国際競争力強化に個人の参入不可欠

国際競争力強化に個人の参入不可欠

日本証券業協会 会長 安東 俊夫 氏



――金融・資本市場改革の1番のポイントは国際競争力の強化だ…

安東 今、東京株式市場の時価総額では中国に抜かれ、金融都市としての快適さも東京はかつて2〜3位だったのが、今ではシンガポールや香港に抜かれ10位にまで落ちるなど、十数年の経済の沈滞と同時に市場も活力を失い、日本の地位が低下している。さらに、今の日本市場は外国人の売買が6割と、日本の市場でありながら売買主体は外国人で、日本人は売りの主体となっている。海外の投資家からは、日本人は日本経済が回復しているのに、なぜ株を買わないで売ってばかりいるのだとの声をよく聞く。

――そういう状況を変えていく…。

安東 今夏サブプライムローン問題が顕在化し、全世界で株価が一斉に下がった際、ニューヨークはいち早く回復して一時的にせよ下落前の高値を更新したが、外国人の換金売りで下落した東京はなかなか戻ってこなかった。その後、サブプライム問題が深刻化し、さらなる株価下落が世界で発生しているが、この局面でも日本株の下落率が大きい。こういうところにも、機関投資家を含む日本の投資家の市場への参加がまだ十分でないことの弊害が出ている。

――改善策のポイントは…。

安東 やはり個人の参入だ。日本の場合、個人金融資産に占める投資商品の割合は13%程度にとどまっている。株式市場の売買における個人のシェアはわずか20%程度で、外国人の3分の1程度にとどまっている。税制面でみると、欧米ではほとんどの国で預貯金と比べ投資のための軽減措置が取られている。例えば、米国では1年超株を保有した場合、所得によって税率が異なるが、所得税が25%以上の税率の人には譲渡益への課税を15%に軽減し、それ未満の人には課税していない。ドイツは来年から税率を上げるが、これまでは原則非課税にしてきた。かつては個人金融資産のほとんどが預金だったが、原則非課税にしたことで投資商品が3割にまで伸びた。さらに、アジアでは譲渡益も配当も軒並み非課税だ。日本も貯蓄から投資へと掛け声だけ5年ぐらい前から言い続けているが、成熟していない。個人金融資産に占める投資商品の割合を欧米並みの30%程度までにするためには、税制面での配慮が必要だ。

――株が上がれば景気が良くなり、国民が豊かになるといった発想がしづらい土壌が日本にはある…。

安東 協会で行ったアンケートで、「証券投資を始めたのはいつか」との設問に、全体の3割が03年以降に始めたと答えている。03年以降は市場が底を打って上昇したことが大きな理由ではあるが、今の軽減税制がスタートしたのもこの時期なので、この影響も大きいと見ている。また、銀行や郵便局が投信の販売を始めて軌道に乗ったのもプラスに働いた。さらに、その3割の人の年収は500万円未満が76%を占め、平均的な年収の人たちが投資を始めていることが分かった。また、年代別では60歳以上になって所得が減り、お金はあっても収入が少ない人に加え、35〜39歳の層も増えており、高齢者と貯蓄を考えた人が額は少額ではあるが投資を始めていることが示された。

――軽減税率を続けるメリットは大きい…。

安東 また、10%の軽減税率でも、行う以前と後では、配当、譲渡益から出る税収は非常に伸びている。配当を出す前に40%の法人税が政府に支払われていて、そこからさらに個人が税をとられている二重課税はそれ自体大きな問題でもあるが、これを20%に戻すというのはおかしい。日証協としては、何とか軽減税率を今後も続けてもらうよう関係方面に要請している。

――金商法の施行で、投資信託が認可制から登録制になったことは、今後大きな問題になりかねない…。

安東 顧問業界や信託受益権を扱う不動産会社、集団投資スキーム、いわゆるベンチャーキャピタル等の業者についても、日証協で管理するよう金融庁に求められている。日証協としては現在検討事項として、3月までに金融庁に答えを出す予定だ。

――日証協は、自主規制機関としても、活躍してきている…。

安東 自主規制は法律よりも広くとらえるものでなければならず、法律違反でなければ何をやってもいいという世界ではない。今年は協会員各社に倫理規定を作ってもらった。ただ、規制のための規制でもいけない。「ベターレギュレーション」という言葉を使っているが、大人の世界だから、基本的には各社で判断してほしいところはある。

――ジェントルマンルールで悪いことをやったら、村八分にすればいい…。

安東 その通りで、業者の観点からいえば、活動停止、退場とするのが一番きつい。英国ではこの方式を採っているため、結果的に各業者がルールに対して厳格な動きをする。一方、米国は規則で縛りすぎて、コンプライアンスコストがかかりすぎている。日本は今まで米英の中間的なところにあったが、それをもう少し厳しく取り締まる。とはいえ、監査するとまだ一任勘定で捕まったりする基本的なところすら守られていない証券会社もあり、すべての証券会社の不正が無くなるとは思わないが、大半がそういう流れになっていけば、市場が世の中から信頼されるようになる。

――自主規制と取引所の運営は利益相反があり、以前から課題となっている…。

安東 私が委員長となっている特別委員会において、前回ジャスダックについて議論したが、年内をメドに日証協としての方向感を固める段取りを考えている。

――今、ジャスダックはさまざまな問題を抱えている…。

安東 同じ新興市場のマザーズ、ヘラクレスに比べ、場口銭が7〜8倍高く、証券会社から使い勝手が悪いとの指摘を受けている。コストは若干増加しているうえ、ジャスダックの売買量はこのところ芳しくなく、月次ベースでは赤字に陥っている。さらに月間で初めて一日平均の売買代金が300億円を割る事態が起こるなど、構造的に利益が出るような形になっていない。

――合理化と統合が課題だ…。

安東 現在、日証協が72%強の株を保有しているが、利益相反の問題は幸いにして起きていない。ただ、将来的に利益相反の問題の可能性がないとはいえない。その時に7割の株を保有しているのは、多すぎるかもしれない。筆頭株主で7割持ち、その他は証券会社が持っているのだから、オーナー企業みたいなものだ。保有株をすべて手放すかどうかはその場の判断だが、今の状況は良くないというのが、基本的な考えだ。世界の市場統合の流れもあわせて考えて、より日本の市場が全体的に良くなる方向で結論を出していきたいと思っている。