グローバルな“金融商品取引所”に

グローバルな“金融商品取引所”に

大阪証券取引所 代表取締役社長 米田 道生 氏



――大証の株価がまた上がってきている…。

米田 2000年以降、内部体制上の問題やコンピューターシステムの老朽化の問題などを解決してきた。この一連の改革の仕上げが04年の大証自身の上場であり、06年の新売買システムの導入だった。去年2月に導入した分散系の新売買システムは、世界の最先端のシステムと比べれば幾分見劣りするが、日本の取引所の売買システムとしては最も処理スピードが早いうえに、新しい商品や機能といったソフト面とサーバーなどのハードの両面で追加しやすい構造になっている。組織面、システム面で取引所としての基盤が整ったことを踏まえ、07年度からの3か年中期経営計画を策定し、その中でグローバルに存在感のある“金融商品取引所”になることを目指している。

――金商法への対応を考えての計画だと…。

米田 「デリバティブ」、「ヘラクレス」そして「ETF」を3本柱にして計画を推し進めていく。また、金商法施行によって上場できる商品が拡大されたため、商品の多様化を検討している。デリバティブは日経225先物、オプションが中心だが、その利便性をさらに高めていく。06年7月に始めた「日経225mini」には個人投資家が多数参入している。今年9月からは16時30分〜19時まで、デリバティブ取引の「イブニング・セッション」を開始した。

――mini取引は人気だが、イブニングに対する投資家の反応は…。

米田 現物株が取引されない時間帯なので、デリバティブだけが活発に取引されることはないが、何かニュースがあれば取引高は増えるだろう。現在では日中時間帯のデリバティブの取引高の3%ぐらいで1年後には5〜6%にしたいと考えてはいるが、まずは順調なスタートと見ている。

――取引制度に関してはどうか…。

米田 5月には、決済面の世界的な標準制度である「ギブアップ制度」を採用した。また、海外から直接大証にアクセス可能となる「リモートメンバーシップ制度」の導入を考えている。現在は日本に所在する証券会社を通さないと取引ができないが、この制度を導入すれば、海外からダイレクトに取引できる。

――リモートメンバーシップ制度はいつから始める予定か…。

米田 国内の規制の問題や海外との関係もあり、現在準備中ではあるが、早ければ来年からでも始めたい。日経225デリバティブの海外での取引ニーズは高い。実際、海外に行くとダイレクトに大証にアクセスしたいという要望が強いことが分かる。日経225を中心としたデリバティブの取引制度を、時間帯やサイズ、取引参加者、決済などの制度面でグローバルなものに合わせるようにしたい。

――一方、現物市場については、新興市場で不祥事が起きている…。

米田 新興市場には素晴らしい技術を持ったユニークな上場企業も多いが、不祥事を起こす企業もあって、そのために投資家の信頼感を失いつつある。信頼できる市場にするため、7月に上場制度の見直しを発表した。例えば、企業行動規範を定め、それに上場企業が違反した場合には公表することとした。また、企業で不祥事が起きた際、取引所の職権として、内容によっては外部有識者からなる調査委員会を作らせ、調査させる。

――とはいえ、問題企業を今のルールの中で、上場廃止にするのは難しい…。

米田 会社の命運を左右する上場廃止は、慎重に判断する必要があるのも確か。さらに、上場後に再度審査して、不適格な企業は上場廃止にする「再審査制度」を検討している。

――ETF市場に対してはどのように見ているのか…。

米田 米国では近年、急速に成長してきて、米国のETFの市場規模は40兆円といわれている。日本は10分の1の4兆円しかない。日本も01年にETFを導入したが、これまでは日本の株価指数のETFしか無かった。そこで、05年から商品のETF、外国株指数のETFを上場することを検討し始めた。日本では法律上の規制があって、金の現物など商品そのものを信託財産に組み込む投資信託は作れない。このため、金のリンク債を組み込んだETFにして、今年8月に上場した。現在の売買代金は一日平均で4〜5億円程度で、まずまずの滑り出しと言えるだろう。また、つい最近では上海証券取引所の上証50指数に連動するETFを上場したところ、初日、2日は大変な売買高で、取引規制を掛けざるを得なかったほどだ。

