日本証券業協会 副会長 渡辺 達郎 氏

日本証券業協会 副会長 渡辺 達郎 氏

head of the curveを検討



――協会では事前チェックと事後チェックの中間に当たる早期警戒システムの研究を進めている…。 渡辺 それは、「ahead of the curve(アヘッドオブザカーブ)」といって、曲がる前に少し徐行して様子を見ながらいこうという意味で、転ばぬ先の杖のようなものだ。もともとIOSCO(証券監督者国際機構)の自主規制機関諮問委員会の中にahead of the curveのワーキンググループがあって、私がそれに参加したことがこの研究を始めたきっかけだ。そこでは、今後出てくるであろうリスクについての予想や議論をみんなで行い、それらの対応策についてもあらかじめ議論を重ねていた。自分たちにできること、または他の機関や業者にお願いすることなどをピックアップし、リスクが起こる前に打ち合わせをしておく。そうすることで、実際に起こった時に、かなりスムーズな対応が可能になるというわけだ。少し前になるが、鳥インフルエンザの脅威が話題になったときに、もし証券業界の人間の半分以上が鳥インフルエンザにかかり、出勤できないような状態になったらどうなるのか、というテーマで議論を重ね、在宅営業や届け出に対するルールについて、その場合に限ってはここまで緩めておけば良いのじゃないかといった具合に、さまざまな提言をまとめた。その一方で他のリスクの洗い出しも並行して行った。 ――アメリカでは以前からそういった試みがあった…。 渡辺 NASD(全米証券業協会)ではずいぶん前から始めていた。どういうやり方をしていたかというと、NASDはとても大きな機関で、監査などいろいろなことをやっている。そのため、情報の入手経路が煩雑になり、断片的な情報ばかりが各セクションに入り込んでしまう。そういった状況を防ぐために、監査の結果やマーケット情報などすべての情報を集約して分析するahead of the curveというセクションを作り、そこで各情報について分析をして、マイナスの情報に関しては対応策を練るなど効果的に活用した。あくまでも始めはNASDの中だけで行っていたことだが、その後国際的な議論として早期警戒の仕組みを広めていこうという動きになった。 ――日本でも早期警戒の仕組みを取り入れていくべきだと…。 渡辺 日本の行政がかつて行ってきたことは、リスクの予見はするものの、リスクがありそうだからこれはやってはいけない、あれも駄目というような事前審査が中心だった。一方で、リスクを恐れるあまり規制を厳しくし過ぎてはマーケットが発展しないという意見もあり、その後は一転して事後チェックだという流れになった。すると今度は、事前審査を緩め、その代わりに後からチェックして法律に違反していたら罰を与えるというような極端な形が生まれた。これらを振り返ってみると、事前審査や事後チェックとは違う視点を持って、真ん中の部分に目を向けていくことが必要だということが分かる。実際にNASDが機能していることも受けて、日本の証券業界に適した早期警戒モデルを作れたら良いのではないかという発案のもと、現在は高橋厚男氏が理事長を務める日本証券経済研究所で提言をまとめてもらっている。 ――その提言を金融庁に持っていく…。 渡辺 行政の協力なしでは難しいところもあるので、金融庁にお願いする部分も出てくるとは思う。例えば、ある提言については金融庁、これは日証協でというようになるだろうが、あまり縦割りに囚われずに、あくまでもマーケットという単位でものを考えていく。マーケット全体に広がるそれぞれのレギュレーターに対して提言し、組織的に早期警戒を図っていくというイメージだ。日証協としては、NASDのように専門のセクションを作って、少なくとも日証協の中で集まってくる情報に関しては、集約をして分析し、こちらとしてはこんなふうに見えているけれどどうでしょうというように、東証など関係機関の意見を聞きながら肉づけしていって、問題提起をしていくシステムを構築していきたいと考えている。 ――サブプライムの問題も早期警戒で対応策を立てていればここまで大きくならなかった…。 渡辺 その通りだ。信号が青から黄色に変わるようにこのまま進めば危ないと分かっていたら、走り抜けることはしない。仮にリスクを避けることができなくても、あらかじめそれに対する準備ができているのと、何もできていないのとでは、ダメージや対応のスピードが違ってくる。マーケットの自由化が進んでいる現在、リスクがあるから何もしないという事前審査の体制に戻ることは現実的ではないので、今後は早期警戒という形で、マーケットプレーヤーとレギュレーターが一緒に走りながら対話をしていくことが望ましい。 ――そのほかに日証協で現在検討を進めていることは…。 渡辺 ahead of the curveの研究やサブプライムの問題にも絡んでくるのだが、日本にも証券化商品市場はある。今回はまったく問題になっていないが、市場がある以上、将来のことを考え、今回のアメリカと同じようなことが日本では起きないよう対策を立てておこうという動きが金融庁との間である。その一環で、トレーサビリティーについて議論を進めている。 ――証券化商品が組成される過程を追跡する…。 渡辺 その通り。つまり、原資産がどんなもので、それがどういうパッケージになって誰が持っているのかということをある程度把握できるようにしておかないと、何か起こった時に困るというわけだ。当然やらなければいけないこととはいえ、これがなかなか難しい。例えば、アレンジャーは銀行であったりする。するとそれは銀行業務になるので日証協が規制をする範囲ではないということになる。一方で商品を売るところ、すなわち証券会社に関しては日証協のコントロール下にあるというように、ひとつの自主規制団体ではなかなかカバーしきれない。こうした背景を踏まえ、今後やろうとしているのは、金融庁が音頭を取って、関係する自主規制団体を集め、それぞれに対してトレーサビリティーの観点から行ってもらいたいことを提案していくというもの。そうして構築された全体パッケージの中で、それぞれの自主規制団体がトレーサビリティーのために必要な自主規制ルールを作っていこうと考えている。 ――そうすればアメリカの二の舞にはならないと…。 渡辺 現時点の日本の証券化商品市場には問題はないが、将来的に問題が生じたとしても慌てないように事前に準備をしていく。まさにahead of the curveの精神だ。これら、証券市場の問題に対し、時には先見的に、時には既に起こったことをきちんと分析し反省していくことで、日本の市場を間接金融から直接金融へと発展させていくことができたらと考えている。