東京証券取引所 代表執行役社長 斉藤 惇 氏

東京証券取引所 代表執行役社長 斉藤 惇 氏

二宮尊徳の思想で新時代を



――金融審で取引所が飛躍しやすいような法的整備の枠組みが示された…。

斉藤 金融審の報告書の内容は、我々にとって大変ありがたいし、よくまとめていただいたと感謝している。現在、日本の取引所が目先の問題として抱えている課題のほとんどが網羅されている印象を受ける。これを受け、来年は現場ベースが取引所の競争力強化を実現するよう進めていく。ただ、法律策定段階で曲解されないようにしてもらいたいという思いはある。業者や市場にとっては、少し難しい問題はあるかもしれないが、そこは基本的な価値観は投資家にもっとリスクマネーとして投資させて、裕福なリターンをとってもらうという考えで市場を作っていくべきだろう。

――報告書の中で最も評価している点は…。

斉藤 1つは商品との相互乗り入れだ。これで東京工業品取引所とも協力し合える。その次の段階として、東京穀物商品取引所とも乗り入れができればいいと考えている。また、相互乗り入れによって、商品関連のETFが可能だ。もう1点は我々が手をつけているプロ向け市場の構築が少なくとも答申の中では、望むべき方向で語られている点だ。

――ETFの数はまだまだ少ない…。

斉藤 証券会社にとって、ETFは3分の1ぐらいしか手数料がなく、通常の投資信託とは目先の利益率が全然違う。しかし、逆に言えば、投資家はそれだけ投資信託を安く売り買いできる。このような商品を数多く用意するのが我々の仕事だ。証券会社が3倍の手数料が取れるOTCの投資信託を売買する気持ちも理解できるが、3分の1のコストになるものを上場して、3倍取引してもらうという考え方のほうがいいと思っている。

――プロ向け市場に対して、日本にプロがいるのか、答申で考えられているような市場ができるのか、との指摘もある…。

斉藤 そういう声があることは知っているし、まったく問題がないとも思っていない。しかし、仮にプロ向け市場を作らないで問題が解決するのか。まずは市場を作り、推し進める。その中でプロを育てていくこともあるし、海外からもプロはやってくる。また、市場に上場するものも日本だけではなく、ベトナム、インド、中国などの企業もあるだろう。富裕層の人たちも参加するかもしれない。最初からダメだと言っていては何も進まない。

――商品が多様化であればあるほど、取引所の仕事を果たしているといえる…。

斉藤 できれば参加者や業者の中にも全員とは言わないが、数十社が前向きに考えてもらえれば、十分市場は成り立つ。すでに外資系企業の数社が前向きにプロ向け市場を検討している。また、そういう参加者がいれば、参加の機会をつくるのが取引所の役割だ。

――開設はいつを考えているのか…。

斉藤 プロ向け市場に関する法律が通常国会を通った後になると考えているので、開設は今年の夏以降になるかと思う。

――世界との遅れが指摘されているコンピューターシステムについては…。

斉藤 次世代のコンピューターは部分的には来年1月から動き出すが、実際できるまでに2年近くかかる。その間に他の取引所のコンピューターも進歩していく。大変ではあるが、焦ったところで、一足飛びには追いつかない。今回の次世代システムは、他市場に追いつくための第一段階だ。遅れを取り戻すために頑張るのは当然のことだし、コンピューターの改革・投資は永久に続くだろう。取引所の利益の半分ぐらいは再投資となるぐらいの覚悟はできている。

――上場企業の品質管理も課題だ…。

斉藤 暴力団の問題は対策を警察や検察と構築してきており、相当押さえ込めると見ている。あとは、第三者割当の際の割当先のチェック、ディスクローズが必要だと考えている。割当先が、ブラックマネーやペーパーカンパニーでは市場と暴力団との関係が断ち切れない。これは一部の弁護士と会計士の決まった人が関与しているようだが、この人たちの倫理観を問いたい。法律的には合法なのだろうが、それをもって、プロと呼べるのか。マイナーな株主が犠牲になり、ブラックマネーが表へ入り込んでくる可能性もある。

――自主規制が重要になる…。

斉藤 それについては、東証の新組織である自主規制委員会法人や日証協などにお願いして、あるべき体制を検討していただき、実効性のある対応ができると信頼している。

――新年の最大の課題と考えているのは…。

斉藤 最大の課題は日本株を日本人が買わないことだ。ROEは世界的に低いが、PERも安いし、利益も出ている。さらに自己資本比率も高く、配当も5兆円を超えるなど良い面が多い。しかし、日本人はPER7〜80倍で、情報も公開していないような会社の株が上がるからといって、マネープレー的に外国の株を買うという投資スタンスをとる傾向が目立つ。これを何とかしたい。この問題は、国家の財政問題や金融問題と絡むのだから、税制も含めて真剣に検討して、日本人投資家が慌てないでじっくりいい日本の株を持つような環境にすることが大切だ。そうなれば、株が上がり、国家も栄える。

――今の日本株市場は外国人に席巻されている感がある…。

斉藤 今、外国人が63%ぐらい売り買いし、株主も28%が外国人だ。日本人の株主比率は低いし、売買比率は低いし、売買率は個人がようやく40%ぐらいとなっている。日本の年金などは全て合わせても10%ぐらいにしか売買比重がない。一方、米国ではGDP13兆ドルに対し、投資信託が10兆ドルある。日本の投信は増えたといっても、530兆円のGDPの中で80兆円しかない。米国と同じ比率を目指すなら、400兆円ぐらいあってもいい。GDPの3倍の1550兆円も金を持っているのだから、国が投資がしやすい税制やルールを変えたら、面白い国になるだろう。

――アジアの中では、むしろかなりの点でまだ注目されている…。

斉藤 現実的には日本は必ずしも優越的な立場でもなく、アジアでも相当負けている。彼らに追いつくのが大変だ。日本が世界で誇れるのは、工業技術とごく一部のメディカル技術ぐらいだ。評論家は米国の大企業を批判するが、彼ら並の利益を出しているリテーラーが日本にはいない。世界第二位のGDPを誇る日本が、もう少し世界に入っていけるような国になるべきで、そのためには日本市場がもっと開放的で自由にならなければ難しい。

――日本は、官僚的、社会主義的な考え方がまだ強い…。

斉藤 今、二宮尊徳の思想が大切だと主張している学者もいるようだが、私もその通りだと思う。もう少し地に足をつけて、実利を着実に追求し、舞い上がったよう考え方は辞めたほうがいい。マネーゲーム的な物の考え方も問題だが、それを批判する保守派の批判の内容も、マネーゲーム的で浮ついている。何もリスクを取るな、とか、資産にレバレッジをかけるなと言っているわけではない。そこは二宮尊徳の時代とは違うが、やり方と心の持ちようだと思う。そういう点で、日本人はもう少し落ち着いて、どっしり構えて、しかしやるときは一気にやるという姿勢で新たな激動の年を切り開いていく必要があると考えている。