カドタ・アンド・カンパニー 代表取締役社長 門多 丈 氏

カドタ・アンド・カンパニー 代表取締役社長 門多 丈 氏

バーチャルマーチャントバンクを設立



――金融アドバイザリー専門の会社を設立した…。

門多 長年務めた三菱商事を退社し、去年の7月に設立した。公認会計士や弁護士をはじめとしたプロフェッショナルとネットワークを組み、プロジェクトごとに動くという形態をとっている。いわゆるバーチャルマーチャントバンクだ。海外には似たような会社が多少存在するが、日本でもまれな試みではないかと思う。このようなコンセプトで運用するので、組織は小さければ小さいほど良いと考え、スタッフは現在私を含めて2人。今後も規模や人数を増やすつもりはない。過去25年間三菱商事で経験してきた、資本市場、投資、また不動産証券化やM&Aなどの金融サービスの知識を活かしたアドバイザリー業務を行っている。完全にアドバイザリー業務に徹しているため、資産を預かるとか株の取り次ぎやファンドの売り込みといった証券会社的な仕事は一切行っていない。アドバイザリーのレベルとしては、企業の成長および国際化、M&A、企業投資や不動産投資、今後はインフラ投資に対するアドバイスも視野に入れている。アドバイスのポイントは、ファンドも含めて誰に預ければいいか、どういうタイプの投資が合理的かという点。今のところは主に、海外の投資家をターゲットにしている。

――すでに進行しているアドバイザリーは…。

門多 年間契約を結んでいるところが3つあって、まずは海外の投資銀行2社。具体的には、アジアパートナーとドイツのプライベートバンクだ。アジアパートナーは香港の会社で投資ファンドが中心。ドイツのほうは、アセットマネジメントとコーポレートファイナンスを主としたアドバイザリーを行っている。もうひとつは、ドイツのフランクフルトラインマイン国際投資促進公社で、この公社は外国企業がEUに進出するための戦略の立案から実行、進出後のサポートまでをトータルで支援している団体だ。

――海外ではアドバイザリー契約が一般的だが、日本企業ではまだまだなじみがない…。

門多 その通りだ。海外の企業の場合は、日本に投資したいと考えているところ、例えば投資銀行やその後ろに在る年金基金がターゲットだ。また、成功報酬ではなく、あくまでも年間契約にしている。一方で日本の企業にアプローチする際には、どうしても投資の意欲を持っていて、バックグラウンドがしっかりしているところに限られるということはある。このため、現在は、海外の金融機関と年間契約をし、彼らの投資戦略についてアドバイスをすることが主業務になっている。

――サブプライムの影響で世界中の金融機関が信用収縮を起こしているなか、日本企業への投資意欲は今後も継続するのか…。

門多 少なくとも、私共が関与している金融機関の先の機関投資家は、年金や中近東のマネーで株式中心の運用をしていることもあり、投資意欲は衰えていない。サブプライムは基本的にはデットの問題と捉えているので、間接的な影響は受けたとしても、本源的な投資意欲は衰えていないといえる。ただし、日本が魅力的かどうかという意味での悩みはあるかも知れない。

――魅力的かどうかの判断はどこでするのか…。

門多 やはり、投資する企業の成長力、つまり成長シナリオだろう。私からすれば、日本の中堅企業で、優れた技術かつ素晴らしい商品を持っていて、中国などの海外進出で成長シナリオが描ける企業は魅力的だ。投資家は、企業のどういった戦略に投資すべきかというところをかなり厳密に考える。そういった意味では裏返しになるが、日本のエクイティバリューは全体的に下がっている。客観的には投資を思いつかない状況でもある。とはいえ、グローバルな視点で見れば、成長シナリオが描ける限りにおいて、日本株はかなり魅力的になっているといえる。もちろん、そのシナリオに納得して投資できるかは別だが、実際、私の周りにもドイツの企業が日本企業に資本参加したいという話があり動いている。

――今、外資系証券が秘かに日本株を買っているという話もある…。

門多 それは確かだろう。今はPERも下がっているし、配当利回りもかなり高い。80年代に比べれば、日本の企業は株価形成もはっきりしているし、キャッシュフローや配当利回りも悪くない。そのうえ、今下がっているのは個別ではなくすべての銘柄だ。サブプライムがらみで去年の8月に売られた株は、トヨタやキヤノン、オリックス、コマツなどの優良企業ばかり。そのころに比べて今は株価がほぼ30%も下がっているし、これらの企業は戦略も国際化していて、日本企業の中でも別格だ。中長期的に持つには魅力的だと思う。

――日本の平均株価は買えないが、個々の株は買えると…。

門多 その通りだ。まさに日本企業の中で2極化が起こっている。特に2極化が顕著なのは大企業。不動産同様、良いものばかりに投資が集中している。しかし、このような状況にあっても、日本の中堅企業というのは、まだまだ成長の余地があると考えている。国際化を本気で視野に入れていないなど、現状はあまりにもプロダクトラインが狭いからだ。私共では、M&Aや海外進出においても、中堅企業を積極的にサポートしていきたいと考えている。例えば、日本の中堅企業の技術と商品をドイツの未公開の中堅企業と一緒にすれば大きなシナジー効果が期待できるというように、やり方はいろいろあると思う。

――ここ最近のユーロ高を受けて、日本企業によるユーロ圏への進出は難しいとの意見もある…。

門多 ユーロ圏全体でいえば、GDPは日本の3倍以上、人口は4倍だ。マーケットキャップも3倍で、アメリカよりも大きい。経済圏が広いことを勘案すれば、ユーロ高は決して悪いことではない。ユーロ圏で商売して、ユーロ圏で儲ければいいのだから。ユーロ高というのは入り口部分での議論はあるかも知れないが、そこで事業を行うのであれば、例えば本社をフランクフルトに置く一方で、工場は労働賃金の低い東欧に建て、販売はフランスで行うということもできる。また、ユーロ高は逆に、成長力を反映しているともいえ、今後の消費拡大も期待できる。つまり、日本の企業には、ユーロ高だから進出できないという発想そのものを変えるような、海外進出に対するパラダイムシフトが必要だ。

――同様に、日本人の株に対する考え方にもパラダイムシフトが必要だ…。

門多 この10年、15年で日本の企業が市場を意識した経営になったこともあり、株を持つことに対してネガティブな見方をするべきではないと思う。そもそも株とは無関係と思っている人も、年金や生保が株で運用しているのだから、知らないうちにほとんどの国民が株を持っていることになる。その意味で、キャピタルゲインタックスについても、長期に保有する投資家への優遇策などさらなる見直しが必要だ。日本の個人投資家以上に高い外国人持ち株比率をみると、以前に比べれば日本の投資家の売買高が増えたとはいえ、将来のためにも、株式市場の活性化に向けて行政はもっと力を注いでいくべきだろう。