――mini先物、ETFにしても、投資家ニーズにフィットしている感じがする。それが株価に反映しているのではないか…。

米田 取引所は非常にパブリックな組織だし、市場の公正性、透明さが一番大事だと思っている。半面、金融サービス業だと考えていて、取引所の場で、一般投資家が本当に必要としている商品を取引できるようにすることが大事だ。金融サービス業の原点に立ち返れば、最大のお客様は投資家であり、投資家が本当に求めていることをいち早くとらえることが必要だ。

――売上高も増えている…。

米田 個人のデリバティブ取引のウエートが高くなってきた。現在、日本で先物取引を扱っている取引所は7つあるが、その中で大証が最も取引高が多い。今年作った中期経営計画では、グローバルに存在感のある金融商品取引所にしようというコンセプトを掲げた。大証のデリバティブの昨年の合計取引高が6,000万枚だったので、3年の間に1億枚の大台に乗せることを目標としたが、初年度から達成できそうだ。1億枚に達すれば、世界的に見てある程度存在感のあるデリバティブ取引所といえる。

――現在の課題の一つとして、取引所の統合がある…。

米田 国際的にも大きな取引所が次々と統合を進めている。これは、取引所が株式会社化して上場しているといった大きな背景に加え、グローバルに資金も動くようになったことが理由として挙げられるが、私はシステム面での変革が重要なポイントだと見ている。コンピューターの能力が取引所の命運を左右するようになり、とりわけスピードが求められるようになった。一番顕著なのが、「レスポンスタイム」の短縮だ。レスポンスタイムとは、投資家が出した注文を受け付け、受け付けたことを注文者に返すまで時間のことだが、従来の大証のシステムでは数秒かかっていた。新システム導入時には平均して約0.1秒、現在はCPUなどを追加し、0.06秒、60ミリ秒となっている。

――瞬時に返ってくる…。

米田 しかし、世界的に見ればまだ褒められた数字ではない。現在、レスポンスタイムはミリ秒で計測されている。大証のシステムでは60ミリ秒だが、世界では10ミリ秒が標準で、世界で一番早いシステムは1ミリ秒を切るかどうかの段階に入っている。

――まさにシステム競争の時代だ…。

米田 今は人間が手で注文しないで、コンピューターで予めプログラムを組んで発注するアルゴリズム取引やダイレクト・マーケット・アクセス(DMA)といった取引形態が出てくるようになってきた。このため、大証のシステムも将来的には10ミリ秒まで上げなければ、使ってもらえない。

――なるほど…。

米田 性能のいいシステムを作るには、ある程度の規模をもった取引所でないと不可能だ。そういった意味で、取引所の連携・統合が必然となってくる。最近、ナスダックとドバイ証取、そして北欧のOMX証取の統合が進められている。ナスダックは世界的に注目されている取引所であり、OMX証取は、規模はそう大きくないが取引所のシステムを作る能力が非常に優れている。実際、韓国やシンガポール、香港、シドニーなど50を越える取引所がOMXのシステムを導入している。そして、そこに多額の資本を持つドバイ証取が加わる。つまり、資本とシステムと取引所が結びついた、今の取引所の再編を象徴する組み合わせと言える。

――大証としては、どのようなことを考えているのか…。

米田 日本の場合は、法律の規制があって海外との経営体の統合は難しい。ただ、デリバティブ分野で外国の取引所と連携する形で進めている。

――日本でもこのような取引所の連携・統合が進むべきだ…。

米田 世界では証券・商品・金融全てを扱える取引所もあり、そうなろうとする動きもあるが、日本はそういった世界の動きから劣後している。現在日本には、証券取引所が6つ、商品取引所が4つ、金融先物取引所が1つと、計11もの取引所があるが、果たして効率的に運営されている市場ばかりだろうか。私は数が多すぎると思う。効率的、かつ、本当に競争力のある市場が残っていくような動きが日本でも起こってくるべきだ。