナンスの格付は、ストラクチャー自体を評価しているものだ。ストラクチャーは組み立てたものなので、前提条件が変われば評価も変わってくる。この点が投資家にとって分かりにくかった。そういう意味では、格付会社は少し分かりやすく説明すべきだったし、投資家も事業会社債とストラクチャーファイナンスの評価方法の違いに関する理解が足らなかったと言える。

――今回の問題で、証券化商品に対し、投資家が敬遠する動きが出ている…。

原田 証券化商品の導入により、ハイリスクではあるが、ハイリターンを取りたい人とローリスクローリターンを取りたい人に対し、リスク選考とリスクテイク能力に応じて、商品を提供できるようになったのは金融技術の進歩だと思う。リスクを取る能力、リスクに対する好みに応じて金融商品を作ることにより、証券化商品は市場の効率性、金融の効率性にはプラスになっている。ただし、信用リスクが軽減されるわけではないし、消えてなくなるわけではない。信用リスクの持つ能力のある人に高いリスクの金融商品を持ってもらうことで、金融の流れはスムーズになるし、資源の配分の面から見てもプラスになる。だから、証券化商品の役割はそれなりにあると思うが、そうした性質を投資家がよく理解するのと同時に、これまで以上に格付会社もしっかり説明する必要がある。

――証券化商品の時価評価のあり方が焦点になりつつある…。

原田 時価評価の問題が今の最大の問題となっていて、G7やFSFでも明確な答えが示せていない。現在の関心は年末の時価評価をどのように行い、バランスシートをどのように作っていくかだ。よく言われるファイアーセール、火事の後の冠水商品の投げ売りのような形で証券化商品を評価すると、水に浸かっていない商品や関係ない商品まで、低価格とされてしまう。これは合理的ではないので、インベストメントバンクをはじめ、規模の大きい金融機関が集まって、検討したうえで、IASB(国際会計基準評議会)を巻き込んで、協議することになっている。一番重要な課題である時価評価が上手く評価されれば、それを基にディスクローズできるようになる。

――証券化商品のデータベース化も課題だ…。

原田 証券化商品のデータベースは不十分である。日銀が一時暫定的なデータベースを作ったのだが、当初の期限が来た段階で止めてしまった。日本には非公表の証券化商品が相当あり、それが障害になっている。サブプライムローン問題が発端となって、証券化商品に対する信頼感が弱まっていくのを防止する意味で、データの公表、データベースの充実が望まれる。