セブン銀行 代表取締役社長 安斎 隆 氏

セブン銀行 代表取締役社長 安斎 隆 氏

米も公的資金の注入がカギに



――米サブプライムローンに端を発した金融不安が日本によく似ているという意見がある…。

安斎 似ている似ていないに関わらず、性格的には、やはりバブルとバブルの崩壊だ。バブル崩壊の深さが日本と比べ浅いかどうかは、これからの対応次第だろう。しかし、規模的に言えば世界を巻き込んでいるため、日本と同じくらいの規模になるのではないかと思っている。他の金融商品まで巻き込んでいることや、不動産関連貸出の金利をいくら低くしたところで住宅価格が上がることはないだろうと皆が認識していること、そして、今の金融収縮で不動産投資がさらに減少してしまったこと、その一方で、個人消費そのものへもマイナスの影響を及ぼしている。こういうなかでは、さらに不安が広がる恐れがある。ところが当時の日本と米国で基本的に違うところがある。このような問題が起こった時には時価で資産価値を見て、その結果資本が足りないところには資本で穴埋めをしなくてはならないというのが健全なものの考え方なのだが、当時の日本の場合は、貸出および担保物件価値が下がったけれども、景気を下支えすればその価値が戻り穴も埋まるであろうという安易な期待で、問題を時価会計で受け入れようとしなかった。受け入れるときも不良資産の処理は株式の含み益の吐き出しで、実現益ではなかった。自分のもっている株式価格を上げることによって穴埋めをし、根本的な解決をせずにいたために、より負担が大きくなってしまった。ここが日本と米国の違うところだ。今、米国では、当局も関係金融機関もできるだけ資産を時価で評価し、必要なところに資本で穴埋めをしている最中だ。

――サブプライムローンの周辺だけに問題が止まっていれば、問題はかなり早く収束するということか…。

安斎 住宅バブル崩壊そのものによって信用収縮が起こり、いろんなものの価額が下がっている。このことの打開をしていかなくてはならないだろう。日本も97年頃のアジア危機の最中に、拓銀、山一の倒産等が起こってジャパンプレミアムが発生した。あの当時は、日本の銀行も外貨資金の獲得が非常に難しく、外貨資産を回収せざるを得なかった。その回収はアジアの危機を増幅させてしまった。今、米国で起こっていることは当時の日本と同じことだといえる。流動性供給を盛んにし、住宅に関する証券化商品などで市場取引をしやすいようにしているが、日本も2000年以降、CPや株式買い切りのオペなどを行い、似たようなことをしている。

――米国がより早く立ち直っていくためには、やはり日本と同じように公的資金が必要なのか…。

安斎 そう思う。米国は常に海外からマネーを調達しなければ経常収支の赤字を埋められない国だ。さらに世界一の債務超過国であり、海外からお金を入れて成り立っていた経済だ。そういう国が、このようなロスが出たときのお金の調達を純粋に国内だけでどうにかするには極めて難しく、海外から何らかの形でお金を取り込み、自分たちのリスクマネーにしなければならない。その点で日本への期待は大きいといえる。しかし、ドル安のリスクを抱えており、BIS規制もあるため、日本の金融機関とてそう簡単に出資するわけにはいかないことを考えると、結局、公的資本に頼ることになるであろう。この点、公的資金の使い方も重要なポイントで、最終需要家の借り入れ側に対応するのか、資本として金融機関に注入するのか…。日本でも公的資金投入の議論になったときに、「金融機関の自己責任ではないか」 という意見が出て、公的資金の注入が遅れてしまった。その間、一方で政府が景気対策として行っていたことは国債大量発行による公共事業だった。

――注入が遅れたことで不良債権が拡大した…。

安斎 市場経済において失敗は必ず起こる。完璧なものではない。その失敗が連鎖的にならないように、公がストップをかけ、介入を行わなければならない。そして、再生したらできるだけ早く手を引く。目の前に起こった市場経済の失敗である癌の部分をできるだけ早く取り除くことが必要だ。公的資金を注入せずに、最終需要サイドに働きかけても、大量の水を砂漠に撒くようなもので何の意味にもならない。

――その点、大統領候補のクリントン氏やマケイン氏から公的資金という言葉はまだ出てきていないようだ…。

安斎 米国の銀行頭取などは、日本の数十倍ぐらいの給料をもらっているはずだ。そうすると、国民から見ればお金を食い散らかした挙句に公的資金で救済など、とんでもないモラルハザードだという反応が出ても仕方がない。しかし救うのは、連鎖的に反応する信用収縮を防ぐためのものであり、経済全体にとって、とても大事な部分だ。市場経済の体制であるお金の流れを回復させる。そのための公的資本と考えなければならないのだが、そういう意味では、米国はまだ議論は成熟していないのだろう。その点でバーナンキFRB議長は大変な負担を強いられており、その対応に追われているようだ。これが全て実物経済に響いてくるともっと大変なことになるのだが、その時点で初めて国民の理解も得られてくるのではないか。しかし、それにしても日本よりはスピーディーな終結に向かっていると思われる。

――やはり米国は対応が早い…。

安斎 確かに早い。問題の本質をわかっている。何でもそうだが、時価で物事をみるようになると、その時の価値がわかり、現在のロスがいくらになっているかも明快になる。このものの考え方は重要だ。時価会計はうんざりだという人もいるが、そうではない。自分が投資をする際に時価で買い、利回りが算定され、先行きの投資利回りに合う価額まで時価は調整される。今まさに、米国のマーケットはそういう動きになっている。そして、市場の動きは早いが、景気循環面から見てもそんなに早く景気が回復するような状態ではないため、相当この動きは続くのではないかと思われる。その間、米国の需要が落ちるときに新興国の経済がどういう展開になっていくのか。日本経済は、原材料高や急激な円高の影響はあるものの、サブプライムの影響はこれまでのところあまり出てきておらず、それ程悪くはなっていない。輸出はまだそれなりに利益も出ている。こういう状態において、新興国が自らの国内需要で賄いきれなくなる時に米国の景気低迷と重なってしまうのが心配だ。