T&Kパートナーズ 代表取締役社長 幸島 祥夫 氏

T&Kパートナーズ 代表取締役社長 幸島 祥夫 氏

バランスシート活用し日本の効率化を



――このほど「バランスシートによる日本経済分析〜フロー経済からストック経済へ〜」という自著を出版された…。

幸島 5年前に出した本の改訂版になるが、タイトルになっているバランスシートによる日本経済分析というのは、私自身がずいぶん前から問題意識を持って取り組んできたテーマの一つだ。今日の日本経済が直面している数々の問題を検討するうえでも、大変参考になる考え方だと思う。日本経済の成長、発展のために、誰がどういうイニシアチブを取って、何をしていけばいいのかを分析し、企業会計の手法によって、自分なりの結論を述べている。

――日本人は対米依存の傾向が強く、そのせいで世界情勢や経済に対してふかん的な見方ができない…。

幸島 まさに、その通りだと感じている。日本は、日本の特殊性に重きを置かず、経済全体に対する見方まで欧米から輸入し、そのまま真似をしている。また、対策についても同様のことが言え、経済政策にしても、金融政策にしても、数年遅れでアメリカの真似をしているに過ぎない。戦後60年が経過したが、その間はずっと追いつけ追い越せで、ルールややり方といったものはすべて、欧米の真似をしてきたといっても過言ではない。しかし、いつまでもそのままで良いわけはなく、そろそろイニシアチブを取って自分たちなりの対応をしていくべきではないかと思う。

――自分たちでイニシアチブを取る習慣を身につけるには時間もかかりノウハウもいる…。

幸島 国として独自の経済活動ができていないから、個人としての経済活動や家庭生活においてもそれが波及し、変えるべき時点で変えることができずにきてしまっている。例えば、ライフサイクル、キャリア、価値判断などは、規定の基準に即していないと評価されない。またそれを引き継いできた日本の指導者層やエリートといわれる人たちは、敢えてできあがったものを変えることを嫌う傾向にある。戦後60年以上も経てば、当然水も濁るのだから、本来であれば役人や学者、経営者などが独自に、こうあるべきだというものをもっと表に出していくべきなのだが、どうも現在良いポジションにいる人ほど、変えたくない、もしくは変えてはいけないのではないかという考えが強いようだ。むしろ、変えようとする人を叩いてしまう傾向がある。とはいえ、世界の環境が刻々と変わってきていることを受け、日本という温室にも冷たい風が入ってきている。それが分かりつつも居心地の良い温室から出たくないというのが、日本の現状ではないかと思う。

――日本経済の現状を考えていくうえで、バランスシートに着目した…。

幸島 企業を例に挙げて考えると、日本の企業でも初めは損益計算書にしか興味がなかった。売上げがどれだけ上がるか、どれくらいのシェアを獲得するかということばかりを目指してきた。社員の気持ちなどはあまり考えずに「働け」と言い続け、製造や研究開発の過程において、どのような経営理念を持って仕事をしていけばいいのかというような指導はされてこなかった。しかし、国際化の流れもあって企業会計のルールが変わり、現在は損益計算書、バランスシート(貸借対照表)、キャッシュフロー計算書という財務三表の提示が義務づけられるようになって、企業経営のあり方にも変化が出てきた。一方で、国や公共団体を見ていくと、単年度の損益計算書を作成し、年間の収支を示すのみだ。建設したものをどうやって維持していくか、年金として集めたお金はどのように運用されているかなどということは、ほとんど公表されていなかった。会計のやり方にしても、単年度の歳入と歳出だけしか公表しないため、例えばその年に建設した建物が次年度以降どうなったのかということがまるで分からない。通常、企業であれば、工場を建設した際には減価償却をするというようにそのつど措置をしていく。実際、日本の経済構造が今どうなっているのかということは、日本全体のバランスシートを見なければ分からない。

――日本政府もバランスシートを活用するべきだ…。

幸島 企業が当たり前に行っていることであるが、バランスシートを見なければ国全体の状況を把握することはできない。最近、埋蔵金があるとかないとかいう話が出ているが、そういったこともバランスシートがあればはっきりする。もちろん、キャッシュフロー計算書も必要ではあるが、まずは、バランスシートを見ることが先決だ。それによって、日本の経済構造はほころびているのか、それはどの部分なのか、あるいは、マネー(経済の血流)はきちんと回っているのかというようなことをみんなが認識することができる。実体経済とお金を切り離して考えることはできない。経済全体を理解するためにはお金の流れ、つまり会計的な考え方が必要になってくる。それは個人にもいえることで、これからは一人ひとりが自分の資産と負債をしっかり管理していくことが求められよう。自分という会社、あるいは家庭という会社が、将来を展望したうえで、うまくマネジメントされているかどうかを見るのにもバランスシートで分析するという意識が必要だ。

――日本をバランスシートで見たら、マネジメントがうまくいっているとは決していえない…。

幸島 その通り。国全体を一つの大会社、「日本株式会社」に見立てると、05年末の数字になるが、総資産8,100兆円から負債5,500兆を除いた純資産(国富)は2,600兆円になり、そのうちの2,200兆円は家計部門にあることが分かる。家計部門は「日本株式会社」の大株主というわけだ。そう考えると、官僚や政治家や大企業の経営者が執行役員に該当し、株主である市民は、役員に対してもっとしっかりマネジメントしろと提言する権利を持っていることになる。お金の流れを知ることも株主の当然の権利であり、政府はもちろん、今はオープンにされていない特殊法人の資産、負債、正味資産などもすべて連結して一つのバランスシートに示すよう求めるべきであろう。

――市民一人ひとりが物言う株主になって主張していくべきだ…。

幸島 現実問題としては、日本の経済、金融の将来を託せる人材を選挙で選ぶことでしか主張する機会がないかもしれないが、市民全員がそのような意識を持って選挙に臨めば、「日本株式会社」の経営陣は、もっと株主(市民)のことを第一に考えて、自分たちの都合の良い構造から少しずつでも変化していくのではないかと考える。日本経済の現状を見る限り、バブル経済の崩壊後、日本のリーダーたちは当事者能力を欠いていたと言わざるをえない。しかし、時代は変わった。これからは株主(市民)に対して良かれと思うことを積極的にやっていくべきだし、日本は経済成長を遂げて投資国になったのだから、ストックを世界のマーケットでうまく活用することをもっと意識していくべきだろう。日本経済全体でストックは、05年末では2,600兆円(GDPの5倍以上)あるのだ。できるだけ早くこのストックを活用して、日本の経済価値を高めることが必要だ。